お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

豆蔵捕り物帳 2

2022年01月20日 | 霊感少女 さとみ 外伝 1
 豆蔵が宗右衛門長屋に着くと、既に幾人かの役人がいた。その中に馴染みの同心、片倉左馬之助が居た。苦み走った良い男で、若い娘に人気だった。実際、死体検分の場であるのに、若い娘が目立っていた。皆、片倉目当てのようだ。
「これはこれは、片倉様……」豆蔵が声をかける。「わざわざのお運びとは。何か裏でもある大事件なんで?」
「そんなものは無ぇよ」片倉は吐き捨てるように言う。武士からぬ伝法な物言いは同心に共通だ。「たまたま暇していたら、与力の堀田様に言われてよ。これからちょいと繰り出そうかって思っていた矢先だった」
「そりゃ、お気の毒様で」豆蔵は心にも無い同情を示す。「で、松吉の話じゃ、鉄太郎が殺されたとか?」
「ああ、そのようだ」片倉は戸板に乗せられて菰の被せてある鉄太郎の死骸を顎で示す。「背中から出刃包丁で一突きだ」
「そうですかい……」豆蔵はしゃがみ込み、十手で菰を捲る。驚いた顔の鉄太郎の背に深々と出刃包丁が埋まっている。「こりゃあ、恨みの上でのこってすぜ」
「ほう、どうしてそう思う?」
「この鉄太郎は、ケチな悪事を起こしてばかりのしょうもねぇ野郎でして」
「と言う事は、あちこちから恨みを買っていると言うのか?」
「さいですね。静かにしてくれと言われるとわざと騒いでみたり、人にぶつかってはぶつかって来やがってと脅して小遣いをせびったり、夜中に大声で騒いだりって感じで」
「でかい図体のくせに、おつむん中はガキ以下だな」
「まあ、大男の乱暴者で通っているんで、皆、面と向かっては言えねぇみてぇでしてね、あっしが相談を受けて何度かお縄にしやした。でも、元々の性分か、懲りやしねぇ」
「ふん、ならば街のダニ掃除が出来たと考えて良いんじゃねぇか」
「ま、そう言っちめぇばおしめぇですが、死んだら仏だ。ちょいと調べてみやすよ」
「そうか? まあ、適当で良いよ。いざとなったら病死にしちまうから」
 鉄太郎が運ばれて行くのを見ながら片倉が言う。


つづく

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