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誰も知らない、ものがたり。

巡りの星 19



 そこは、上下左右の感覚が意味を成さない無重力の空間。
 何処までも続く果ての無い闇の中に、星のような点の煌めきが縦横無尽に数え切れないほど浮かんでいる。その光はゆっくりと揺らめき、闇の空間全体がまるで静かに呼吸をしているかのように見える。 
 ヒカルは今、その光の全てが自分の知性や感覚として、直接つながって感じ取れた。
  
 無数の光の海は、有るところでは互いに引き合い、また別の所では反発し合う様相が見て取れる。
 それらは無数の“情緒”とも言え、あるいは、エネルギーを生み出す極小粒子の海とも言えた。
 つはりは、光の一つひとつはつながり、生きているのだった。
 しかし、光の全てを感じ取ることが出来る今のヒカルにとっては、個々の作用の全ては打ち消し合い、全体で絶対的な一つの不動のものとして、そこにただ在る状態だった。

 ・・・一点を除いては。

 それは、イナダトモヤが次元をまたがってこの光のつながりに生じさせた小さなズレ。
 幾重にも縦横無尽につながり合い、完全に調和する光の海の中に生まれた、一点の偏り。
 それが、イナダトモヤに空いた、“巡り”の穴だった。

 その穴を埋めようとする作用が、穴の周囲に微弱な流れを生み出している。
 今はまだ微かな動きであったとしても、それを放っておくと、いずれは全てを飲み込む渦となり、宇宙そのものが消滅してしまう。

 ヒカルは、今は微弱なその流れを生み出している小さな穴を、自分の心の穴のようにして感じ取ることができた。わずかな騒めきの様な、心のひだとして。

 ヒカルはそのポイントに意識を集中させる。そして、小さな穴の中心点を捉えた瞬間、何処からともなく生み出された光の輪のさざめきが生まれ、徐々に輪を小さくしながらその点に向かって収束していく。

 意識の世界の外では、ヒカルの身体を包んでいる青白い光が、横で寝ているイナダの身体にも広がり、明るさを増していた。

 この時既に、ヒカルとイナダは、一つの青白い光の塊になりつつあった。
 さらに光の強さが増すほどに互いの生命エネルギーと潜在意識の振動数はどんどん高まっていく。
 二人の振動の同調がさらに強い光を加速度的に生み出していった。
 ヒカルとイナダの潜在意識が、求め合い、与え合いながら、共に満たされていく。
 融合の歓喜が激しい渦となって一点に収束していく意識世界の過程が、現実世界のマンションの一室に、強烈な光のまぐわいとして現れていた。
 部屋の窓のカーテン越しに、外にも光が強く漏れ始めた頃には、ヒカルの身体は光となってイナダの身体へと入りはじめる。
 そして、意識世界で光の渦が中心点に収束すると同時に、ヒカルとイナダはも光のピークを迎えて、完全に一つとなった。
 2人の身体と深層意識は細胞よりもずっと細やかな粒子のレベルで、交わった。

 その瞬間を迎えると、突如、光は果てるように消えた。
 ヒカルはその場から消えていた。

 部屋に残ったのは、変わらずに眠り続ける、イナダトモヤ一人だけだった。


…つづく






 
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