吹く風ネット

運命の分かれ道(前編)

 高校三年(1975年)の12月のある金曜日のこと。その日、家にいるのはぼく一人だった。夜8時頃だったか、二階の部屋でギターを弾いていると、一階から電話の鳴る音がした。慌てて階段を駆け下り、電話に出た。

「もしもし」
「お母さんいますか?」
「母は今出かけていますが」
「そうですか。じゃあ後でかけ直します」
 聴いたことのある声なのだが、相手が名前を言わないから、誰かわからない。しかし、かけ直すということだったので、気にしないでおいた。

 母が帰ってきたのは9時を過ぎていた。
「電話かかっとったよ」
「誰から?」
「さあ?聴いたことある声やったけど、名前は言わんかった。かけ直すとは言ってたけど」
 しかし、その夜電話はかからなかった。いや、その夜だけではなく、その翌日も、そのまた翌日も、ずっとかからなかった。

 その翌週の金曜日、三者面談があり、担任と母とぼくの三人で進路の話し合いを行った。開口一番担任は、
「これは提案なんですが、X大学の推薦を受けてみませんか?」と言った。「実は先週、その件でお母さんに電話をしたんですが、いなかったんですよ。風呂に入った後にかけ直そうと思っていたんですが、忘れてしまって。ハハハ」

 聴いたことのある声だと思っていたが、あの電話は担任からだったのか。電話越しで、しかも他人行儀に話すのでよくわからなかった。
『何が「ハハハ」だ。電話をかけ直さなかったのを覚えているのなら、それに気づいた時に電話すればいいじゃないか』と、ぼくはその時思っていた。

 この担任の風呂の一件が、ぼくの運命を大きく左右することになる。

続きます──

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「思い出」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事