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ジェシル 危機一発!  ㊲ 

2019年12月19日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
 ベッドに寝転がったジェシルだったが、部屋の外は騒がしいままだった。誰かがフロントに連絡したのか、しばらくすると騒々しさはさらに増した。……やれやれ、こうなると地元の警察も出張ってきそうね。そのうち、この部屋にも事情聴取に来るかもね。ジェシルはでベッドに仰向けで寝たまま思った。……面倒臭いわねぇ…… ジェシルは起き上がり、クロークに入れてあるスーツケースの一つを引っ張り出した。それを開けると、中から携帯電話を取り出した。操作して相手が出るのを待つ。
「あ、タルメリック叔父様? ジェシルですわ」ジェシルは余所行きの声で話す。「どうですか、そちらの様子は?」
「おお、ジェシルか! どこにいるのかね?」叔父の声は慌て気味だった。「身を隠すと言っても、行き先くらい教えておかんと、いざと言う時に困るのだぞ」
「あら、すみませんでした」ジェシルは平然と答える。「連絡は、わたしの方からすればいいのかなって思いまして……」
「実はな、何度も連絡したんだが、全く通じない。万が一の事でもあったのかと思ったよ」
「そんな大げさな……」
「なんでこっちからの連絡が届かんのだ?」
「電波が届かない所に居るからです。ですから、この電話は特別に強い電波を出しているんですの」ドクター・ジェレミウス作の違法電波使用の電話とは言えないジェシルだった。「それで、何かあったんですか?」
「何かって…… そうか、お前は何も知らんのか……」
「ええ、知りませんわ」
「実はな、屋敷が爆弾で破壊されたのだよ」
「あら……」
 嬉しい、と言いかけてジェシルは自分の口を手で覆った。
 元々古くて広いだけの屋敷だった。一族たちは歴史的価値がどうとか言っているが、住んでいるジェシルには不便この上なかった。実際ジェシルが使っているのは、玄関から入ってすぐの古の時代に客を待たせるのに使っていた部屋だけだった。後の部屋は、年に数度、歴史学者だの建築学者だのがやって来て、修復を兼ねた清掃をしている。ジェシルが使っている部屋も、それら学者先生方に言わせれば大変貴重なものらしいのだが、ジェシルはそんな事にかまわず最新鋭の設備を投入している。それが学者先生方のお気に召さないようで、別の所に住むように再三提案されたが、現当主であるジェシルは拒否していた。何か大きな理由があるわけではなく、単に学者先生方の困惑した顔が見たいからだった。
 本音では、屋敷自体が無くなってくれればいいのにと思っていたので、ジェシルにとっては朗報でしかなかった。
「そうだろう、ショックだろう……」タルメリック叔父はジェシルの絶句を悲嘆と取ったようだ。「お前の住んどる部屋が大破したのだからな」
「えっ……」これは確かにショックだった。ジェシルが快適に暮らせるように散々手を尽くした部屋だったからだ。つい最近も最新のベルザの実の搾り機も購入したのに…… ジェシルはむっとする。「それで、犯人は見つかったんですか?」
「いや、まだだよ。その事件の後、皆がお前に連絡を取ろうとしていたのだが、まったく繋がらない。わしは、身を隠すとか言って、本当は自分の部屋に隠れておって、爆破に巻き込まれたのかと思ってしまったよ」
「それは、ご心配をおかけしました。大丈夫、ぴんぴんしてますわ。……あ、それと、メック星のローワード渓谷とポクワ星のヒータロン高原でも何かありました?」
「いや、そこのどちらにも異常はない。そんな事よりも、お前が無事で何よりだ。これで一族は途絶えることがないのだからな」
 タルメリック叔父はそう言うと、豪快に笑った。結局、大事なのはそっちなのかい! ジェシルは見えないチョップを叔父の頭頂部に叩き込んだ。
「それとな、屋敷の修復は宇宙連邦の予算から出す事にした。何しろ歴史的建造物だからな。学者たちにすれば、不幸中の幸い、怪我の功名と言うヤツだろう。当時の形に復元できると大喜びしておる」
「じゃあ、わたしは帰っても住めないって言う事ですか?」
「まあ、そうなるだろうな。だが心配はいらん! 最高級の住居を提供する用意がある。セキュリティも万全だし色々と便利な所だよ」
「まさか、叔父様のご近所じゃないでしょうね?」
「そのまさかだよ!」タルメリック叔父がまた豪快に笑った。ジェシルは思わず電話を耳元から遠ざける。「政財界の要人、つまりは傍系たちの集っている地区だよ。そこならばもう何も心配はない。さらに、宇宙パトロールなんて危険な所は辞めて、わしの選んだ婿候補から良いのを選んで直系の血筋を継続させてくれ」
「……あ、すみません。来客が……」ジェシルは嘘を言った。こんな妄言に付き合っていられない。「とにかく、そちらへ戻りますわ。実際の被害を確認しないといけないでしょうし、今後の事もあれこれ考えなければいけないでしょうし……」
 そこまで言って、ジェシルは電話を切った。
「……クェーガーの仕業ね……」ジェシルはつぶやいた。「わたしの居所が分からなくて、こんな姑息な手段をとったのね」
 ローワード渓谷もヒータロン高原も何もなかったのだから、部長も統括管理官も無関係と言う事になるわね。となれば、別の何者かが裏にいることになるわ。そいつはクェーガーを使って姑息な手段でわたしを挑発してきたのね。そうと分かれば、こんな所で隠れているのも癪だわ。ジェシルの生来持っている過激な闘争本能に火が着いた。


つづく

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