ノーベルマン

恋愛小説好きな私の著作品を載せてます。
私の日常を書いた日記的な役割もします。

子供警察・後編・その6

2011-05-31 17:51:21 | 小説


 子供警察は朝一から大きなうねりを上げていた。コンビートを含めた数人の容疑者を

乗せた鑑別所への移送車が何者かに襲われた。走行中にいきなり前方から無人のトラッ

クが対向して突っ込んできて衝突し、全身黒ずくめの人物が容疑者たちを解放していっ

たらしい。移送に携わっていた職員3人のうち、運転席にいた1人は衝突によって体が

動かず、容疑者たちの監視役2人はその黒ずくめの人物に銃で撃たれた。3人ともやら

れたため、容疑者は全員が逃亡した。

 事件の内容を聞いて特別刑事課はすぐにティアラによるものだろうと推測した。無人

のトラックを使った犯行はリーフのときのものに重なる。衝突を受けた職員も発砲を受

けた職員も命に別状はないことも住沢さんのときのものに重なる。警察に関わる人間に

は危害も加えるが命を奪うことはしない。おそらく、ティアラによる犯行に間違いない

だろうと踏んだ。

 今回の事件にはこれまでの連続殺人事件と違う点がある。犯人がその姿を見せている

ということだ。これまでの事件では犯人は一切目撃をされてない。なのに、今回は正体

は隠しているものの姿をはっきりと見せている。これはどういうことだ。誰か共犯者が

いるのか。いや、このスムーズな犯行の進行はティアラ本人としていいだろう。それに、

共犯者だとしたら共犯者にだけ姿を現させることをするだろうか。仲間への絆を見せて

きたティアラがそんな計画を立てるだろうか。絶対ではないがその線は薄い気がする。

これまでに映ってきた印象からはその感覚はどうも受けつけられない。なら、ティアラ

はどうしてこれまで完璧にこちらに映させてこなかった姿を見せたんだろうか。あまり

に尻尾も捕まえられない警察にヒントでも出そうという余裕の行動なのか、何かそうす

べき理由のある変化なのか。

 とにかく事件を突き詰めていく必要がある。被害を受けた職員の治療を待って詳しい

事件の状況を聞き、コンビートを含めた容疑者たちを捕まえなければならない。こちら

の仮説が正しいのなら、コンビートとティアラの関係は確実なものとなる。コンビート

を捕まえればそこからティアラへ繋がる道を開けるかもしれない。

 対策会議が終わるとほぼ同時に特別刑事課の電話が鳴り、壷巳が対応する。特に気に

はとめずに捜査に入ろうとしていたがその応対の言葉に違和感が伴う。他のメンバーも

同じように壷巳の言葉に耳を向けていく。どこか緊張しているような探り探りの言葉を

選んでいる。いくつかのやりとりを終えると壷巳は「正代さん」と受話器を差し出して

口を開く。

 「今朝の事件の犯人です」

 その言葉に部屋全体が一瞬にして張りつめたものに覆われた。ただ、その言葉の真意

が掴めない。

 「どういうことだ」

 「分かりません。でも、そう言ってます」

 正代さんは壷巳から受話器を受けとる。目が強いものになっている。もしかしたら、

そう思うと高揚する思いは素直に体にとどろいていく。それは部屋にいる誰もが同じだ

った。

 「もしもし」

 「・・・・・・正代さんですか」

 相手の声は部屋中に響いていた。おそらく壷巳がうまいタイミングで全員に聞こえる

ようにスピーカーの設定にしてくれたのだろう。しかし、その相手の声は加工をされた

ものだった。細工の施された機械的な声になっており、相手の実態の芯の部分に探りこ

めない。

 「そうだ」

 「・・・・・・初めまして。お話しできてうれしいです」

 「誰だ」

 「・・・・・・さっき言ったはずですけど」

 「今朝の事件の犯人、か」

 「はい」

 一つ一つに間がとられた余裕のある感じだ。

 「それじゃあ信じられないな。何か証拠でもあるのか」

 正代さんが揺さぶりをかける。

 「・・・・・・証拠も何もないでしょう。事実なんだから」

 落ち着いている。動揺の仕掛けに乗ってこない。それに、正代さんはどう対応するか

巡らせていく。

 「なら、君が犯人ということにしよう。どうしてあんなことをしたんだ」

 「・・・・・・仲間を守るため」

 「仲間というのはコンビートのことか」

 「・・・・・・そうですね」

 いやにあっさりと認めた。ということはこの声の主が誰かということが鮮明になって

いく。こちらの思う通りならこれは今までに類がない接近になる。すぐそこにその声が

ある。

 「お前は・・・・・・ティアラか」

 今ここにいる全員の心の声を正代さんが言葉にした。体が引き締まり、神経が研ぎ澄

まされる。



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子供警察・後編・その5

2011-05-30 16:49:12 | 小説


 晴れた空を動いていく雲を眺めている。澄んだ空を健康的な色をした雲がゆっくりと

自由に漂っていく様は見ていて羨ましいものだった。自分もあんなふうに生きられたら

どんなに幸せだろう。いや、自分だけじゃなく世界中の人たちが。あんなに穏やかに時

間を忘れるほど流れるように毎日を過ごせるなんて理想系だ。現実があまりにもひどく

苦しいものだからその思いはより強く胸を締めつけていく。こんなに素敵な空があるの

に地はいつも悲しさを帯びている。正解を知っているはずなのにほとんどの人間が愚か

に曲がった道を選んでいる。もういい。今日でそれも終わる。明日からは苦しまなくて

いい。

 ねぇ、どうして地はあの空のようにいれないのかな。

 どうして人間は地を汚すことをしてしまうのかな。

 どうして人間は他人の心より自分の心を優先してしまうのかな。

 どうして人間は正義の心を持ってるのに悪の心に走ってしまうのかな。

 どうして正義はいつも悪の陰に隠されてしまうのかな。

 どうして正義をいつまでも掲げていられないのかな。

 どうして平和を願ってるのに正義を突き通せないのかな。

 どうして平和へ回り道しか出来ないのかな。

 誰もその正解を教えてくれなかった。もう限界だ。自分で答えを作りに行くことにす

るよ。

 空は今日を温かく見守ることにしてくれたみたいだ。ありがとう。さぁ、平和への一

歩を踏みだそう。

 ゆっくりとぎこちなく空に笑った。緊張に心が振れている。掴んで優しく宥めたいぐ

らいに。もう何人もこの手にかけてきたのに言うことを聞いてくれない。ずっと思い描

いてきた日をやっと迎えられた高揚感に苛まれていく。今日が終わる頃には全ての結果

が出ている。どうなっているだろうか。明日もこうやって空に向かって笑っていられる

だろうか。

 そう思いを馳せているうちに時は近づいてくる。先の方に敵の姿が見えてきた。仲間

を奪い、長く辛い拘束をした悪。警察という名の悪だ。あなたたちにこっちの仲間を奪

う権利なんてない。正義を貫いた人間を罰する権利なんてない。だから、こっちに返し

てもらうよ。

 エンジンをかけておいた大型トラックのアクセルに錘を乗せ、敵に向けて急速発車さ

せた。無人の車は加速を続け、目標に目掛けて一直線に進んでいく。相手の車内の慌て

だす様は遠方からでもぼんやりと見られた。もう遅い。突き刺さるように馬鹿大きな衝

撃音とともに車同士が正面衝突し、相手の車は後方へ大きく進んだ。日常にありえない

状態が起こる中で静けさが再びやってくる。この時間にこの場所に交通が無いに等しい

ことは調べてある。

 衝突の一連の様子を眺め、大したことはないだろうと判断して近づいていく。側にな

ってくると慎重に窺いながら敵の状況を見る。車の運転席にいる敵は体をかろうじて動

かせるほどの状態でいた。思った範疇の被害とできるだろう。別に殺すつもりはないか

ら。あなたたち自身に罪はない。ただ、仲間の拘束に関わってる時点で敵ではある。警

察に関わってる時点で敵ではある。よって、計画の邪魔にならないように死なない程度

に痛い目に遭ってもらう。相手の車を過ぎていく中で運転席にいる敵と視線があった。

こっちは全身黒ずくめでフルフェイスのヘルメットまでかぶってるから理解に迷う表情

を相手はしていた。そのまま車の後方にまわり、扉を開けると中には数人の拘束者と2

人の監視役がいた。床に転がっていたり、痛む箇所を手で押さえていたりしている。衝

突の被害はそこそこのようで全員の視線がすぐにこちらへ向いた。敏感に反応して「誰

だ」と勇んだ監視役を2人続けて銃で撃つ。肩先にしておいたから死にはしない。うる

さい蚊を黙らせるだけのこと。いきなりの発砲で他の拘束者たちは身を竦ませていた。

その中から奥の方に膝で立っていた仲間を見つけると自然と心は緩んだ。近づいていく

と初めは警戒の目をしていたけれどヘルメットのシールドを開けると仲間であることを

分かってくれたみたいで解けた。

 「行こう、コンビート」

 柔らかく勇ましくなるように言葉をかけて右手を差し出した。目の前のコンビートも

右手を合わせてくれた。力強くその手を引いて体を起こすとそのまま車外へ飛び出し、

その場を走り去っていく。繋がっている手を通して心も繋がり合えてるような気がして

安らげた。



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子供警察・後編・その4

2011-05-29 17:01:16 | 小説


 自宅に着いたのは23時を過ぎたころだった。部屋に荷物と上着を置き、明かりのあ

るリビングへ行く。そこには妹がいたがいつもならある言葉ばかりの「おかえりぃ」と

いう声がないのに違和感をおぼえる。

 その訳はすぐに分かりえた。妹はリビングでテレビを見ていた。いつものようにのん

びりとじゃなく目を奪われるようになっている。画面に映っているのは時間柄ともいえ

るニュース番組、キャスターが今日の全国や全世界で起こった出来事を報道している。

今現在流れているのは百貨店の月別売上が前年度を下回ったというものだったがすぐに

ピンときた。

 ここに帰ってくるまでに妹にはどう説明しようかを考えていた。妹にとっては命の恩

人でももう10年以上も前のことだ。当時まだ幼稚園児だった妹は事件そのもののこと

は強く憶えていたとしても警官の名前まで憶えているかは疑問だった。その後に墓参り

で会ったが数年前のことだし、そのときにも彼の名前までは発してなかったと思う。筑

城刑事の存在は認識してても名前は把握していないのかもしれない。そうだとしたら無

理にこんな悲しい事件を知らせたくはないと思っていた。黙っていられるのなら黙って

いようとしていた。

 でも、今そこにいる妹の様子は明らかにそれじゃない。こちらの願いはあっさりと手

元を擦り抜けていった。妹は報道で今回の事件を知り、彼の死を認識している。なら、

こちらもそれについて何も言わないわけにはいかない。どう言うかは決めていなかった

ので言葉の選択に迷う。

 そのうちに妹の顔がこちらへ静かに向く。なんとも言えない表情だった。そのまま言

葉はなく少しの間が生じる。視線が合ったまま、緊張感ともいえる空気がゆらゆら流れ

ていく。

 「あの人って・・・・・・あの人?」

 静かに重みのある言葉だった。妹の中で不自然に処理されたであろう言葉だったがそ

の意味するものははっきりと伝わった。むしろ、その不自然さによってより重みが増し

ているように感じた。

 「あぁ」

 どう返せばいいかを考えた結果、普通にした。いろいろな選択肢を考えてはいたけれ

どいざ妹を目の前にすると変に曲がった言葉にすることは止めた。それが適していると

判断した。

 「どうして」

 またささやくほど静かなのに重い言葉が来た。その返答を考える頭の中には今度は曲

がった言葉しか並んでこない。普通にあったままを話すわけにはいかない。銃で何発も

撃たれた、怨恨によるものかもしれないなんて言ったら両親の事件がすぐに想起されて

しまうだろう。

 「分からない。麻布署の人たちが調べてくれてる」

 ごまかした。答えを先送りにした返事でしかないけれど今はこれが最も無難なんじゃ

ないかとした。後々で答えを求められたら、そのときの捜査の進展次第で同様にしてい

けばいい。

 妹はこちらの返事に納得したのかどうか分からない不定な表情のまま自分の部屋へと

戻っていった。この場を切り抜けた安堵感も嘘をついた微妙な思いにやられていく。そ

れを打ち消すように、これでいいんだと自分自身に言い聞かせる。もう妹にあんな思い

をさせられない、それを守っていくのは他ではない自分なんだと強く心に刻みつけてい

く。



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子供警察・後編・その3

2011-05-28 17:06:22 | 小説


 詳しいことはよく分からないままに彼の配属されている麻布署へと向かった。正直、

ニュースだけでは彼に起こった事件を受け入れるだけの情報にはならなかった。一体、

何が彼にあったのか。それを知りたかった。

 麻布署へ到着すると刑事課の大床への面会の希望を伝える。今からこちらに来るとい

う返事を聞き、しばらくエントランスで待つことになった。事件のせいか夜そこそこの

時間でも往来する人の数や活気が感じられる。その様を眺めながら署内の内観に何気な

く視線を配らせていく。刑事として来たのは初めてだったが懐かしさが自然とあった。

ここには10年以上前に数回訪れていたから。麻布署には父親が勤めており、近くに小

さいころ家族で住んでいた家もあった。両親の事件があったときはここに世話になり、

同僚の刑事の人たちも父親への惜別の念も込めての捜査をしてくれていた。なので、こ

こには少なからずの思いがある。

 「よぉ、久しぶりだな」

 「しばらくです」

 数年ぶりの再会を表情を緩めて懐かしむ。大床は父親の生存時の上司だ。当時は父親

と同じ少年課だったが今は刑事課で指揮をとっている。当時の少年課の刑事の人たちに

は通夜や葬式のときに面識があり、特に大床には温かい言葉を掛けてもらったのを覚え

ている。その後にも命日の墓参りに行ったときに一度だけ会ったことがあり、刑事にな

った報告をしたことがある。

 「ちゃんとやってんのか、刑事」

 「まぁ、なんとか」

 「ったく、刑事になるって聞いたときは驚いたけどな。なにも親父と同じ道を歩くこ

ともないのに」

 「おかげさまで今は特別刑事課にいます」

 「本当か、やるじゃねぇか」

 大らかな大床との会話に気持ちが和らいだ。最近の張りつめていた思いが少し解れて

安らいだ。大床は今日の事件も担当しているらしいが「ちょうど小休憩しようとしてた

んだよ」と時間をとってくれた。

 「そんで、用事は今回の事か」

 「はい。さっきニュースを見て気になって」

 事件の被害者である筑城晃昭も両親の事件のときに葬式に来てくれた一人だった。た

だ、彼は父親の同僚ではなかった。彼は当時は麻布署の管轄内にある交番に勤務してい

た警官で両親の事件のときに通報から現場に一番に駆けつけた人物だった。残念ながら

彼が来たときには現場は惨劇と化してしまっていたが妹にまだ息があることを発見して

くれた。妹の命の恩人と言っても過言ではなく、彼がたまたま現場から近くにいたこと

には感謝がしきれない。

 「今回の事件については本当に残念だ。あいつもここの刑事になってお前の親父さん

と同じように少年課に配属されて頑張ってたんだけどな。まさか、親父さんと同じよう

に銃で殺されちまうとは」

 その無念さは同じだった。彼にも一度だけ両親の墓参りに行ったときに偶然会ったこ

とがあり、そのとき「すいませんでした」と強い言葉とともに頭を下げられたのが印象

に残っている。あなたのせいなんかじゃありません、妹を救ってくれて感謝しています

と伝えたけれど、そこまで彼の心を苦しめてしまっているのが申し訳なかった。まだ警

官になりたてだった若さゆえ、おそらくあれが初めて目にした刺激的な場面だったんだ

ろう。

 「事件はどういう状況だったんですか」

 「通報があったのは昼前ごろだ。第一発見者が会社の倉庫に探し物に行ったときに遺

体が見つけられた。殺害は昨夜のうち、遺体には数発の撃たれた跡があって怨恨の関係

によるものじゃないかと考えている。筑城とその会社に接点が見当たらないのと周囲に

全く事件性を感じさせる形跡がなかったことからあらかじめ別の場所で殺されて運ばれ

た可能性もある。発見された倉庫は鍵はあったらしいが開けるのにそう難しいものでも

ないらしい」

 「怨恨っていうのは」

 「具体的に何ってわけじゃない。けど、俺らなんざ恨まれる職業だろ。お前の親父し

かりだけどよ」

 その言葉に大いに納得はできた。刑事は多くの事件と関わっていく中で多くの加害者

や被害者やその関係者と接していく。その中で自分たちに悪い思いを抱いている者もそ

れなりにいるだろう。正義の味方と称されることもあるけれど基本的には憎まれ役だ。

いろんな人間の強い思いをぶつけられるのだから全てを受け止めるだけのキャパシティ

なんて持ち合わせちゃいない。受けきれないものもある。それに怒りを憶える相手も中

にはいる。それが感情の線を破り、父親のような事件に発展することだってある。今回

も同じ例によるものかもしれない。自分もその紙一重の中でやっているのかもしれない、

そう思わされた。

 事件に関するそれ以上の詳細はなかった。殺害現場と発見現場が違う可能性もあるこ

ともあり、詳しいところに迫れるだけの証拠は残っていなかったようだ。理由を得るこ

とはできず、署を後にした。



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子供警察・後編・その2

2011-05-27 16:37:48 | 小説


 翌日も朝からコンビートの取り調べは続けられていく。ただ、今日がそれもリミット

になる。願わくば今日コンビートに全てを喋ってもらいたい。だが、これまでに動じる

気配のなかった相手にそれを望むのは正直こちらに都合のよすぎる考え方だ。悔しいが

可能性は低いのが現実だろう。

 こうしてる間にもティアラは次の犯行へと動きだしているかもしれない。このままだ

と事件が起こってから詳細を知ることになってしまう。ますます相手の思うツボになる

だけだ。

 しかし、今朝の対策会議で一つの変化が頭脳班から提示された。ボルト・フロム・ブ

ルーの掲示板に一昨日から投稿がなくなっている。今までは対象が事件に遭った参加者

からスレッドを立てることがなくなり、対象が存在していた参加者はその日の辛いもの

を掲示板に吐きだすためにスレッドを立てて、それに対してレスもきちんと来ていた。

それがクライスの対象が事件に遭った一昨日からピタリと更新が途絶えている。掲示板

の参加者たち全員の対象がいなくなったのだから全員書くことがなくなったということ

なんだろうけど投稿がないことに対する書きこみがあってもいいはずだ。毎日必ずいく

つかのスレッドが立ち、それに対するレスが集まり、それぞれがそれぞれを仲間として

いたのだからこんな状況になったら普通は不安になるんじゃないだろうか。こちらは一

連の事件がティアラによるものだろうと見ているが彼ら彼女らは違う。少なくともメン

バーとの直接の関係性はないと聞きこみのときに言ってきている。なら、この現象は不

可解だ。

 対応策を話し合い、明日に実績班のメンバーが再び参加者たちのところへ話を聞きに

行くこととなった。可能性は低いがコンビートが口を割ったときにすぐに動けるように

今日はここで待機することとされた。

 そんなこちらの思いは正確に嫌な方向へと進んでいく。取り調べは通常のように進行

し、我慢比べの時間がただただ流れていった。その時間が過ぎていくほど相手の思惑の

通りになっていく。何もない平行線になっていること自体が向こうに有利の状態といえ

る。なんとかしたい気は痛いほどあるがこちらにはコンビートの口を割らす決定打がな

かった。

 夜の取り調べの終了時間を迎えるとコンビートは何の表情の変化もなく部屋を後にし

ていった。逆に、部屋に残された正代さんと井角さんや隣の部屋から眺めていた特別刑

事課の面々は深いため息を次々についていく。口を割らなかったコンビートの勝利とい

うよりも口を割らせられなかった子供警察の敗北という形の方が正しいだろう。それに

コンビートはジッと堪えていればよかった状況を作りだしたティアラへの敗北という形

にもしてみれる。犯行の完全性によって証拠を集められず、こういう結果になったのだ

から。

 これでこちら側の最大の攻めどころがなくなった。今後の状況次第でまた話を聞くこ

とは可能だろうが相手を攻められるだけの捜査の進展がなければ今日までと同じ状態に

なるだけだろう。相手が欠点を出すのを望む展開ではなく積極的に動いていく捜査をす

る必要がある。

 気の定まらないままに特別刑事課へ戻ると全員が落胆したようにそれぞれのデスクで

沈んでいく。但見課長からは「また明日から気合いを入れなおすぞ」と鼓舞する言葉が

掛けられたがそれでも腰が重すぎて椅子に張りついたようになっていた。

 そのまましばらく部屋の中央にある大型ビジョンを見ていた。画面に映されているの

はニュース番組。全国さまざまな場所で起こっているさまざまな事件や事故が報道され

ている。そのどれもが他人事のような感覚だった。自分が今、子供警察の特別刑事課の

刑事でいることを置いてただの一視聴者として映像を目に映しているような感覚になっ

ていた。

 そのとき、自分自身が停止したようになった。流れを目で追っていただけの映像の中

に見覚えのある名前があり、一瞬にして現実へ呼び起こされた。その名前があってはい

けない場面で映されていることを認識するのに時間はいらなかった。大型ビジョンから

伝えられていたニュースはここからそう遠くないところで起こった殺人事件の様子だっ

た。被害者は何者からか発砲されて死んでいる状態で企業倉庫の中で倒れており、倉庫

で作業にあたっていた社員によって発見された。その被害者が筑城晃昭、強い係わりの

ある刑事だった。



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子供警察・後編・その1

2011-05-26 17:54:19 | 小説


 翌日は埼玉から戻った薬師川さんも加わり、朝から対策会議が行われた。久しぶりに

全員が特別刑事課に揃ったと言いたいところだが住沢さんの姿は当然ない。傷を負った

左肩以外は問題はないようだけどまだまだ当分は復帰できそうにない。

 連続殺人事件を通してのティアラという人物は計画的で確実な犯行をこなす人間に映

っている。他人の命をかえりみない冷徹な人間ともしたいが、掲示板で出会った傷を抱

えた仲間たちのために手をくだしたことと任務遂行に関係のない者には被害が及ばない

ようにしていることを含めるとそう判別はしがたい。ティアラが手をくだしたのは他人

の心の痛みを分からずに自分勝手の過ぎた行動をした者たちだ。もしかするとティアラ

は誰よりも他人の心を分かっているのかもしれない。その感受性が強すぎたためにこう

いう行動に至ってしまったのかもしれない。だとしたら、そこらで起きている少年犯罪

の凶気とは違う。むしろ正義ではないだろうか。

 そこまで考えたところでそれを打ち消した。もしもそれがそうだとしてもティアラの

やったことは許されることじゃない。根源を消すことが最良の選択とはいえない。他の

方法がもっとあったはずだ。それを考えずにあっさりと線を断ち切ったことは安易とせ

ざるをえない。

 とはいえ、ティアラを捕まえる有力な情報は何もないのが現状だ。ここまでの完全に

近い犯行に警察は後手に回るだけになっている。ここから逮捕まで繋げるのは難しいの

が正直なところだ。そもそも、ティアラという人物さえ不透明ともいえる。掲示板の参

加者の誰かが犯行用に作ったものではないかとも考えたが全員がいくつかの事件には必

ずアリバイが存在している。参加者の全員の共同による犯行ではないかとも考えたがリ

ーフの事件に関しては全員のアリバイが存在していた。よって、やはりティアラという

人物の存在を認めざるをえない。

 ティアラとは一体どんな人物なのか。仲間のためなら犯罪にも手を染める情の熱さ、

怒りを向けた相手には命さえも奪う情けの無さ、極端な性格を備えている。年齢は掲示

板のやりとりでは参加者たちと同世代であるように書かれているが実際どうなのかは不

明だ。

 「そして、これからの展望だ」

 対策会議は正代さんと井角さんを中心にこれまでの事件を振り返りながら要点をまと

めていくものだった。一つ一つの事件の詳細に心を突かれていくようになる。それが一

通り終わると次の展開についての話へ移っていく。

 「この先の展開として予測されるのは2つ。まずはこれで連続殺人事件が終わるとい

うことだ。昨日のクライスの対象の事件で掲示板の参加者たちを苦しめる者たちへの犯

行は終わった。これによって犯行は終息するかもしれない」

 そうなってくれれば望ましい。これ以上の犯行が起こらないこと、犠牲が出ないこと

は現時点での最善だ。

 「もう一つはまだ連続殺人事件が続くということだ。ティアラは掲示板の参加者たち

の苦しみを取りのぞいてきたがまだ考えられることがある。それはティアラ自身の対象

だ。仲間と同じようにティアラにも苦しみを与える者がいて、それに制裁を加えようと

してくる可能性は充分ある」

 それはこれまでに頭の隅に疑問としてあったものだった。ティアラもあの掲示板の参

加者の一人。なら、ティアラ当人にも他の仲間たちにしたように手をくだす対象がいる

んじゃないだろうかと。ただ、そこはこれまで具体的に挙がってはこなかった。掲示板

を見るかぎり、ティアラの苦しみの種は社会。不正なことばかりが乱立して成り立つ今

の世の中への不満に衝動を起こさせている。それは把握できていたがこれだけでは漠然

としすぎている。他の参加者たちのようにこれという人物は明記されてないので捜査の

線上に乗ってくることはなかった。「社会」という括りではあまりにも大きすぎてどう

しようもない。だが、ここまでくるとそこも流してはおけなくなる。ティアラの次の狙

いとして注目する必要が出てくる。

 そうはいっても現段階では捜査の勝手が難しい。「社会」というところからティアラ

の目的を絞りだすのは困難でしかない。特定の人物なのか、それとももっと大規模なも

のなのか。考えを巡らせようにも情報が少なすぎる。だからといって立ち止まってもい

られない。畳みかけるように続いた犯行が次にも続けられるかもしれない。解明へと進

んでいかなければならない。

 対策会議が終わり、向かった先は取調室。正代さんと井角さんが中へ入り、薬師川さ

んと金井と自分が隣の部屋に入る。しばらくして取調室に入ってきたのはコンビート。

ティアラの情報を握っているであろう彼がこちらにとっては最大の攻めどころだった。

ただ、彼はいまだに口を割ることをしない。ティアラの犯行を伝えていくたびに不気味

ともいえる笑みを浮かべていくがこちらの聞きたいところに関してはダンマリを通す。

そんなやりとりももう先は長くない。明後日にコンビートはここを離れることになる。

留置期限を迎えるため、今日と明日しか時間はない。その先も機会は設けられるかもし

れないが確実に取れる時間はこの2日しかない。彼が実際にどこまで知ってるかは分か

らないがこちらの持っていない情報を持ってるのは確実なはずだ。それをなんとか炙り

だしたい。

 朝から夜まで休憩をはさみながらの数時間の取り調べをマジックミラー越しにできる

かぎり目にしていた。もう20日間近くも毎日この状態を続けてるため、その3人によ

る狭い空間は出来上がっていた。正代さんと井角さんの攻め方もコンビートの応じ方も

慣れの段階に至っている。何十回、何百回と同じ質問をしてるのだからそうもなってく

るだろう。本当なら無理にでも聞きだしたいところだけど強引にいって吐くタイプでは

ない。

 結局、数時間の取り調べで進展はなかった。コンビートは2人の言葉に特に反応を示

さず、いつかのようにこの狭い部屋の先を透かすように遠くを見ているだけだった。乱

れた瞳で空を映しているだけだった。

 長時間の取り調べを終えた正代さんと井角さんには疲労が見えた。これを20日間近

くもやってるのかと思うだけで気が滅入りそうになる。それ以外にも、頭脳班のメンバ

ーもこれまでの事件から新たな発見を見つけるべく資料や情報やデータと日々たたかっ

ている。その中で実績班のメンバーは歯痒い思いになっていた。事件による証拠が少な

く、ティアラについても不明すぎて足を動かす仕事が出てこない。取り調べの様子を眺

めている時間の多さに気が詰まった。



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子供警察・登場人物

2011-05-26 17:40:17 | 小説


  成宮保裕・なりみややすひろ(特別刑事課、過去に事件でトラウマを抱えている)

  金井睦美・かないむつみ(特別刑事課、成宮と同期、あっさりした性格)

  成宮心・なりみやこころ(成宮保裕の妹、兄と同じ事件でトラウマを抱えている)

  正代豪多・しょうだいごうた(特別刑事課、リーダーとして全体をまとめる)

  薬師川芹南・やくしがわせりな(特別刑事課、自分のスタイルを強く持っている)

  住沢義弥・すみさわよしや(特別刑事課、人間味のある頼れる兄貴肌)

  井角・いのかど(特別刑事課、正代とともにリーダーとして全体をまとめる)

  根門・ねかど(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)

  六乃・ろくの(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)

  壷巳・つぼみ(特別刑事課、成宮と同期、頭脳班として事件に向かっている)

  但見・たじみ(特別刑事課課長)

  筑城晃昭・ちくしろてるあき(麻布警察署少年課、成宮と過去に事件で接点がある)

  大床・おおゆか(麻布警察署刑事課、成宮と過去に事件で接点がある)

  鍋坂・なべさか(子供警察署長)



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4月クールの連ドラ・初回視聴率

2011-05-22 17:17:43 | 日記


今回は私の趣味の一つ、ドラマの話題を。

4月クールの連続ドラマの初回視聴率を。

1位・JIN -仁-・23.7%

2位・遺留捜査・17.0%

3位・幸せになろうよ・16.4%

4位・BOSS・16.3%

5位・リバウンド・14.3%

6位・高校生レストラン・13.1%

7位・ハンチョウ・13.0%

8位・おみやさん・11.6%

8位・マルモのおきて・11.6%

10位・生まれる・11.2%


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