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酒造コンサルタント白上公久の酒応援談 

日本文化の一翼を担い世界に誇るべき日本酒(清酒)および焼酎の発展を希求し、造り方と美味さの関係を探究する専門家のブログ。

農口さん2

2010-03-10 16:56:20 | 総合
 農口杜氏さんの酒造りは当に全身全霊を込めたものですが、自慢の酒ができても決して自分の品質意見を押し付けない謙虚さがファンを引き付けて止まない酒を造り続けられるのでしょう。本年の造りで77歳になり引退もあることを匂わせておられましたが、本年の造りに自信が持て消耗した体力気力が蘇れば来造りには元気に姿を蔵に見せられるでしょう。日本酒は米の酒です。米は八十八ですから88歳までを次の目標に頑張っていただきたいものです。

下戸上戸
 農口さんは下戸だそうである。少しのきき酒で顔が赤くなり動きも怪しく足に来ているようにも見えました。酒造りにはきき酒能力は非常に大切です。酒の鑑定能力は上戸と下戸どちらが向いているかといえば、どちらもというのが答えだと思います。経験的に感じたことは、下戸というか普段酒を飲まない人は判別能力に優れています。たとえば、きき酒会のきき当てテストにいい成績を収めるのは女性が多いことがあります。私も精緻さを求められる鑑定をするときは1週間ほどは節酒します。体内に酒が残っているとどうもよくありません。上戸はきき当てが駄目ということではありませんが酒飲みの好きな多く飲めるタイプの選別目的のきき酒にはうってつけです。甘口や吟醸香の嫌いなうわばみは多いのです。

薄口から濃口
 農口さんは「濃い口」と読めます。今、造られている酒は濃い(コク、酷)があるのに切れが良い(どっかで聞いたことがあるフレーズ)わけで名前通りです。若いころは東海地方で淡麗といえば聞こえがいいが薄い酒を造られていたそうです。それが地元の石川県に戻って杜氏をしたところ薄いと酷評され、それで発奮され今の酒造りに繋がったとのことでした。

淡麗か濃醇か
 昭和50年ころまで日本酒は甘い酒で甘さを競っていましたが、開高健の日本酒の三増酒甘口批判以降辛口化し、級別制度の廃止とも相まっていわゆる淡麗辛口ブームになって行きました。淡麗辛口のピークはバブル時代でしょうか。最近は淡麗辛口ということばはあまり聞かなくなってきました。ここ10年は濃醇化が芽生え進行しています。濃醇といっても単に濃い(何が濃い?甘さも濃醇です。)だけでは消費者の心を掴めません。甘酸バランスのとれた豊かな香りのあるかつ切れの良い酒が求められています。農口さんはその先駆けでしょう。


農口杜氏さん

2010-03-03 10:19:13 | 総合
 日本酒の杜氏として農口(のぐち)尚彦氏は超有名人です。名を知ったのは今から20何年も前です。菊姫という銘酒を作り上げた名杜氏です。この人が来る3月9日(火)午後10時から放送のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」に登場します。まだお会いしたことはありませんが酒を飲んでみればその腕前のすごさが分かります。どんなことが話されるか、仕事の様子はどうか番組をいまから期待しています。放送予定の案内記事の転載は認められていませんのでNHKオンラインでご覧ください。

接点1
 農口さんは能登杜氏四天皇の親分格であるとその昔聞きました。その四天皇の内の一人で弟子に当たる人が杜氏(惜しくも昨年お亡くなりになりました。哀悼。)を勤める蔵(静岡県の有名地酒蔵)の造りを25、6年前に見ました。丁度吟醸麹が室に入っており、その時の印象は今でもよく覚えています。作業は棚に盛った直後でした。なんと世間常識とかけ離れた温度管理だったのです。その杜氏さんはろくに説明しませんし、私も聞きません。感想は”それでもできるんだ”ということです。なお、この杜氏さんと濃口さんとはやり方が違うとは聞いていましたが間接的に接したということも言えます。
 追申 常識とかけ離れた麹作りに質問をしなかった理由は私には心の師匠と呼べる名杜氏さんがいてたった2日ですが麹作りの酒造りの真髄を教わったからです。この両者の考え方を取り入れた普通麹作りを財団法人日本醸造協会発行の「酒造教本」に書いておきました。なお、あまりにも革新的な書き方をすると受け入れられないということでオブラートにくるんで書きました。

接点2
 昭和60年代か平成に入ってからか覚えていませんがNHKの往く年来る年という番組で菊姫の蔵を中継放送していました。大晦日気もタンクにはもろみがはいっており大写しになったもろみのツラを見てこれはすごいいいもろみだと感心しました。吟醸香が漂ってきそうな大玉のツラでした。これに比べ最近のもろみは吟醸造りとしては溶けすぎ気味です。

接点3
 今から7年ほど前地方の居酒屋で日本酒リストをみると何と濃口さんが現在勤める蔵の本醸造が一番安く出ているのにビックリして注文したところ案に相違せず素晴らしい味でした。すごく儲かった幸せな気分でした。NHKで放送されると値段がはね上がるかも知れませんが品質に応じて評価されることは望むところです。

造りはやってみないと分かりません

2010-02-22 23:39:54 | 総合
 1麹、2もと、3造りは日本酒造りの重要な順番を言い表した言葉であることは少し酒造りをかじった人には聞いたことがあると思います。確かに麹が悪ければ良いもとももろみもできません。しかし、この言葉は過去のものでしょう。難しい順に並べると1造り、2麹、3もとです。麹ともとはそんなに難しいものではありません。なぜかと言えば造り方や条件を守り多少の経験と注意深い観察眼があれば誰にでもできます。つまり製造の管理が容易いのです。
 造りが最も難しい理由はもろみの中で起こっている現象が複雑で結果の予測が困難なことにあります。良い酒を造るには良い麹と良いもとが必要ですがそれだけでは不十分なのです。何が必要か?。仕込み配合は目安になりますが不十分です。原料米及び酵母の特性の知見、仕込み温度、温度管理のデータベース。まだまだ不十分です。目的通りの成分、品質の酒を得るには液化糖化発酵のバランスを管理することですが実はやってみなけばどうなるか分からないのです。液化糖化発酵のバランスを管理するにはもろみの温度管理、追い水がありますが簡単ではありません。追い水は普通発酵が遅れ液化糖化に比べバランスを欠いているときに行われますが意図したとおりにならない場合もあります。なにより酒の味が薄くなり平凡な酒になります。追い水は悪魔の囁きなのでおいそれと耳を貸してはいけません。追い水を多用するようになれば悪魔の術中に陥ります。ご用心。

好天

2009-11-04 22:45:40 | 総合
11月らしい良い陽気。まさに小春日和。
東京の奥に行きました。

すごく高い石垣

こんな高い石垣見たことない。

石垣の反対側には渓谷が




こんな美術館も

なんとものどかな。日本昔話しに出てくるような古民家も

茅葺き屋根

最後は何かいい気分のよう。

小春日和の一日でした。

キリン・サントリー経営統合

2009-08-23 09:13:59 | 総合
日本の巨大酒類事業会社キリンとサントリーの経営統合の事情が本日の日本経済新聞の一面囲み記事に掲載されていた。経営統合を急ぐ事情は経済が急成長し世界一のビール消費国にった中国市場で強敵が現れ経営規模を大きくし対抗する必要があるためだそうだ。強敵というのは中国の地ビール会社であっという間に世界最大のビール会社になった中潤雪花という中国企業だ。日本の両社の年間ビール販売量合計519万キロリットル上回る726万キロリットルの巨大ビール会社で現在上海で年間製造量40万キロリットルの工場を建設中だ。1日千数百キロリットルのビールを生産する。発酵タンクはおそらく数百~1千キロリットル容量の巨大タンクを林立させることになるだろう。もはや食品工場というよりはタンクとパイプが交錯する石油精製工場のような様相だろう。このような大規模ビール工場はすでにコンピューター制御の装置産業と化し(地ビール規模でも装置化されている)もはや人手が触れる部分はない。世のノンベイ諸氏の思い焦がれる職人の魂の籠った酒を味わうというロマンはないといっても過言ではない。


酒 さけ sake サキ

2009-08-14 13:11:15 | 総合
お飲み物は何になさいますか。
お酒をください。
どんな種類ですか。
お酒、お酒だよ。
ですからどんな種類になさいますか。
・・・・・・

酒とは清酒のことでした。現在では酒が清酒の意味からアルコール飲料を指す言葉になり、さらに清酒は日本酒という言い方に変わりつつあります。清酒とは澄んだ酒でドブロクのような濁った酒に対するものです。奈良時代の長屋王の屋敷遺構から夏に澄み酒を氷に注ぎ飲んだという木簡が発見されました。権勢を極めた長屋王の贅を尽くした象徴がオンザロック清酒です。その後長らく清酒は貴重で高価なものでした。

戦後経済成長につれ所得が上がり物資が豊かになり世界中の酒が飲めるといういい時代となりました。バブルが崩壊しようがリーマンショックがあろうがやはり世界中の酒が飲めるのです。酒が清酒を意味するとは限らないのはやむを得ないのかもしれません。

外国で日本酒はsakeです。japanが付きません。発音はサケでなくサキですが。とにかく外国では”酒”で通用するのです。日本に居場所がなくなり日本酒が外国で亡命生活をすることのないよう願わずにいられません。

吟醸香は鑑評会の賜物

2009-08-02 09:25:46 | 総合
日本酒に関心の強い人は全国新酒鑑評会というものをご存じでしょう。毎年4~5月に独立行政法人酒類総合研究所で開催される日本酒の品質評価会です。この品質評価会を鑑評会と名づけています。鑑評会という言葉は一般的な言葉でありません。酒にのみ使われる言葉です。国語辞書にも文章変換の辞書にもありません。普通には品評会です。どう違うのでしょう。

品評会は品物の良し悪し優劣を競うするものです。良いか劣るかです。鑑評会はやはり品の良し悪しをみますが、その原因を考察(鑑定)することに主眼が置かれています。外部からみるとその違いははっきりしないと思います。品評会は1位2位という序列をつけることが一般的ですが鑑評会では序列は重要視されません。審査した酒の優劣はつけますが技術情報を取り出すことが大きな目的なのです。
技術情報は出品(製造)者に還元され品質向上、技術の向上に還元されます。鑑評会に出品されてきた吟醸酒は長年日の目を見なかった(市販されない)のですが蓄積された技術は無駄ではなく純米酒や吟醸酒として日本を代表する酒を生み出したのです。

酒鑑会は理想の酒を官能評価と技術評価を試行錯誤で選別してきたのです。そのなかで吟醸香が発見され重要な審査要素となったわけです。吟醸香は今後も時代の嗜好を反映しながら変化していくでしょうが重要な審査要素という役目は変わらないでしょう。

蛇足
鑑評会の鑑は鑑定の鑑です。即ち識者が知識経験から判断するということです。酒の鑑定でもう一つ重要なのが味覚嗅覚視覚という感覚器官の性能です。若者は感覚は鋭いのですが知識経験が不足します。老齢者はその逆です。40年近く前に灘酒研究会(灘五郷酒造組合)の聞き酒会で10歳区切りで年代別に判定がどうなるのか統計をとったことがあります。厳しい評価をしたのが30、40歳代で20歳代と60歳代は判定の傾向が似ていたとのことでした。

歴史としての三増酒

2009-08-01 09:00:00 | 総合
 三増酒とは俗称で正式には三倍増醸清酒という。今では死語に近いだろう。三増酒は昭和24年の酒税法改正で可能になった酒造りの一法である。
昭和18年にアルコール添加が認められる前は日本酒はすべて米と米麹及び水だけで造られていた。戦争で食料米がひっ迫してやむなく始まったのがアルコール添加法である。アルコール添加だけでは辛くて飲みにくいということで糖類を甘味付けとして使用したのが三増酒である。戦後の経済がまだ回復していなかったころに出た甘い酒は人気が出た。その後年を経るごとに酒は甘さを増して昭和50年ころが甘さのピークとなり、製造数量もピークとなった。

 三増酒とは何か。文字通り米だけで造った酒に対しアルコール及び糖類を加えることにより3倍量に増量したのが三増酒である。しかし、すべての仕込みを三増酒とすることは認められていなかった。その蔵が酒造に使用する米の28%(後に24%)に相当する仕込みが三増酒とすることができた。三増酒以外は普通アルコール添加酒で、アルコールのみもろみに添加し搾った酒である。市販酒は三増酒と普通アルコール添加酒をブレンドしたものであった。従って三増酒単独の酒は市販されていなかった。酒蔵にはアルコール使用量の総量規制もあり、最大限アルコールや糖類を使用すると日本酒の55%弱が米由来のアルコールで添加したアルコールはその残りということになる。糖類の添加により(糖類は醪に添加すのであって一旦生成した酒に添加するものではないことを付記する。)日本酒度をマイナス5程度の甘口にすることができた。
 このことが付け込む隙を与えた。酒は甘くてベタベタと・・・というさも日本酒がすべて三増酒のいかがわしい飲み物であるかのごとく書いたのが開高健である。彼の文章力を持ってした完膚なきまで日本酒を辱め貶める為にする一文である。一方で彼は長年ウイスキーを美化し続けている。その頃のウイスキーの原酒比率は5%以上あればよかった。彼流からすればじゃぶじゃぶとアルコールで引き伸ばし薄め色付け味付けした20倍希釈ウイスキーだったにもかかわらず非難する記述はない。不思議というか心根が透けて見えるというものである。かような所業を閻魔様の前で何と申し開きをしたのか。やはりモズのような能弁な舌でうまく言いくるめちゃっかり極楽に滑り込んでいるのではあるまいか。これが日本酒に決定的な打撃を与えた。その後マスコミに日本酒に対するネガティブな記事が増加し、業界は脱三増酒に追われることになった。

 三増酒は昭和50年半ば以降減少し始め平成になって激減、2006年5月の酒税法改正前時点で歴史になった。今や三増酒の混和された日本酒にお目にかかることはない。しかし料理に使うには三増混和酒は現在の酒より適していると思う。なお、現在の酒税法では総量が白米重量の半分以下に相当する重量のアルコールや糖類の使用が認められているがこの規定による酒造りが行われているということは寡聞である。

追記
 酒増醸をなぜ三増酒と呼んだのか。米だけで造る量の3倍量できる(なぜ3倍なのか、なぜ2倍でなかったのかは製造の合理性を検討した結果と思われる。すべてが三増酒とならないようアルコール使用量の総量規制が設けられた。)から単純にそう呼んだと解釈するのが妥当だろう。三増酒という呼び名に自虐的な意味もあるように感じられる。本当はこんなのは酒ではないと心底では思ったのではないか。紳士の業界といわれる酒造家や酒造技術者は真面目であったから想像に難くない。しかしこの俗称が日本酒業界に災難を招くことになる。なんとも攻撃しやすい名前ではないか。実態はどうあれ自ら3倍に薄めましたと言っているようなものだから逆手にとって攻撃してくる者なぞ考えたこともなかったのだろう。

秘話
 昭和23年は全国的に醪が腐った。全国大腐造である。貴重な米で造った酒を廃棄するわけにもいかず政府は救済策が講じた。アルコールの特別配給である。つまり規制量以上のアルコール使用を認めたのである。醪が腐った酒蔵は損失どころか増産で儲かったそうである。もろみが健全であった蔵は恩恵にあずかれなかった。酒の絶対量が不足し品質にも甘かった時代ならではのお話である。

一杯の酒

2009-07-26 09:39:10 | 総合
一杯の酒に何を期待するのでしょうか。甘いのか辛いのか旨いのか濃いのか薄いのか飲酒経験によっても違うでしょう。飲む人それぞれとしか言えません。それを一言で片付ける便利な言葉があります。嗜好です。嗜好とまとめたところで何の解決にもならないことに気づかされます。人様の嗜好は分からない自分だけが知るからです。酒の造り手は好かれる酒(売れる酒)を目指して悪戦苦闘し、し続けます。いい酒は簡単にはできません。

飲み手(消費者)は自分で酒を造るわけではありません。売られている酒がどんな味か容器やラベルを見ただけてはよく分からないでしょう。初めての銘柄であれば店の人に聞くか他人の意見を参考にすることになります。人によってはとにかく飲んでみようということになります。ようやく見つけた美味い酒を飲んだことが小さな自慢にもなります。自慢を肴にまた酒を飲みます。自分だけの酒ワールドの構築を目指して。

酒は憂いを掃く玉箒(たまぼうき)という言葉があります。酒を飲めば嫌なことも忘れられ一時の安らぎを得られるわけです。酔いが醒めれば現実は飲む以前と変わりがありません。本当に一掃されたわけではありません。一時現実を忘れストレスから逃れ、問題解決の時間的余裕が与えられ精神が破壊されるのを防ぐ効果があるのかもしれません。一種のガス抜き剤ともいえます。一方気違い水というのもあり。他人に迷惑をかけかねません。酒は飲んでも飲まれてはいけない楽しくあるべしが理想です。

理想の一杯を求めて今宵も研究、研究
酒飲んで研究したこと朝には忘れ・・・・見事に脳内掃除がされました。

はじめに

2009-07-20 08:47:45 | 総合
ブログ開設にあたり一言
 
 このブログでは日本酒(清酒)と焼酎についてその時々思いついたこと、考えたこと、あったことを話題にします。ことに日本の酒の素晴らしさを伝えていこうと考えています。
 コメントご質問があれば何なりとお申し出ください。なお、コメントは勝手ながらチェック後紙面に反映いたします。

 お酒は嗜好品で好き嫌いの飲料です。即ち旨いまずいは主観によります。十人十色です。これが絶対旨いとかダメだというのは人により違います。ここの記事に賛同しかねるということがあってもそれは致し方ないことです。
 お酒はアルコール飲料で生理的な作用があります。これも赤くなったり青くなったり眠くなったりはしゃいだり十人十色です。これがまたお酒を理解するのを複雑にします。
 とにかくお酒は嗜好品だけでなく不思議な薬物でもあります。飲酒は適量に留めましょう。