驚き振り向いた彼と目があった時、私は思わず駆け出していた。
彼にどうしても伝えたいと思った。
今の私は、死という恐怖の鎖に縛られてはいない。
その理由を、伝えたいと思った。
彼の顔は、もう目の前にあった。
私は立ち止まり、自分より少しだけ背が高い彼と向き合い、疲れが隠せない精気の欠けた瞳を見つめながら話しかけた。
「あ、あの・・・!」
「・・・何、どうかしたの?」
彼は . . . 本文を読む
その涙は、彼の悲惨な事故の現実を慰めるにはあまりにも非力で、無責任なものにさえ思えた。
彼の苦悩の表情に見たのは、生きる者と死んだ者との間ある、どこまでも絶望的に越えがたい壁だった。
昨日まで、あたり前のようにそばにいた人。いっしょにご飯を食べて、家事を分担して、時にはお酒を飲んで、テレビを見ながら笑ったり。夜は寝て。また、朝起きて、互いにおはようと言う。何日も繰り返しながら、特別な . . . 本文を読む