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ジェシル、ボディガードになる 121

2021年05月23日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ジェシルは格納庫で制服を洗濯していた。制服を脱げば下着姿になる。そうは行かないので、ハービィも言っていたように、アーセルを迎えに行く時に服を持ち出したロッカーの中を探ってみる。その時と変わらずに、ロッカーには、オーランド・ゼムの彼女だった女性たちの服が幾つも吊り下がっている。
 自分のサイズに合う服を探す。見つかった服にジェシルは困惑の表情を浮かべる。
「まあ、制服が洗い終わるまでの間だけだし……」
 ジェシルは自分に言い聞かせ、その服を着た。水色の袖なしのワンピースだった。上半身はぴっちりしているが、スカート部分はずいぶんと広がっていて、ふわふわとしている。ちょっと動くたびに裾がひらひらと軽く捲れあがり、脛が見え隠れする。それに、生地がやや薄く、下着がうっすらと透けている。ジェシルはオーランド・ゼムの趣味に悪さにうんざりする。
「まあ、制服が洗い終わるまでの間だけだし……」
 ジェシルは、再度自分に言い聞かせた。
 洗濯が終了し、今度は乾燥の作業に入った。しゅうしゅうと乾燥をさせている音がする。
「早く乾燥が終わってくれないかしらねぇ……」ジェシルは多少いらいらしながら、洗濯機を見つめていた。「こんな服、早く脱ぎたいわ!」
 と、いきなり宇宙船が大きく揺れた。ジェシルは床に転がった。宇宙船自体が何か大きな衝撃を受けたようだ。
「何? 何なのよう!」ジェシルは立ち上がりながら、したたかぶつけたお尻を撫でさする。「……これって、攻撃?」
 再び揺れた。今度は背中を壁に打ち付けた。苦痛よりも腹立たしさで表情が強張る。むっとしたままで格納庫を出て、コックピットへと向かう。
「ジェシル!」通路を急いでいると、背後から声をかけられた。振り返ると、オーランド・ゼムが立っていた。ジェシルの姿など気にしていられないようだ。「今のは、一体……?」
「詳しくは分からないけど、攻撃でもされているんじゃないの?」ジェシルは答える。「……あら、ミュウミュウは?」
「リタに付き添っているよ。不安そうな顔をして、ミュウミュウの腕をつかんで離さないからね」
「お姫様体質が抜けそうもないわね……」ジェシルは呆れたような表情だ。「そんな事で、これからどうするつもりなのかしら?」
「そんな話は後だ。とにかく、コックピットへ急ごう」
 二人は足早に進む。コックピットのドアが開く。目に飛び込んできたのは、アーセルがぽかんとした顔をしながら座っていて、周囲をぼうっとした眼差しで見回している姿と、操縦席のハービィが座ったままで手足をばたばたと動かしている姿だった。
「ハービィ、何があったのかね?」オーランド・ゼムが訊く。「ジェシルが、攻撃をされているようだと言っているのだが……」
「そうなのです」ハービィは、ぎぎぎと音を立てながら首を真後ろに向けて、オーランド・ゼムを見る。「超高速運行を終えて、ムレイバ星へあと少しの所まで来たのですが、何者かに攻撃をされているのです」
 ハービィの危機に全く無頓着な話し方に、ジェシルが言い返そうとした時、三度目の揺れが襲った。ジェシルは体勢を崩し、床に座り込んでしまった。
「おおおおおっ!」叫んだのはアーセルだった。さっきまでとろんとしていた目が爛々と輝いている。座り込んだジェシルのスカートが大きく捲れ上がり、太腿の付け根近くまで露わになっているのを見たからだ。「ジェシル、お前ぇ、そんなサービスをしてくれるなんてよう! 目がすっかり覚めちまったぜぇ!」
「ふん! 下らない事を言ってんじゃないわよ、このスケベじじい!」ジェシルはアーセルを睨み付けながら立ち上がる。それからハービィへと視線を移す。「それで、ハービィ、どんな状況なの?」
「宇宙船の側面にエネルギー弾を三発喰らったよ、ハニー」相変わらずの危機に全く無頓着な話し方だ。「待ち伏せをされていたようだ」
「待ち伏せ……?」ジェシルはオーランド・ゼムを睨む。「また情報がどこかから漏れたのかしら?」
「いや、充分に気を付けているのだが……」オーランド・ゼムは首をひねって見せる。「……考えられるのは、わたしの通信が傍受されていると言う事かもしれないな。旧式の船だから、設備も古いからねぇ」
「もう!」ジェシルは声を荒げる。……主従揃ってこの危機的状況が分かっていないのかしら! ジェシルはハービィに顔を向ける。「ハービィ! 船外の様子をモニタースクリーンに映して!」
 ハービィが操作をすると、スクリーンに赤い戦艦が映し出された。見るからに最新鋭だ。
「ふむ、あの赤い色は『フルーター』の一味だな」オーランド・ゼムはスクリーンを見ながらうなずく。「『赤い船団』と言う名のシンジケートだよ。主に行き交う一般の宇宙船を襲い略奪を繰り返している。海賊を気取っている一味だね」
「あら、呑気な解説をありがとう」ジェシルは皮肉っぽく言う。「それで? 反撃の手段は?」
「あるにはあるんだが、何しろ、この船は旧式だからねぇ……」オーランド・ゼムは苦笑する。「あんな最新式のに太刀打ち出来るかどうかねぇ……」
「じゃあ、どうするのよ!」
「ジェシル、君はボディガードだろう? 君が考えてくれたまえ」
「ふざけないで!」
「おう、ジェシルよう」アーセルが話しかけてくる。ジェシルは、むっとした顔をアーセルに向ける。「もう一度よう、そのスカートをよう、ぱあって捲り上げてくれねぇか?」
「馬鹿なの? あなたって、真正の馬鹿なの?」ジェシルは声を荒げる。「今はそんな事を言っている場合じゃないでしょう! あなたなんか、洗面器にたっぷりお酒を注いで、その中に顔を突っ込んで溺死すれば良いんだわ!」
「何でぇ、オレは緊張を解こうと思って、冗談を言っただけじゃねぇかよう!」アーセルはぶつぶつと文句を言う。「本気なら、オレがスカートを捲り上げていらぁな」
 ジェシルが、ホルスターベルトから熱線銃を引き抜いて、アーセルに向かって引き金を引こうと思った時、赤い戦艦に眩い光が当たり、船全体を包み込んだ。光が消えた時、戦艦は消滅していた。
「……何よ、あれぇ……」ジェシルは呆れたようにつぶやく。「戦艦、消えちゃったじゃない……」
「おい、オーランド・ゼム!」スピーカーから低い声が流れてきた。「邪魔者は消してやった。降りて来てくれ」
「……ああ、感謝する」オーランド・ゼムが答える。「ムハンマイド君」


つづく

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