「お二人さん、こっちよ」
きょろきょろして百合江を捜しているアイと麗子に、百合江が声をかける。百合江は、公園の奥のベンチに座って、手を大きく振りながら、もう一度呼びかけた。
アイと麗子は小走りで百合江の所に向かった。
「……で、お話でもあるんですか?」百合江の前に直立したアイが言う。「わたしたちに出来ることなら、何でもします!」
「あら、ありがとう」百合江は笑う。「麗子ちゃんも、そのつもりと思って良いのね?」
「……ええ、その…… 悪いことじゃないんなら……」
「まあ、正直ね」百合江はくすくす笑う。「わたしに隠し事をしないって決めたのは立派よ。……大丈夫、悪いことはさせないわ」
百合江は言い終わると立ち上り、二人にさらに近寄るよう、手招きをした。アイと麗子が歩み寄る。息がかかるくらいまでに近づいた。
「……で、姐さん、何をすれば?」
アイは、何か内密の頼みではと思い、声をひそめて言った。
「わたしで出来ることなら……」
麗子は、必死に「弱虫麗子」を抑えつけながら、アイに倣って声をひそめた。
「ふふふ……」百合江は微笑したまま、二人を交互に見る。「実はね……」
不意に、百合江の同時に繰り出した左右の突きが、アイと麗子のみぞおちを捉えた。二人は声を立てること無く、その場に倒れてしまった。
「ごめんね。ちょっとだけ、からだを借りるわね」百合江は言い、両手を合わせて片目を閉じてみせた。「……さあ、出番よ!」
百合江に促されて現われたのは、楓とみつだった。楓はにたにたしているが、みつは緊張で顔が強張っている。
「それで」百合江は楽しそうに言う。「どっちがどっちに憑くのか、決めたのかしら?」
「わたしがこっちの派手な娘なら話は早いけどさ」楓はアイを指差す。「でもそれじゃ、楓姐さんの意地が立たないからね。こっちの大人しそうな娘にしておくよ」
「じゃあ、みつさんがアイちゃんね」
「いえ、わたしは、こんな派手な化粧で、しかも脚がこんなに露わな格好はちょっと……」みつは恥かしそうに赤くなる。「それに、こちらの大人しそうな娘には、以前憑いたことがあるので、勝手が多少わかっています」
「あのねぇ、剣士様よう!」楓がみつに噛みつく。「今日はさ、刀を振り回したり、殴り合ったりするんじゃないんだよ! 女の武器を使おうって話なんだよ! そこんところ、わかっているのかい?」
「いや、わかってはいる。わかってはいるが……」
「どれだけわかってんだか」楓は小馬鹿にする。「あんたみたいな素人はね、とにかく見た目だけでも気を引きそうな、こっちの派手な娘にしておきな。玄人の楓姐さんが言うんだから、間違いなしだよ」
楓は言い終わると、麗子のからだに重なった。楓の姿が消え、にやりと不敵な笑みを浮かべた麗子が立ち上がった。麗子は楓になっていた。
「ほら、剣士様もさっさとしなよ」声は楓のままだ。「それとも、やめちゃうかい?」
みつはむっとした顔でアイと重なった。むっとしたままでアイが立ち上がる。アイはみつになっていた。
「やめるわけには行かぬ」みつの声だ。「これも新たな剣技のための修業なのだから!」
つづく
きょろきょろして百合江を捜しているアイと麗子に、百合江が声をかける。百合江は、公園の奥のベンチに座って、手を大きく振りながら、もう一度呼びかけた。
アイと麗子は小走りで百合江の所に向かった。
「……で、お話でもあるんですか?」百合江の前に直立したアイが言う。「わたしたちに出来ることなら、何でもします!」
「あら、ありがとう」百合江は笑う。「麗子ちゃんも、そのつもりと思って良いのね?」
「……ええ、その…… 悪いことじゃないんなら……」
「まあ、正直ね」百合江はくすくす笑う。「わたしに隠し事をしないって決めたのは立派よ。……大丈夫、悪いことはさせないわ」
百合江は言い終わると立ち上り、二人にさらに近寄るよう、手招きをした。アイと麗子が歩み寄る。息がかかるくらいまでに近づいた。
「……で、姐さん、何をすれば?」
アイは、何か内密の頼みではと思い、声をひそめて言った。
「わたしで出来ることなら……」
麗子は、必死に「弱虫麗子」を抑えつけながら、アイに倣って声をひそめた。
「ふふふ……」百合江は微笑したまま、二人を交互に見る。「実はね……」
不意に、百合江の同時に繰り出した左右の突きが、アイと麗子のみぞおちを捉えた。二人は声を立てること無く、その場に倒れてしまった。
「ごめんね。ちょっとだけ、からだを借りるわね」百合江は言い、両手を合わせて片目を閉じてみせた。「……さあ、出番よ!」
百合江に促されて現われたのは、楓とみつだった。楓はにたにたしているが、みつは緊張で顔が強張っている。
「それで」百合江は楽しそうに言う。「どっちがどっちに憑くのか、決めたのかしら?」
「わたしがこっちの派手な娘なら話は早いけどさ」楓はアイを指差す。「でもそれじゃ、楓姐さんの意地が立たないからね。こっちの大人しそうな娘にしておくよ」
「じゃあ、みつさんがアイちゃんね」
「いえ、わたしは、こんな派手な化粧で、しかも脚がこんなに露わな格好はちょっと……」みつは恥かしそうに赤くなる。「それに、こちらの大人しそうな娘には、以前憑いたことがあるので、勝手が多少わかっています」
「あのねぇ、剣士様よう!」楓がみつに噛みつく。「今日はさ、刀を振り回したり、殴り合ったりするんじゃないんだよ! 女の武器を使おうって話なんだよ! そこんところ、わかっているのかい?」
「いや、わかってはいる。わかってはいるが……」
「どれだけわかってんだか」楓は小馬鹿にする。「あんたみたいな素人はね、とにかく見た目だけでも気を引きそうな、こっちの派手な娘にしておきな。玄人の楓姐さんが言うんだから、間違いなしだよ」
楓は言い終わると、麗子のからだに重なった。楓の姿が消え、にやりと不敵な笑みを浮かべた麗子が立ち上がった。麗子は楓になっていた。
「ほら、剣士様もさっさとしなよ」声は楓のままだ。「それとも、やめちゃうかい?」
みつはむっとした顔でアイと重なった。むっとしたままでアイが立ち上がる。アイはみつになっていた。
「やめるわけには行かぬ」みつの声だ。「これも新たな剣技のための修業なのだから!」
つづく
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