世界の詩最新事情

毎月1回原則として第3土曜日に世界の最新の詩を紹介いたします。アジア、ラテンアメリカ、中国語圏、欧米の4つに分け紹介。

第12回 ロランド・カターン(Roland Kattan)―ホンジュラス― 細野 豊/宮下 和大/久保 恵/ホエル・サン=マルティン

2018-03-04 13:11:52 | 日記
ロランド・カターン(Roland Kattan)
ホンジュラスの首都テグシガルパ出身、1979年生。ホンジュラス言語学会会員。詩集として2004年『アリの巣探検』、2013年『時計屋詩集』、2014年『未確認動物』、2016年『文章行為』、『パイナップルの樹』など。


詩集『未確認動物』より

ピーター・バラビー

ピーター・バラビーは今でも
地球儀を手作りで製作する英国の
職人で、
この種の職人としては
最後のものたちの一人である。


エル・パイス紙
2013年5月1日


私の仕事も口上詠みや切れた街灯のように
もはや無用のものだ

ピーター・バラビーが北海を水彩絵の具で描くのを考えると
本屋の悲しみを感じる

街角でアコーディオンを奏でている男の憂愁

何度本を読みにカフェに立ち寄ったか?
生命の樹からいくつの果実を切り取ったか?
私の計算では訪れたことのあるスーパーが図書館よりも多い

ヒマラヤの雪を描く男の悲しみを今日は感じる
キリバスを旅したかった私
私が望んだのはモンテーホのようにアイスランドを知るための地図を折ること
死んだと思われている仕事の中についに信仰を取り戻すこと

そして世界を最も小さくすること
最も小さく静かに

(翻訳:宮下 和大)

※モンテーホ
ベネズエラの詩人エウヘニオ・モンテーホ(1938-2008)の詩に「アイスランド」がある。



今日ぼくの足はあまりにも重い

今日ぼくの足はあまりにも重いので
一歩踏み出すごとに
− 首まで土に埋もれて −
もはや空が唯一の地平線だ

今日僕の足はあまりにも重いので
足跡のかわりに
墓穴を残していく

(翻訳:久保 恵)


キリバス

キリバスは太平洋の真ん中にある島で
三十三の珊瑚環礁と一つの火山島(バナバ環礁)から成っている
とウイキペディアには書かれている
いつもわたしはその島について
キリバスへの架空の旅と題するような詩を書きたいと思っていた
しかしキリバスはもはや未来の島ではない
二〇一一年以来地球上で最後にカレンダーをめくる
島になってしまった
以前は最初にめくる島だったのに
わたしが望んでいたのは実際の人生より一日先を行くこと
わたしが死なないように死ぬ日にキリバスへ旅すること
年明け早々女に愛していると言う最初の男になることだった
昨日わたしは子どもだったわたしに会うため未来へ旅し
ビー玉を袋の中へしまうように あと二十四時間を
わたしがしたいことをするために取っておきたかった
キリバスは突然過去になることを決めてしまったから
わたしはもうキリバスへは行きたくない

(翻訳:細野 豊)


盆栽

盆栽達にとって秋は恐れるに足りない、
それらの木の葉が規則正しく落ち、
動物達に尿をかけられず、
嵐とも無縁である。

彼らにとって暴風と稲妻は伝説に過ぎず、
蠅のことを強暴な大工であるかのように語り、
旱魃を地獄のように遠いものとしてしか思っていない。

彼らは誰にも吐息を吹きかけられないことを知っているので、
どの盆栽も
自分が地上唯一の樹だと思い込んでいる。

(翻訳:ホエル・サン=マルティン)

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