Local-Liner ~静サツ雑記帳

静岡運転所札幌派出所=静サツへようこそ。
札幌圏の鉄道を軸に、気ままに書き連ねていく日記です。

品川新駅の名前を読み解け!

2018年12月04日 | 鉄道 ‐ 関東
 山手線30番目の駅として開業する予定の品川新駅(仮称)。
 2020年オリンピックを控えての開業、そして西日暮里(1971年開業)以来48年ぶりの山手線新駅ということで、東京をはじめ注目を集めています。
 すでに駅の骨格も大分見えてきましたが、本日仮称のままだった名前が決定したようです。



NHKニュース(「山手線新駅「高輪ゲートウェイ」」12月04日14時07分)より


 誕生した駅の名前は「高輪ゲートウェイ(たかなわ-)」駅
 なんとダサかっこいい名前なんでしょうか。
 応募総数6万4052件のうち、なんと36票も獲得。順位も堂々の130位です。

 高輪とは新駅の西側に広がる地名から。
 耳慣れぬゲートウェイという単語ですが、その答えは先ほどのNHKニュースに隠れています。
 そのまま引用しましょう。

 "国際交流の拠点を目指すことや、この地域には古来より街道が通っていて江戸の玄関口としてにぎわっていたことなどから、「ゲートウェイ」のことばを使った……"

 発表パネルをもつJR東日本の社長・深澤祐二氏もご満悦の新駅名。



 市民のみならず政治家の話題にも踊る新駅。開業が期待されていている証拠ですね。

 世間でも賛否両論が沸き上がって、新駅への期待を膨らませてくれています。TwitterやYahoo!ニュースのコメント欄を見ると、「ダサい」「微妙」という声で溢れていますね(汗)。

 否定論が生じる理由として、過去の事例があります。
 例えば2010年の東北新幹線新青森開業で設定された最速達列車の名前が、「はつかり」が公募1位だったにも関わらず、九州の寝台特急に使われていた「はやぶさ」が採用されました。
 公募しているのに不自然な采配があったと疑われることで、余計な勘ぐりをする余地が生まれているわけです。

 しかしながら、一方で疑問が残ります――ほかの駅名ではだめだったのか?
 投票は大衆の大意を示すものですが、時に民衆の「ノリ」が投票にとんでもない影響を与えることがあります。
 東北新幹線の時も「はつかり」に次いで2位にいたのは「はつね」。初音ミク(VOCALOID)が由来ですが、その理由は新規に投入(当時)されるE5系の色が初音ミクと同じ浅葱色だったからというもの。
 登場以来東北のフラッグシップトレインだった「はつかり」、列車名としては戦後すぐから息づいていた「はやぶさ」に比べれば、その発想は浅はかです。
 もし仮に本当に「はつね」に決まっていたら……想像したくもないですね(笑)

 ですから、選ばれなかったのには、もしかしたら別の理由があったのかもしれません。
 そこで、上位10件が「選ばれなかった」理由を探ることで、品川新駅の真の狙いを暴いてみたいと思います。


 最終的な上位10件は次の通りでした(NHKニュースより)。

○1位・高輪(8398票)
○2位・芝浦(4265票)
○3位・芝浜(3497票)
○4位・新品川(2422票・タイ)
○4位・泉岳寺(2422票・タイ)
○6位・新高輪(1275票)
○7位・港南(1224票)
○8位・高輪泉岳寺(1009票)
○9位・JR泉岳寺(749票)
○10位・品田(635票)


 では、下から見ていきましょう。

○10位・品田(635票)

 今回の新駅は品川~田町間に新設されます。『品』川と『田』町の間だから『品田』。
 なんとも安直ではありませんか
 安直すぎるが故に、ひねりがないと判断されたのでしょう。

 確かに、過去には同じようにして命名された駅もあります。JR東日本管内の国立(『国』分寺~『立』川間・当時西国分寺は未開業)が有名ですね。
 しかし、21世紀を迎えた現在、そんな発想ではやっていけません
 山手線30番目を飾る駅にしては安直というのが理由ですねきっと。


○9位・JR泉岳寺
○8位・高輪泉岳寺
○4位・泉岳寺


 泉岳寺といえば、赤穂浪士が果てた場所として有名です。
 その泉岳寺から海側に向かい、国道15号(第一京浜)とぶつかったところにある駅が、都営浅草線・京急本線の泉岳寺駅です。
 第一京浜のすぐ海側には山手線が走っており、ここに駅を作るなら一見妥当にも見えます。

 しかし、この新駅、泉岳寺に近い「現在の」線路上に作るわけではありません。



 こちらの地図をご覧ください。上の白丸が泉岳寺駅、下の下丸が品川新駅です。

 山手線の駅なのに現在の線路より東側に新駅が建設されているのがお判りでしょうか。
 そう、新駅は泉岳寺から遠いところにできるのです。
 泉岳寺駅から新駅まではそれなりの距離(約300m)があることが分かります。

 そもそもこの新駅は、品川駅北側に広がっていた田町車両センターの跡地を再開発するのに伴い建設されます。
 ここで、田町車両センターの線路は山手線より海側を走る東海道本線上下線の間に挟まれていましたから、そのまま開発すると再開発エリアが線路に挟まれた陸の孤島となってしまいます。
 そこで、再開発に伴って線路を全体的に海側へ移動し、第一京浜側(西側)に空いたスペースが再開発することになったのです。

 300mというと、浅草線大門と山手線浜松町ほどの距離になります。地下通路でつながるというわけでもないので、乗換駅を想起させる駅名はかえって混乱を生じてしまいます
 ここで乗り換えるくらいなら、2つとなりの新橋駅や、件の大門―浜松町(建物を介して接続している)、田町―三田、京急線を介して地上で乗り換えできる品川駅の方がはるかに楽です。

 また、泉岳寺はかつて駅設置時に駅名で裁判になった※という事情があります。
 (※東京高裁平成8年7月24日判決・通称「泉岳寺事件」)
 無用なトラブルを避けるために駅名もそれを避けたと考えるのが自然です。
 記念すべき駅がトラブルに巻き込まれるのはごめん被るというわけですね。

○7位・港南

 みなさん港南といわれてピンときますか?
 多分これがすべての答えだと思います。

 港南は港区の地名で、品川駅から東側の埋め立て地帯一帯を指します。もともと品川駅自体が当時の海岸沿いに建設された駅ですから、品川駅より後に埋め立てられた地域と言い換えることができます。
 近頃話題になった東京入国管理局もこの港南に存在します。
 この辺りはいわば品川駅の裏口に相当する区画で、再開発によってオフィスビルが進出したとはいえ、駅から徒歩圏内に場(東京都中央卸売市場食肉市場)が現在でも稼働するなどやや薄暗い面影が残る地域です。
 その>陰湿なイメージが新駅にふさわしくないと考えたのでしょう。

 また、新駅に停車する京浜東北線※をずっと南に下っていくと、「港南台」駅という紛らわしい名前の駅があります。別の路線ならともかく、同じ路線の乗務員が混乱してしまうかもしれない――そう考えたのでしょう。
 (※正確には根岸線上)

○4位・新品川

 ひとつ飛ばして新品川です。
 「新」をつけただけのシンプルな駅名なので既にあるかとおもいきや、品川と他に名のつく駅は北品川(京急)と品川シーサイド(りんかい線)くらいしかないので被りません。

 しかし、ここに品川と名付けると問題が生じます。

 少し話は脱線しますが、北品川駅は品川駅の南側にあります。これは、「品川」の由来に微妙なずれがあるからです。
 品川はもともと目黒川の別名です。流れが緩やかなため物資、すなわち『品』を乗せた船が行きかう川でした。
 この拠点となったのが河口部にあった品川宿です。品川宿は目黒川の南側(右岸)にあり、東海道一番目の宿として隆盛しました。
 一方、鉄道路線は汽笛一声とともに開業した新橋―桜木町間に、やはり東海道第一番目の駅として開業しました。こちらは目黒川の北側(左岸)に建設されました。
 つまり品川駅は目黒川を、北品川駅は品川宿を由来としたために、こうした逆転現象が起きたのです。

 それを踏まえてこちらの地図を見てみましょう。



 前述の通り、地名の品川(品川区北品川・南品川)は品川駅よりも南にあります。新駅はもっと北で、新駅のあるあたりの地名は高輪(西側)と港南(東側)になっています。
 つまり、新駅に品川に類する地名をつけてしまうと、遠く縁もゆかりもない品川を名乗ることになってしまい、名称詐欺にあたってしまいます。
 昨今はコンプライアンスにことうるさいですから、コンプライアンスの批判を避けるために品川を名乗らせなかったのでしょう。

○3位・芝浜
○2位・芝浦

 
 現在も田町駅西側に残る地名・芝。かつてはここに魚市場があり、東京湾すなわち江戸前でとれた新鮮で豊富な魚介類がここに集められました。芝の場合は将軍家の台所に献上する御菜浦(おさいうら)に指定されていた他、雑魚場(ざこば)として江戸庶民にも親しまれた場所でした。ここで多く上がっていたエビが芝海老です。
 芝の海側は芝浦、陸側を芝浜と呼ばれていました。工業化と埋め立てによって芝は内陸に入りましたが、現在でも海寄りには芝浦の地名が残っています(芝浜は現在の芝4丁目付近)
 近代以降は港南同様工業化と埋め立て拡大・再開発という経緯をたどっていますが、一方で芝自体は古くから親しまれた土地であり、江戸の文化が残る場所でした。
 その芝にあった魚市場を舞台に、飲んだくれの男が改心するまでを描いた落語が「芝浜」です。古典落語の一つですが、現在においても演じられるなど有名な演目の一つです。
 しかしながら、それだけ長くある地名ということは土地のしがらみもまとわりつきます。端的に古臭く見えるのです。
 なにせ今回の新駅は再開発。オリンピックに合わせて建設していることからもわかるように、新しい文化の発信地としての役割が求められます。
 まして、この再開発エリアは「グローバル デフォルトゲートウェイ 品川」(https://www.jreast.co.jp/press/2015/20150817.pdf)として世界に/未来に未来に開かれた一角。決して江戸の一地域にはとどまらないという意思が必要です。
 過去との訣別を図るために、芝を含む地名は使えないという思惑が見え隠れします。

 また、芝浦を含む駅は芝浦ふ頭(ゆりかもめ)があり、新駅と距離があります。


○1位・高輪

 さて、いよいよ第1位の発表。
 高輪は駅の西側にある地名。芝同様古くからある地名ではありますが、白金台・御殿山といった高級住宅街に接するモダンな地区でもあります。
 かつて京急に高輪駅(品川駅西隣、現在のウィング品川)があったもの、現在「高輪駅」は存在しません。
 得票率は13パーセントを占め、2位とはダブルスコアという圧倒的人気を擁しながらも、最後は~ゲートウェイの前に敗れ去りました。
 ある意味では高輪も採用されたということですが、気になるのは「高輪だけではだめだったのか?」というところ。ここまでぴったりで、漢字二文字で圧倒的に呼びやすいにも拘わらず修正が入った理由……

 それはこれまでもあった駅名被りの問題です。

 品川駅西側には都営浅草線の「高輪台」駅。さらに北に向かうと都営三田線の「白銀高輪」駅が存在します。どれも高輪地区には隣接するものの立地がバラバラのため混同が起きるのは必至です。
 面倒なことに品川駅の西口の名前は「高輪口」なので、駅なのか出口なのかでももめごとがおきそうですね。
 ぴったりはまるからこそ、他との区別がつけにくいという悲しい現実です。


 いかがでしたでしょうか。
 上位10件の駅名について、採用されなかった理由について考えてみました。
 公募で圧倒的得票をもってしても、実情にあわなかったり他に不都合が生じたりと一筋縄ではいけないのが駅名の難しいところ。
 ゲートウェイの名のごとく、今後世界に開かれるドアの役目を、新駅が十分に果たしてくれることを期待しています。

 ……






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結論:公募したんだし高輪でいいじゃん


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