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物書きひとすじ!時には寄り道、迷ったり、直進したりして、人生は面倒で悲しく楽しくて。

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天女修行のセイ子ちゃん

2019-12-06 13:48:23 | 小説・童話
天女修行のセイ子ちゃん
先生が転校生の手を引いて五年の教室に入って来ました。とても笑顔のかわいい子です。
「お友だちになる星子(セイコ)さんです。
班長の絵里(エリ)ちゃんのとなりの席にしますので、みなさん仲よくしましょうね。」
 クラスのみんなは、拍手で迎えました。
「遠い南の島の沖縄から転校して来た星子です。よろしくおねがいします。」はずかしそうにちょこんと頭を下げました。校庭には、セイ子ちゃんを歓迎してサクラの花びらがひらひらと舞っていました。
 セイ子ちゃんと絵里ちゃんは、すぐに仲良しになりました。
「うちのパパは、とてもきびしくて、バレリーナを目ざしなさいと命令して起きるとすぐに体重をはかり、増えていれば食事をへらされます。一日一度の日もあります。勉強も朝早くから予習をし、帰ればすぐに復習をしなければならないのですよ。成績が悪いとかんかんに怒って強くほっぺをたたきます。」
「まぁそれじゃ地獄のようね。おかぁさんは?」
「黙って涙を流しています。口出しをすると、ママもたたかれるんです。」
「それはひどいねぇ」
絵里ちゃんの目からは涙があふれて来ました。
「こういう鬼のようなお父さんもいるんだわ。セイ子さんをうちにあずかってもらえないかしら。」
でも、それはむりな話でした。うちには保育園に行っている妹二人と、まだ赤ちゃんの弟がいるからです。
「夏休みには、沖縄に行って来るね。きれいな浜辺の星砂をお土産に持って来るからね」
と、お約束したのですが、セイ子ちゃんは、それからは学校に姿を見せないのです。
ある夜、絵里ちゃんはセイ子ちゃんの夢を見ました。
「まぁ、久しぶりね。沖縄からは、いつ帰って来たの?」
「沖縄には行かなかったの。今は極楽で天女になるお勉強をしています。」
「極楽?この前、あなたとお寺に行ったときに見た地獄絵の所?」
「そうよ。私は極楽にいるの。パパに殺されてしまったの。」
「えっ!」
おどろいた絵里ちゃんに、セイ子さんは、だまってうなずくと、スウーッと姿を消してしまいました。
この前、お寺の和尚さんが、地獄・極楽のお話をして下さいました。
「悪いことをすると大きな釜に入れられてお湯でゆでられたり、首を切られて血の海地獄に落とされたりする。だから決して悪いことをしてはなりませんぞ。
よい行いをすれば閻魔さまが極楽に必ず行かせてくださるからね。」
☆閻魔さまはセイ子ちゃんがいじめられているのを鏡でごらんになり
「ううむ。やさしい子をいじめ殺すとはむごいことじゃ。これでも人の子の親であろうか。血の池・釜ゆで・針の山などで、つらい目に合わせなさい。」
と涙を流して、地獄の鬼たちに命じました。
絵里ちゃんがお布団でうつらうつらしていると
「こんばんは。」
セイ子ちゃんの声です。
そうっと目を開けると枕もとにセイ子ちゃんがいました。
「まぁ、しばらくね。あなたは本当に極楽に行ってしまったの?」
「えぇ、そうよ。地獄の入り口の三ずの川の賽(さい)の河原で子どもたちは、両親のしあわせを祈って小石を自分の背の高さまで積むのですが、意地悪な鬼たちがやって来てはこわしてしまいます。私も泣く泣く小石を積んでいたら観世音さまが、極楽の天女さまをお呼びになりました。すると美しい音楽のしらべに乗って、空から天女さまが降りて来ました。」
「お寺の地獄絵の空を舞うおねぇさま?」
「ええ、閻魔さまが天女の修行をしなさいというので、今は歌・踊り・笛太鼓のお稽古をしています。合格すれば、ママと一緒に暮らせるから毎日がんばっているの。」
「がんばってね。私もお祈りしますから。」
「あれっ、もうもどる時間です。」
セイ子ちゃんは、名残りおしそうに天へ上って行きました。絵里ちゃんは、ぐっすり眠りました。
☆「セイ子ちゃん。とてもさびしそうね。」
観世音さまがおたずねになりました。
「いいえ、みなさんがとてもやさしくしてくださいますから、しわわせです。ただママはどうしているか心配です。」
「おかぁさまは、地獄の入り口の三ずの川で、おばばの手伝いをしています。閻魔さまはセイ子さんがとても良い子だから、おかぁさまの罪を軽くしてくださいましたよ。」
「まぁ、よかった。ママにすぐに会えるかなぁ。」
「あなたが、天女の修行をがんばれば、おかぁさまと暮せるよう閻魔さまが、おはからいしてくださいます。」
セイ子ちゃんの顔が急にお空にかかる満月のようにかがやきました。
「でもお父さまはとてもひどい人ですから閻魔さまはお怒りになられ針の山を休まずに歩かせることにしたのです。なまけると赤鬼が鉄棒で力いっぱい背中や腰をたたくので、お許しくだされと泣き叫びながら針の山を一日中歩いています。」
絵里ちゃんは、星を見上げるたびに
「セイ子ちゃんは、きっと沖縄の美しい星砂をおみやげにもどって来る」
と信じています