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Local-Liner ~静サツ雑記帳

静岡運転所札幌派出所=静サツへようこそ。
札幌圏の鉄道を軸に、気ままに書き連ねていく日記です。

北海道の鉄道事故

2013年09月24日 | 鉄道 ‐ 北海道
 最近あまりいい話題のないJR北海道。
 当ブログでも、5月6日におきた「スーパーカムイ」脱線事故のときに『どうしたJR北海道』という記事を掲載していますが、現在のJR北海道はどうしたどころの騒ぎではありません。
 まず、車両関係で一番大きなものは、7月6日のキハ183系「北斗14号」のエンジン出火と、7月15日のキハ283系「スーパーおおぞら3号」の配電盤出火です。

『7月6日 特急北斗14号のエンジン付近から出火した事故の概要について』(7月8日発表)

『7月15日発生 特急スーパーおおぞら3号の配電盤から出火したトラブルの原因と対策について』(8月9日発表)

 まず、キハ183系の事故。キハ183系2550・3550番台8両編成「北斗14号」が山崎駅を通過中に、4号車・キハ182-2557のエンジン稼動ランプが消灯。運転士が列車を止め確認すると、エンジンから火が出ていたというものです。

(編成)←函館 キハ183-3566+キハ182-2553+キロ182-2553+キハ182-2557+キハ182-2558+キハ182-2559+キハ182-2552+キハ183-3563
 
 7月8日の発表では、エンジンに穴が開いていたのが原因とされましたが、穴の開いた原因が不明でした。そのためか、直後に「鉄道重大インシデント」に指定され、運輸安全委員会が調査に踏み切りました。その後の調査で、停止まで2km近く油漏れをしていたころがわかりましたが(詳しくは運輸安全委員会の報告書(7月24日発表)参照)、9月現在もエンジンが破損した原因はわかっていません。
 ただ、今年4月の「北斗20号」出火と同じスライジングブロックが破損していたことがわかっています。このブロックは前の事故を受けて交換されたばかりのものでした。

 一方、キハ283系のほうは、新札幌を出た「スーパーおおぞら3号」の3号車・キロ282-2の配電盤から焦げ臭いにおいがするのを車掌が気づき開けたところ、配電盤内でショートしているのを発見。直ちに西の里信号場(上野幌~北広島にある複線待避の信号場。JR九州の大宰府信号場と同じタイプ)に停車させたものです。
 原因は、キロ282-2に設置されていたエアコンの配電盤の接触不良から生じたものとJR北海道は発表しています。二箇所ある室外送風機につながるコードが接触するところで、2つを固定していたビスが緩み抵抗が増加(接触面積減少)したためだとされています。
 これらの事故を受け、キハ183系を使用する特急のうち、2550番台・3550番台の車両を使用する「北斗」全列車と「サロベツ」が運休。キハ283系を使用する「スーパーおおぞら」は2往復減便という、かつてない非常対策が採られました。7月・8月の北海道は観光シーズン真っ只中なため、観光客の足に大きく影響しました。普段は苗穂に眠るキハ183系初期車(0番台・200番台など)や、「クリスタルエクスプレス」などのジョイフルトレインまでを動員して、臨時「北斗」に充てました。

 なお、このすぐ後、7月22日にも、キハ261系1000番台「スーパーとかち」からも出火する事故がありました(JR北海道からプレスリリースがないため、MSN産経ニュースから引用)。この事故ではエンジンの排気弁が故障。エンジンの内圧が高まり爆発したためとされています。
 キハ281系を除く全てのディーゼル特急で何かしらの事故が起こっていることになります。特に、キハ261系1000番台は2006年から183系に代わって運行を始めた、JR北海道最新鋭のディーゼル特急です。原因は車両よりもむしろ、整備側にあると思われます。

 整備不良と思われる謎の事故は他にも起きています。7月29日に近文発旭川行きのキハ40(?)形普通列車が旭川駅直前でATSが誤作動を起こし停車。8月3日と7日には納内と手稲でブレーキが解除できなくなるトラブルが相次いで起きています。細かいものまで書いていたらきりがありません。
 事故は車両関係だけではありません。8月の大雨では函館本線で線路が2度も流されて、お盆の時期にもかかわらず運行ができなくなりました。9月には15日に落雷で千歳線がストップ。21日には大沼駅でレールが曲がり貨物列車が脱線を起こしています。もはやまとめるのさえ面倒になるレベルで多発しています。

 で。
 一番ひどいのが『ヒト』に関わる二件です。
 7月30日、JR北海道の運転士が覚せい剤を使用したとして逮捕されました。覚せい剤と言うだけでも悪質ですが、覚せい剤を使用した上で(しかも自覚をした上で)運転していた可能性があるとされています(MSN産経ニュースより)。
 もう一件は、9月7日におきたATS破壊事件です。そもそもの始まりは、手稲にある札幌運転所から「北斗星」となる編成が回送される際、重連のDD51のうち後ろの車両のATSが切られていなかったために急停車したことでした。これだけだったらただのミスとして処理されるでしょうが、運転士はATSを無断で切っただけではなく、なんとATSをハンマーで破壊。車両故障に見せかけたのです。東室蘭駅で交代した別の運転士が函館駅で入換作業を行うまで気づかれませんでした(詳細はプレスリリース『運転士がATS(自動列車停止装置)のスイッチを損壊した件について』(9月17日)へ)

 ここまで立て続けに事故が起こると、もはや何も言うことができません。人間が動かすのですからミスがあるのはしょうがないとしても、あまりにも多すぎ/大きすぎます。
 国土交通省もこの異常事態に重い腰を上げ、整備体制には磐石と言ってもいい体制を持つJR東日本から指導要員を派遣するよう要請をしました(7月25日・MSN産経ニュース)……が、その後も続く事故に憤慨し、ついに直接手を出すこととなりました(9月24日)。

 えーと…………JR北海道は何してんですかね?
 この中でわからなくはないと思える事故はキハ183系ぐらいです。キハ183系のエンジンはDML30HZ(550番台以降のキハ182の場合)なのですが、実は前回の『広裕と結那の鉄道相談室(第2回)』で図らず取り上げたキハ181系のエンジンの改良型なんです。あちらでも書いたようにキハ181系は高出力故の排熱が問題で、勾配のきつい板谷峠などで車両故障を起こしています。原因はエンジンのオーバーヒートなのですが、120㎞/hないし130㎞/hで高速運転をするJR北海道もほぼ同負荷といえるでしょう(キハ181系は95㎞/h前提。ただし四国では120㎞/hをしている)。最新車両でも既に23年が経過。メインとなる550番台は27年が経過しているので、無理がたたったと考えればそうおかしな話でもありません。むしろ高速運転改造(550番台・1550番台→2550番台・3550番台)したときにブレーキだけ改造してエンジンを変えなかった理由がよくわかりませんが。
 ですが、新製後5,6年の車両も事故を起こしてしまうようではどうしようもありません。ATS異常のあった旭川駅も、2010年に高架新線になったばっかですし。ましてや、人災どころか人そのものの事故を起こしています。5月の時はまだ楽観的な文章を書いてきましたが、ここまで事故が多くては道民でも乗るのをためらうレベルです。実際、JRグループのお盆の時期の利用者は他が増加傾向にある中で、北海道だけが大きく数字を下げています(前年比74%。『夏季期間ご利用状況のお知らせ』)。

 鉄道の代わりになる交通手段はバスと飛行機です。
 広大な北海道では多数のバスが走っていますが、北海道全体に路線もつ会社はなく、例えば旭川地区なら道北バス、北見地域なら北海道北見バス、といったように地域ごとにまとまっています。一番版図が広い北海道中央バスでさえ、石狩・空知・後志地域(子会社含む)にとどまっています。そもそも人口の希薄な北海道のことなので路線バスは少数です。
 北海道のバスネットワークは、札幌駅ターミナルと中央バス札幌ターミナル(大通/バスセンター駅付近)を中心とした高速バス網がメインになっています。北は稚内、東は知床、南は函館、西は積丹まで、北海道全域と繋がっています。近郊区間では本数が多く、札幌~小樽の場合は最大で5分おきと路線バス並です。JRと競合する便では、帯広便でも10便/日、網走便で9便/日も走っています。網走は「オホーツク」が4往復あるだけで、本数では比較になりません。
 しかし、バスには致命的な欠陥があります。一便当たりの乗客が少ないのです。4列シートでも50人弱。夜行便の3列シートでは40人以下になってしまいます。日常の北海道ではまったく問題がない(むしろ適正)のですが、観光客がこの中に流れ込んでくると話は別です。お金のない地方バス会社はギリギリの数しかバスを用意していないため、増便は厳しい状態にあります。ほぼすべての高速バスで(共同)運行する北海道中央バスなら融通が利くでしょうが、運行する本数も多いので限界があります。
 一番問題なのは、車両の面ではなく運転の面です。ことに長距離バスに関しては、吹田スキーバス事故や関越道でのツアーバス事故(詳しくはWiki等を参照)以来、運転士の過酷な環境が問題視されてきました。2件ともツアーバス(旅行会社が運行する企画型のバス)の事故でしたが、バス会社が運行する高速バスも苛烈な価格競争の中に巻き込まれ同じような過酷な環境にありました。このため、国土交通省は運転士の新たなガイドラインを作成。1人当たりの運行距離を400㎞までとし、ツアーバスについてもバス事業化(高速バスに一本化)することとしました。
 北海道では北海道中央バスが覇権を握っているためかツアーバスは多くありませんし、運行距離もほとんどが400㎞以内に収まっています(札幌から400㎞を越える主要な町は根室や稚内ぐらい)。しかし、このガイドラインにより運転士に対する制約が大きくなり、増便に大きな壁となりました。運転士の数を急に増やすことはできません。人件費がかかるとなればなおさらです。JRの特急の定員は1本当たりおよそ300人。バスに直せば7台分に相当します。運休した数は1本ではありませんから、バス会社が対応しきれる数ではありません。
 一方、長距離では対抗馬となりそうな飛行機ですが、運賃はおおむねJRの2倍近いため、需要は多くありません。新千歳―女満別と丘珠(札幌)―函館の6往復が最も多く、後は軒並み2~3本というところです。新千歳発着は道内利用というより、羽田など他地域からやってくる人がメインの利用者となります。道内便は主に北海道エアシステム(HAC)と全日空(ANA)[エアーニッポン(ANK)を吸収したため]が運行しています。しかし、HACは道から補助を受けるほどの赤字会社で、ANAは他のドル箱路線の収益でもって運航しているような状態(ANAは本州―北海道直行便が少ないため、新千歳で連絡しているというのもある)です。使用している機材も、HACが36人乗り、ANAでも74人乗りと、やはりJRの代替とはなりえません。

 結局、JRが動かなくなった場合、その分は他の乗り物ではなく、自家用車に流れ着くことになります。ただ、北海道は広いので、『隣の町』まで50㎞というのも珍しくありません。札幌~函館は300㎞ほどありますが、これは東京~豊橋間にも相当する距離です。地元民でもおいそれと行ける距離ではありませんし、観光客ともなればさらに辛い距離です。
 おまけに、北海道は主要国道でも5号線の一部(小樽~札幌)と12号線(札幌~旭川)を除けば2車線です。山道も多く、飛ばす人が少なくないため、交通事故が絶えません。冬の視界と路面の悪さは特に凶悪で、1年の事故の半分以上が冬におきます。車を持てる人の数を考えれば、自家用車移動に移る人はほとんどいないといってもいいでしょう。ちなみに、死亡事故の多くはレンタカーの事故です。

 長々と書いてきましたが、最終的な結論としては、「JR北海道が変わらなければどうしようもない」ということです。
 札幌は、近隣の小樽・江別・北広島などを含めて300万人規模の街を形成しています。この中を走るJR線は、札幌への足としてなくてはならないものです。また、札幌から外へ出る際にも重要な交通手段でもあります。新千歳空港に出るのさえJRは欠かせません。バスと競合していますが、JRは快速エアポートで約40分なのに対し、バスでは札幌ICからの一般道はいつも混んでいるため時間が読めず、1時間以上かかります(所定でも1時間)。バスが勝っているのは運賃ぐらいです(80円安い)。
 観光地として栄えてきた北海道。その交通手段は、青函連絡船時代から鉄道がメインでした。新千歳空港ができてからも、札幌を中心とした特急網がこれをささえてきました。料金が多少かかっても、快適さと速さで観光地の足となっていました。
 度重なる事故は、こうした信頼をそぐ結果となりました。信頼の失墜は、北海道全体の失墜にもつながります。いくら飛行機で北海道に着いたところで、飛行場から移動できなければなにもありません。JRが消えれば、観光地に足を運ぶ人も消えてしまうのです。
 JR北海道では11月から減速運転をして予備車確保をする予定になっていますが、車両ではなく組織を変えていかなければ、北海道全体に未来はありません。今から始めてもおそらく4,5年はかかるでしょうが、果たしてJR北海道は再び北海道の星となれるのか……



〈事故まとめ(前回の記事以降)〉※JR北海道に原因があると思われるもののみをまとめています。枕木が燃えたり大雨で運休になったケースは除きます。

・5月12日 礼文―豊浦で信号がつかなくなり、長万部―洞爺で運休 原因は信号系統の不良
・7月6日 山崎―鷲ノ巣間でキハ183系「北斗14号」でエンジン出火 4月の「北斗20号」と同型
・7月12日 鷲別駅手前を走行中の列車が赤信号に引っかかり停車 その後報告もせず鷲別駅構内に進入 原因は信号無視
・同日 幌別駅に停車予定の785系「すずらん10号」が360メートルオーバーラン 原因は信号無視
・7月15日 新札幌駅を発車したキハ283系「スーパーおおぞら3号」の配電盤から出火 原因は接触不良
・同日 長万部駅で「スーパー北斗9号」が乗客の腕をドアに挟んだまま出発 ドアのセンサーは作動せず
・7月22日 十勝清水―羽帯間を走行中のキハ261系「スーパーとかち1号」のエンジンから白煙が吹き出し、平野川信号場に緊急停車。エンジンからは潤滑油が漏れていた
・7月25日 区間快速『いしかりライナー』が車掌の合図を前に発車
・7月26日 運転士の不注意で普通列車が恵み野駅を通過
・7月28日 「スーパーおおぞら1号」でドアランプに不具合 その場で運転取りやめ
・7月29日 旭川駅でATS誤作動
・7月30日 運転士が覚せい剤使用で逮捕 運転中に使用していた可能性も
・8月3日  納内駅で711系普通列車がブレーキが解除できなくなる その後も速度が上がらず、次の伊納駅で運転取りやめ
・8月7日 手稲を発車した普通列車が20㎞/hから加速できなくなり、運転取りやめ
・同日 白石―厚別間を走行していた789系「スーパーカムイ43号」の台車の空気ばねから空気が漏れる
・8月9日 大雨で長万部―森間が不通
・8月10日 千代ヶ岡―北美瑛間でキハ150普通列車が加速できなくなる
・8月15日 発寒中央駅付近の信号が謎の点滅をおこし抑止 電気系統が故障した模様
・8月17日 大雨で八雲―山越間で線路の土砂が流れ、貨物列車が脱線 9日でも土砂が流失していた
・8月18日 八雲―森間で代行バスを運転し再開するも、接続するはずの臨時特急も東山―姫川で土砂崩れに遭い緊急停車 乗客は雨の中、バスの場所まで30分(2㎞)歩く
・8月22日 北広島駅付近を通過中の「スーパーおおぞら3号」の運転士が異音に気付き停車 原因は不明(バラスト説濃厚)
(・9月3日 JR北海道が減速減便ダイヤを発表)
・9月5日 札幌行「カシオペア」が駒ヶ岳駅と有珠駅の2カ所でATS誤作動 伊達紋別で機関車交換
・9月7日 札幌運転所で「北斗星」を回送していた運転士がミスを隠すためATSをハンマーで壊す
・9月15日 落雷が原因と思われる通信トラブルで千歳線下りが1時間ほど運転見合わせ
・同日 見合わせ区間の島松駅にいた「スーパーとかち2号」に、駅員が無断で発車合図を出す
・9月16日 長万部駅で普通列車から軽油が漏れる
・9月17日 7日のハンマー事件を公表
・9月19日 大沼駅で貨物列車が脱線 レール幅が広がっていたのが原因 認知していながら放置していたことも発覚


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