ノーベルマン

恋愛小説好きな私の著作品を載せてます。
私の日常を書いた日記的な役割もします。

キス・2の4

2011-02-07 17:16:38 | 小説


 7月22日の夜中、浜森信枝の頭。

 「潤ちゃん、会社クビになったって。さっきまで愚痴きいてて、今かえってきた。例

のように荒れてたよ。明日、退職願を出しに行くって。なんか声かけてあげて。呑んで

るからもう寝る」

 そろそろ寝ようかと思ってたときに来たメールは雅からだった。友達のクビをいやに

あっさりと伝えている。まぁ、数回目にもなるから慣れたもんなんだろう。証拠に、私

もさほど驚きがない。またやったか、っていう程度。

 携帯を閉じると自然と深い息をついた。あっさりと受けとめたわりに潤の危機的状況

に重なる部分があった。潤は不器用なやつだけど、そういうやつは本当に捨てらていく

んだなっていう容赦ない現実。それについて会社側を非難するつもりはない。会社だっ

て生き残りをかけて必死なんだからしょうがない。きっと潤だってそこは分かってる。

心底うらんでなんかいないだろう。私だって就職してたら同じ目にあってるかもしれな

いし、そこに怯えるような毎日を過ごしてると思う。

 社会への適応性が低い潤に対して私はどこか冷めた印象がある。もっとうまくやれよ、

だらしないなぁ、そう思うことがある。

 ただ、それ以上に応援もしている。私はその舞台にも立ったことがないから。

 大卒のときに私は一つも内定を取れなかった。一応それなりの数は受けたし、適応性

って面でいえばまぁまぁぐらいはある。一つぐらいはいけるだろう、そこに入ればいい

だろう、それが油断だったのかもしれない。私には必死さがなかった。正直、周りにい

る人たちからはビシビシそれを感じられた。でも、私にはなかった。それまでをなんと

なく生きてきた私にはスーツできめて社会人として背筋をのばす自分像が浮かんでこな

かった。それが会社側にも伝わったんだろう。こんなやる気のない人間に手を上げてく

れる情けのあるところは現代にはない。

 だから、潤のことは素直に誇らしい。内定を取って会社員になったってだけで私より

上だ。内定を取れなかったショックで今のスーパーのバイトに落ち着いた私なんかより

全然上だ。

 それだけじゃなく、潤はクビになってもまた次に挑戦していく。そんな気力すら浮か

んでこない私にはうらやましいぐらいだ。向こうは男でこっちは女っていうのもあるん

だけど。

 なんだか空しくなってくるよ。とりあえず、今日のところは寝よう。

 潤にもなんか言ってやんないとなぁ。



「ノーベルマン」HP
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