⑫高円寺ALONE

'95春。僕は就職を機に渋谷アピアで演ることを辞めた。

でも、自分はギター弾きなのだ。会社勤めは食い扶持稼ぐ為。あくまで軸足は音楽にある。少し様子を見て休むだけ。また再開するさ.......と思いながら。

一方、彼は変わらず精力的にライブを演っていた。渋谷アピアと四谷コタン、このふたつの場所で毎月、または隔月交代でのオンステージ。

その夜のラスト曲を歌う前に

立って歌う塩川を観たい方はアピアへ来て下さい。

座って歌う塩川を観たい方はコタンヘ来て下さい。

......もう観たくないという方は、最後の曲です♪

というMCをやっていたのはこの頃だったか....。

僕はいつも彼に注目してきたつもりだったが、いま思い返すに、暫く彼のライブを観に行けていない時期もあったのだなと。

と思ったのは、今回の投稿を書くにあたり、彼が渋谷アピアに出なくなった頃の記憶が、全くないと気付いたから。

あるのは、

ゲンさんのこと覚えてる？そう、井上博之さん。今、アピアから独立して高円寺のライブハウスでオーナーやってるんだ。俺は今そっちで弾いていて....

という会話をしたこと。 彼が井上さんの音響、照明演出の下、高円寺アローンのステージに立ち始めてからしばらくしてからのことだった。

『お！覚えてるよ君のこと』初めてアローンの塩川を観に行った時、受付で井上さんに声をかけられた。アピアで対バンさせてもらったりPAで音を作ってもらっていた時の井上さんより30センチは短髪になっていた。そんな僕もアピア時代より40センチは短髪になっていたが。

塩川昇のライブを観終え、店内で飲む。お店の中にはギターも当然ある。

井上さんに何か弾いてみてよと促された。

軽く言われたが家でも全くギターに触れない生活をしていたので面食らう。自信を持って弾ける曲、ないか...頭を検索し、出て来た曲は塩川昇の『ロンリーフライデーナイト』。

バカヤロウ俺の曲じゃねぇか(笑 照れ交じりにおデコ叩かれたので

続けて次は自作の曲「SPACE」を演ってみた。

弾き終わると井上さんがスケジュール表を見ながら

「じゃあ.....8月12日で」

...........？

少し様子を見て休むだけ。また再開するさ.......と思いながら気づけば12年間ライブをやっていなかった人間に、その日から二週間後に演奏をしろ、と？？？

その時は緊張したが

後から思えば、やりたいやりたいと思いながらグダグダと過ごしていた自分の背中を押してくれた井上さんには感謝しかない。

そしてもうひとつ。

塩川昇は『人と、ひとを、引き合わせる』んだなぁということ。

この人は本当に HUB みたいな人だ。