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誰も知らない、ものがたり。

巡りの星 83


 唖然とする私を横目に、ヒカルは昇ってきた丘の頂きから見えるおばあちゃんとリンに向かって小走りに駆け出した。
 風がそよいで足元の草花が優しく揺れている中、ヒカルは軽やかな足取りで進んでいく。
 その様子を見たリンは、手を振りながらピョンピョンとその場で元気よく跳ねた。
 青空に浮かぶ太陽の光に照らされた二人の髪の毛が、はらりはらりと踊っている。
 ほどなくヒカルがリンの元にたどり着き、互いの手を合わせて再会を喜ぶ様子が見えると同時に、少し離れたその場所からリンの闊達で高い声が風に運ばれて聞こえてきた。
「ヒカルちん!だいじょーぶだった?またちょっと薄いんじゃない?」
 リンの問いかけに頷いたヒカルの頭を、隣に立ったおばあちゃんが優しくなでながら何か言葉をかけていた。
 どうやら、ヒカルとおばあちゃんも知り合いのようだ。しかも随分と親しい間柄に見える。
 今時分が巡りの穴の中にいることなどすっかり忘れるくらいのどやかな光景に、しばし見とれる自分がいた。 

「おーい、トモヤー!何やってるの、早くこっちおいでよ!」
 リンに遠くから呼びかけられ我に返った私も慌てて3人のもとに駆け寄った。

「おばあちゃん、リンも、どうしてここに?」私は近づきながら二人の顔を見て、思わずそう聞いた。
 
 するとおばあちゃんはニコニコと笑いながらリンと顔を一度合わせて、こちらに向かって言った。
「あら、トモくん、それは違うでしょ、私たちがここまで案内したんじゃない、ふふふ」

「あっ」私はすぐさま二匹の蝶々を思い出した。やっぱりそうだったんだ。
「そうだよ、あたしたちがいなかったら今頃は奈落の底に落ちてたかもよ」リンがいたずらっぽく言う。

「ヒカルちゃんもよかったわね、ここまで無事これて」
 おばあちゃんがヒカルに向かって言った。
「どうなることかと思ったけど、ひとまずよかった。…でもここからが本番」
 ヒカルがそういうと、おばあちゃんもリンも急に神妙な面持ちになって頷いた。
 そして、リンは私の方に顔を向けて真顔で言う。
「宇宙の運命は、トモヤにかかってる」

 リンのその言葉と合わせるように、ヒカルも、おばあちゃんも静かに私の顔を見た。
「…全然わからないけど、やっぱりそうなんだよね」私はもうすっかり、そのプレッシャーから逃れようとすることを諦めていた。
 太陽と月が同時に見えたあの道で、数え切れないほどの先祖の想念の流れを胸に受け止めてから、何だかいい意味で力が腹が据わった自分がいる気がする。
「教えて、俺は何をすればいい?」私は3人の顔を見ながら言った。

 そんな私の様子を満足そうに見て、おばあちゃんは頷いた。
 そして、リンは自分の背後を振り返りながら、腕を伸ばし指を差した。
 私はリンの指の先に向かって目を凝らす。
 すると、おばあちゃんとリンに追いついたこの場所から、更に少し先に進んだところに小さな石造りの小屋のようなものが見えた。
 ここからではよく見えないが、石灰質の石で作られた小屋だろうか。白い壁が明るい陽に照らされている。

「あの小屋は?」漠然とした私の問いかけに、リンではなく、ヒカルが答える。
「あそこにいるのね。どちらかのアサダさんが…」
「どちらかのアサダさん?」

・・・つづく
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