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霊感少女 さとみ 123

2019年04月11日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 ももは開いたガラスドアの中にためらいなく入って行く。さとみはその後をとことこと付いて行く。
「ももちゃん、慣れた感じね」さとみはきょろきょろしながら言った。「わたし、ドキドキしてるわ……」
「そうなんだ…… わたしは何度も来てるからね。……あいつの部屋は最上階よ。エレベーターで行くわ」
 ももはさとみに微笑みかけながらエレベーターの階数ボタンを押す。
「わあーっ、見ないでも押せるんだ」
 さとみは感心したように言う。
「……それだけ何回も来てるって事よ」ももは吐き捨てるように言った。「自慢にもなりゃしないわ……」
 エレベーターに乗り込む。
「え~と、ももちゃんは妹さんの役で、わたしはお友達の役で……」
 さとみはぶつぶつと段取りについて独り言を言っている。
「さとみちゃん、心配?」
「いいえ! ……って言いたいけど、心配…… 心臓が耳元で鳴っているみたいだもの……」
「大丈夫よ」ももはさとみをぎゅっと抱きしめた。「わたしが守ってあげるわ」
 さとみは胸に顔を押し付けられ、息ができなくなった。あたふたしていると到着を知らせるチンというベルの音がして、エレベータのドアが開いた。ももが先にエレベーターを降りる。さとみはほっと息を整え、ももの後に続く。
 廊下に若い男が立っていた。細身で長い髪の優しそうな笑顔が印象的だ。黒いシャツと黒いスラックスとが天井の照明で艶っぽく光っている。
 笑顔のまま近づいてくる。
「やあ、ももちゃん……」男はももに笑顔を向ける。口調も優しい。「よく来てくれたね。僕でお役に立てるならうれしいよ」
「……はい……」
 ももは下を向いた。両手が握りこぶしになっている。それに気がついたさとみは、ちょんちょんとももの背中をつついた。はっとしたももは顔を上げて男を見た。
「……会ってくれて、うれしいです」
 ももは笑顔で答えた。……平常心を取り戻したようだわ、さとみは思った。
「ま、こんなところじゃ話もできないだろうから、僕の部屋に行こう」男は何気なくももの肩に手を掛けて歩き出した。それから、さも思い出したというようにさとみに振り返った。「あ、君も一緒に……」
 さとみはついて来てくれた豆蔵とみつと竜二を見た。豆蔵とみつは真剣な表情だったが、竜二はけらけら笑っている。さとみは霊体を抜け出させ、竜二の前に立つ。
「あんたねえ、何がおかしいのよ! 一番危険な状況だって言うのに!」
「だってさ」竜二はまだ笑っている。「さとみちゃん、あの男に全く相手にされていないんだもん。すっかりお子様扱いでさ……」
「竜二さん……」豆蔵が低い声で言った。「嬢様のおっしゃる通りですぜ。ここで気を抜いちゃいけません」
「そうですよ」みつもうなずく。「相手は罪人。しかも生身です。わたしたちは迂闊に手が出せないのですよ」
「……はい、すんません……」
 さとみは勝ち誇ったような表情で竜二を睨みつけ、霊体を戻した。
 ももと男は廊下を曲がるところだった。さとみはあわてて駆け出す。
「ちょっと、待ってよう!」
 ももが立ち止まる。男は不服そうな表情をさとみに向けた。
「わたし、どの部屋か知らないから、置いてかれたら迷子になっちゃう……」
 追いついたさとみは息を切らしている。
「……じゃ、ちゃんとついて来るんだよ」
 男は笑顔でさとみに言う。まるで子供を諭すような口ぶりだった。竜二が口を押えて笑いをこらえているのが見えた。
「そう言えば、まだ名前を聞いて無かったわ」さとみが男に言った。「お偉いさんの息子ってのは聞いたんだけど……」
 男は足を止め、さとみに振り返る。
「口のきき方に気を付けて欲しいな」さとみを覗き込むように背中を丸める。ぞっとするような凶悪な表情になっている。「僕のオヤジはここの実力者だよ。僕がへそを曲げると、困ったことになるよ。たとえ、君のようなお嬢ちゃんでもだ」
 豆蔵は十手を握りしめ、みつは刀の鯉口を切る。さすがの竜二も真顔になる。
「……ま、気を付けてね」男は笑顔を作った。目は笑っていない。「僕の名前は、菅木源太郎。みんなは『スガゲン』って呼ぶけどね」
「スガゲン……さん?」
「……」男はむっとした表情でさとみを見る。「……ま、ももちゃんに免じてそう呼ぶのを許してあげるよ」
 スガゲンは言うとさとみに背を向け、ももの肩を抱いたまま歩き出した。


つづく

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