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ジェシル、ボディガードになる 170

2021年07月18日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「では、行こうか」
 オーランド・ゼムは言って歩き出す。ミュウミュウがそれに続く。ハービィもぎぎぎと音を立てながら動き出し二人の後に続く。
「ねぇ、ハービィも来るんだけど……」ミュウミュウが、うんざりした顔でオーランド・ゼムに言う。「来ないように行ってよ。わたしじゃ、言う事を聞かないし……」
「そうだな」オーランド・ゼムは立ち止まり、ハービィに振り返る。ハービィは足を止めた。「ハービィ、君はここに残って、ジェシルとムハンマイド君を見ていてくれたまえ」
「かしこまりましてございますです」
 ハービィは答えると、ぐぎぎぐぎぎぎと音を立てながら向きを変え、二人に方へと戻って行った。
「これが最後の命令ってわけね」ミュウミュウが言う。「爆弾の威力からすれば、ハービィも吹っ飛んじゃうわね」
「そうなるだろうねぇ……」オーランド・ゼムは、がちゃがちゃと音を立てているハービィの後ろ姿を見てつぶやく。「でもまあ、好きな女性と共に居られるのは幸せかな」
「あら、わたしたちみたいじゃない!」ミュウミュウは言うと、オーランド・ゼムの腕にしがみつく。「わたしたちは幸せの船出、ジェシルたちは死出の船出ね!」
「ははは……」オーランド・ゼムは、しがみついてきたミュウミュウの手を優しく叩く。「そう言う事だね」
 オーランド・ゼムは宇宙船に向かう。ミュウミュウはしがみついたオーランド・ゼムの腕に、そっと頭を寄せて、並んで歩く。
 二人が格納庫の開閉口から入って行き、その口が閉じられるのを、ジェシルは見ていた。それから、戻って来るハービィを見た。ハービィはジェシルの傍らに立って、動かなくなった。ジェシルはハービィを見上げる。
「……ねぇ、ハービィ、どうして戻って来たの?」ジェシルはため息をつく。「あなた、本当に置いて行かれたの?」
「オーランド・ゼムは、ハニーとムハンマイドを見ているように言った。だから、そうしているのだ」
「あら、そうなの?」ジェシルは呆れたような顔をする。「でも、そんな事をしたら、あなたは宇宙船には乗れないわよ?」
 ハービィは答えない。計算中のようだ。
「ねえ、ハービィ」ジェシルは言う。ハービィは、ぎぎぎと音を立てながら、頭をジェシルに向ける。「この鎖と紐を外してくれないかしら?」
「オーランド・ゼムは、その事に付いては何も言っていない」ハービィが答える。「だから、出来ない。オーランド・ゼムは、ハニーとムハンマイドを見ているようにとの事だけを言ったのだ」
「そう……」ジェシルはうんざりする。「分かったわ。じゃあ、せいぜい、オーランド・ゼムの宇宙船が飛び立ってから、どうやって乗り込むのかを考えていると良いわ」
 ハービィは動かなくなった。ジェシルの言った事を、本当に計算し分析を始めたようだ。そんなハービィの様子にジェシルは苦笑する。
「あ~あ、こんな事になるんなら、もう少しベルザの実を食べておくんだったわ……」ジェシルはつぶやく。「カルースのお誘いにも乗ってあげれば良かったわ。それと、トールメン部長には、本物の熱線銃を食らわせてやれば良かった……」
 ジェシルがあれこれと思いを馳せていると、甲高い音が流れてきた。宇宙船が起動を始めたのだ。
「三十分くらい経ったってわけね……」ジェシルは宇宙船を見つめる。「やれやれ、宇宙パトロール捜査官のジェシル・アンもおしまいか…… 悪党どもが狂喜乱舞しそうだわ」
 宇宙船は、下部の離陸推進部から青白い噴射を発しながら、ゆっくりと地面から離れる。ジェシルには勝ち誇ったように笑うミュウミュウの顔が浮かぶ。
「あの変態馬鹿女め! 人の顔を散々叩いてさ!」
 ジェシルは、見えない左右の拳をミュウミュウの顔と言わずは腹と言わず、とにかく全身に叩き込んだ。ぐったりして動かなくなったミュウミュウに、見えない熱線銃を最大出力にして撃ち込む。ミュウミュウは一瞬にして灰になった。ジェシルはそれを乱暴に蹴散らし、跡形も残さなかった。
「宇宙船だって、途中で壊れれば良いんだわ!」
 ジェシルは宇宙船に、べえと舌を出す。しかし、宇宙船は何事も無く上昇を続け、ついには見えなくなった。
「ふん! 修理が完璧だったのね!」ジェシルは横のムハンマイドを見る。「こう言う天才ってイヤよねぇ。妥協しないし、臨機応変さが無いし……」
「……悪かったな」
 ムハンマイドが返事を返した。目をぱっちりと開けた。
「……何よ、あなた!」ジェシルが口を尖らせる。「いつから気が付いていたのよう!」
「ははは、最初からさ」ムハンマイドが笑う。が、少し痛そうに顔を歪める。「ミュウミュウに推進装置を壊されて落ちたんだけど、どう落ちればダメージが少ないかって考えながら落ちたので、ちょっとした打撲で済んだ」
「じゃあ、何? 気を失った振りをしていたの?」
「そう言う事さ。面倒な事に巻き込まれたくなかったからね。君はミュウミュウに殴られていただろう? あんな目に遭いたくなかったからねぇ」ムハンマイドは言いながら、自分の姿に苦笑する。「でも、結局は最悪な面倒に巻き込まれてしまったようだ」


つづく

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