等と書きますと大仰なタイトルですけれど、それ程鯱張った事を書く訳ではあません。
有り体に言ってしまえば時代劇の悪役について、です。
私は子供の頃から俗に言う「月9」の類が性に合わず、影の軍団や必殺仕事人や江戸の用心棒等を好んで視聴していました。頭が悪く根本的な誠実さに欠ける他人の惚れた腫れたを10回以上に渡ってダラダラと見せつけられても退屈なだけ、それよりも基本的に一話できっちりと完結する時代劇に心惹かれていた訳です。
さて、時代劇の華と言えば悪役です。悪役こそは主人公を引き立て話を動かす張本人、その器量によって作品の優劣が決定されると申し上げても過言ではありません。無論、同一作品内においてもほぼ毎回悪役というのは斬り殺されて変わってしまうのですけれど、悪の器の大きさという観点から見た場合、作品毎に朧気なアウトラインが浮かび上がってくるのです。時代劇は星の数、挙げればきりがありませんので、此処では誰もが御存知の有名な三作品、「水戸黄門」「遠山の金さん」「暴れん坊将軍」を題材として見て行きます。
まず、時代劇界でも屈指のヘタれ悪役といえば「水戸黄門」シリーズの連中です。
こいつらは基本的に地方の代官クラスですし、やっている悪事も「地元の極道一家と結託して名産品の独占供給を狙う」程度の可愛い代物で、田舎娘を手込めにしようと試みても大抵未遂に終わってしまう詰めの甘さ。そして何よりも、たかだか「前の副将軍」程度に縮み上がり抵抗を放棄して観念してしまうという中途半端極まりない連中です。こいつらは悪と名乗るのも烏滸がましいゴミクズ、問題外と言えましょう。
これよりかなりマシなのが、「遠山の金さん」シリーズの悪役。
下は夜盗から上は奉行クラスまで幅広い悪党が揃っていますが、彼等は非常に図太く傲慢であり、其処が悪役としての大きな魅力になっています。
「遠山の金さん」は他の時代劇同様、基本的なフォーマットは毎回同じなのですけれど、そのテンプレートの一つにこのような物があります。
1・御白州で叫く悪党共。台詞は大抵、「オレ達がやったっていう証拠を出しやがれ」系
2・その回のヒロインが、はっと気が付いて「そうだ、金さん。遊び人の金さんが全て見ていました!」
3・せせら笑う悪党共。「へっ。それならその金さんってヤツを此処に連れてこいや?」
4・調子に乗る悪党共。「そうだそうだ、金さんを出せ金さんを!」
此処までは、まず毎回一緒。ここから分岐するのですけれど……まず一つは、
5・調子に乗りまくる悪党の首魁。「証人の金さんが居ないんじゃ話にならない、手前共は帰らせて頂きますよ」
というパターン。直後に
6・金さんが怒って正体を明かし、首魁は市中引き廻しの上打ち首獄門、余の者終生遠島を申しつけられる。奉行クラスの悪党には後ほど評定所より切腹の沙汰
になります。まぁコレはこれで素敵なのですが、私が好きなのはもう一方のパターンです。それは
・調子に乗りまくる悪党の首魁。「御奉行、全てはその金さんが仕組んだ事に御座います」
……す、素敵すぎます。こいつらがやっている悪事というのは、材木問屋と火付盗賊改が組んで江戸の町に放火して材木の値段を吊り上げるとか、回船問屋と勘定奉行が組んで抜け荷でボロ儲けとか、そういったレベルの事なのに。それら全てを、遊び人の金さんが仕組んだと言い切る図々しさ!ここまでやれば大したものです。まぁ、結局
6・金さんが怒って正体を明かし、首魁は市中引き廻しの上打ち首獄門、余の者終生遠島を申しつけられる。奉行クラスの悪党には後ほど評定所より切腹の沙汰
になるという結末は不動なのですけれどね。
そして、最高級の悪役が「暴れん坊将軍」シリーズの連中です。
彼等はそもそも他の時代劇の悪党連中とは地位が違います。下は若年寄、上は尾張大納言まで兎に角地位も権力も兼ね備えた大物揃い、手を染める悪事も幕府転覆や江戸城爆破など、桁が違うものばかり。
無論彼等も毎回吉宗に成敗される事に変わりは無いのですけれど、流石に田舎代官等とは異なり、悪の矜持を見せつけてくれます。
「暴れん坊将軍」クライマックスのテンプレートは
1・悪党が屋敷で宴会を開き、我が世の春を謳歌
2・突然響き渡るエコーのかかった吉宗ヴォイス。「そなた達の企みも今宵限りだ」系
3・驚く悪党。「何ヤツだっ、何処から入り込んだこの田舎侍が」
4・メンチ切る吉宗。「たわけ。余の顔見忘れたか」
5・ビビりまくる悪党。とりあえず平伏。
6・高圧的に命じる吉宗。「そなたの悪行断じて許せぬ。潔く腹を切れ」
という感じなのですが、無論これで終わったりしません。上様に命じられたくらいで大人しく腹を切るような腑抜けは、「暴れん坊将軍」の悪党の中には一人も存在しないのです。毎回毎回、尽く吉宗を睨みつけて悪足掻きを見せてくれるのですけれど……この時の台詞こそが、彼等の真骨頂と言えましょう。
7・「かくなる上は、上様に冥途の道連れになって頂く。お手向かい致しますぞ!」
なんていうのは、まだ可愛い方です。大抵は
7・「くっくっく……されど此処で死ねば上様とて一介の素浪人。お命頂戴仕る!」
等と叫んで手下を呼び寄せます。手下に対しては
8・「この者は上様の名を騙る不届き者である!斬り捨てい!!」
と、きちんと斬る為の理由付けもしてやるという気遣いも忘れません。
しかし。彼等はまだ、思いきりが足りません。「暴れん坊将軍」シリーズの真の悪党はこう叫ぶのです。
7・「くっくっく……誰が腹など切るものか。えぇい者共、上様でも構わぬ、斬って捨てよ!」
……。
す、素晴らしい。相手を本物の将軍だと認めた上で、配下の者にも隠さず知らせた上で、それでも公然と叛逆して見せる。こんな事、そう簡単には出来ません。配下の連中にしても相手が将軍と知りながら刃を向けたりしたならば、我が身は切腹、御家は断絶、一族郎党は良くて島流しは避けられないところ。それでも彼等は吉宗に斬りかかって行くのですから、悪党の人望恐るべし、です。
と、まぁこのように一概に悪党と言っても様々であり、単なるゲスから誇り高い者まで色々存在します。
格好良く生きたい、というのが私の望みですので、水戸黄門の悪役のような腑抜けにならぬよう、「上様でも構わぬ、斬って捨てる!」と言えるよう、頑張りたいと願う日々です。