ノーベルマン

恋愛小説好きな私の著作品を載せてます。
私の日常を書いた日記的な役割もします。

子供警察・後編・その1

2011-05-26 17:54:19 | 小説


 翌日は埼玉から戻った薬師川さんも加わり、朝から対策会議が行われた。久しぶりに

全員が特別刑事課に揃ったと言いたいところだが住沢さんの姿は当然ない。傷を負った

左肩以外は問題はないようだけどまだまだ当分は復帰できそうにない。

 連続殺人事件を通してのティアラという人物は計画的で確実な犯行をこなす人間に映

っている。他人の命をかえりみない冷徹な人間ともしたいが、掲示板で出会った傷を抱

えた仲間たちのために手をくだしたことと任務遂行に関係のない者には被害が及ばない

ようにしていることを含めるとそう判別はしがたい。ティアラが手をくだしたのは他人

の心の痛みを分からずに自分勝手の過ぎた行動をした者たちだ。もしかするとティアラ

は誰よりも他人の心を分かっているのかもしれない。その感受性が強すぎたためにこう

いう行動に至ってしまったのかもしれない。だとしたら、そこらで起きている少年犯罪

の凶気とは違う。むしろ正義ではないだろうか。

 そこまで考えたところでそれを打ち消した。もしもそれがそうだとしてもティアラの

やったことは許されることじゃない。根源を消すことが最良の選択とはいえない。他の

方法がもっとあったはずだ。それを考えずにあっさりと線を断ち切ったことは安易とせ

ざるをえない。

 とはいえ、ティアラを捕まえる有力な情報は何もないのが現状だ。ここまでの完全に

近い犯行に警察は後手に回るだけになっている。ここから逮捕まで繋げるのは難しいの

が正直なところだ。そもそも、ティアラという人物さえ不透明ともいえる。掲示板の参

加者の誰かが犯行用に作ったものではないかとも考えたが全員がいくつかの事件には必

ずアリバイが存在している。参加者の全員の共同による犯行ではないかとも考えたがリ

ーフの事件に関しては全員のアリバイが存在していた。よって、やはりティアラという

人物の存在を認めざるをえない。

 ティアラとは一体どんな人物なのか。仲間のためなら犯罪にも手を染める情の熱さ、

怒りを向けた相手には命さえも奪う情けの無さ、極端な性格を備えている。年齢は掲示

板のやりとりでは参加者たちと同世代であるように書かれているが実際どうなのかは不

明だ。

 「そして、これからの展望だ」

 対策会議は正代さんと井角さんを中心にこれまでの事件を振り返りながら要点をまと

めていくものだった。一つ一つの事件の詳細に心を突かれていくようになる。それが一

通り終わると次の展開についての話へ移っていく。

 「この先の展開として予測されるのは2つ。まずはこれで連続殺人事件が終わるとい

うことだ。昨日のクライスの対象の事件で掲示板の参加者たちを苦しめる者たちへの犯

行は終わった。これによって犯行は終息するかもしれない」

 そうなってくれれば望ましい。これ以上の犯行が起こらないこと、犠牲が出ないこと

は現時点での最善だ。

 「もう一つはまだ連続殺人事件が続くということだ。ティアラは掲示板の参加者たち

の苦しみを取りのぞいてきたがまだ考えられることがある。それはティアラ自身の対象

だ。仲間と同じようにティアラにも苦しみを与える者がいて、それに制裁を加えようと

してくる可能性は充分ある」

 それはこれまでに頭の隅に疑問としてあったものだった。ティアラもあの掲示板の参

加者の一人。なら、ティアラ当人にも他の仲間たちにしたように手をくだす対象がいる

んじゃないだろうかと。ただ、そこはこれまで具体的に挙がってはこなかった。掲示板

を見るかぎり、ティアラの苦しみの種は社会。不正なことばかりが乱立して成り立つ今

の世の中への不満に衝動を起こさせている。それは把握できていたがこれだけでは漠然

としすぎている。他の参加者たちのようにこれという人物は明記されてないので捜査の

線上に乗ってくることはなかった。「社会」という括りではあまりにも大きすぎてどう

しようもない。だが、ここまでくるとそこも流してはおけなくなる。ティアラの次の狙

いとして注目する必要が出てくる。

 そうはいっても現段階では捜査の勝手が難しい。「社会」というところからティアラ

の目的を絞りだすのは困難でしかない。特定の人物なのか、それとももっと大規模なも

のなのか。考えを巡らせようにも情報が少なすぎる。だからといって立ち止まってもい

られない。畳みかけるように続いた犯行が次にも続けられるかもしれない。解明へと進

んでいかなければならない。

 対策会議が終わり、向かった先は取調室。正代さんと井角さんが中へ入り、薬師川さ

んと金井と自分が隣の部屋に入る。しばらくして取調室に入ってきたのはコンビート。

ティアラの情報を握っているであろう彼がこちらにとっては最大の攻めどころだった。

ただ、彼はいまだに口を割ることをしない。ティアラの犯行を伝えていくたびに不気味

ともいえる笑みを浮かべていくがこちらの聞きたいところに関してはダンマリを通す。

そんなやりとりももう先は長くない。明後日にコンビートはここを離れることになる。

留置期限を迎えるため、今日と明日しか時間はない。その先も機会は設けられるかもし

れないが確実に取れる時間はこの2日しかない。彼が実際にどこまで知ってるかは分か

らないがこちらの持っていない情報を持ってるのは確実なはずだ。それをなんとか炙り

だしたい。

 朝から夜まで休憩をはさみながらの数時間の取り調べをマジックミラー越しにできる

かぎり目にしていた。もう20日間近くも毎日この状態を続けてるため、その3人によ

る狭い空間は出来上がっていた。正代さんと井角さんの攻め方もコンビートの応じ方も

慣れの段階に至っている。何十回、何百回と同じ質問をしてるのだからそうもなってく

るだろう。本当なら無理にでも聞きだしたいところだけど強引にいって吐くタイプでは

ない。

 結局、数時間の取り調べで進展はなかった。コンビートは2人の言葉に特に反応を示

さず、いつかのようにこの狭い部屋の先を透かすように遠くを見ているだけだった。乱

れた瞳で空を映しているだけだった。

 長時間の取り調べを終えた正代さんと井角さんには疲労が見えた。これを20日間近

くもやってるのかと思うだけで気が滅入りそうになる。それ以外にも、頭脳班のメンバ

ーもこれまでの事件から新たな発見を見つけるべく資料や情報やデータと日々たたかっ

ている。その中で実績班のメンバーは歯痒い思いになっていた。事件による証拠が少な

く、ティアラについても不明すぎて足を動かす仕事が出てこない。取り調べの様子を眺

めている時間の多さに気が詰まった。



「ノーベルマン」HP
http://www.musictvprogram.com/novel.html

子供警察・登場人物

2011-05-26 17:40:17 | 小説


  成宮保裕・なりみややすひろ(特別刑事課、過去に事件でトラウマを抱えている)

  金井睦美・かないむつみ(特別刑事課、成宮と同期、あっさりした性格)

  成宮心・なりみやこころ(成宮保裕の妹、兄と同じ事件でトラウマを抱えている)

  正代豪多・しょうだいごうた(特別刑事課、リーダーとして全体をまとめる)

  薬師川芹南・やくしがわせりな(特別刑事課、自分のスタイルを強く持っている)

  住沢義弥・すみさわよしや(特別刑事課、人間味のある頼れる兄貴肌)

  井角・いのかど(特別刑事課、正代とともにリーダーとして全体をまとめる)

  根門・ねかど(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)

  六乃・ろくの(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)

  壷巳・つぼみ(特別刑事課、成宮と同期、頭脳班として事件に向かっている)

  但見・たじみ(特別刑事課課長)

  筑城晃昭・ちくしろてるあき(麻布警察署少年課、成宮と過去に事件で接点がある)

  大床・おおゆか(麻布警察署刑事課、成宮と過去に事件で接点がある)

  鍋坂・なべさか(子供警察署長)



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