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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 1

2022年01月28日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
 しばらくは何事も無く過ぎて行った。と言うよりも、何事も無い様にして過ごしたのだ。相変わらず昼休みにはアイと朱音としのぶがやって来るが、中間テストも近いのでサークル活動はしばらくしない事になった。顧問の松原先生も試験作りで夜な夜な徹夜らしく、しのぶが言うには「ほぼポンコツ状態」なのだそうだ。朱音も必死で勉強に取り組んでいるらしい。ゆとりがあるのはしのぶとアイだ。しかし、この二人のゆとりには真逆の意味がある。しのぶは優秀ゆえのゆとり、アイはどうせ今さらの開き直りのゆとりだった。
 来週に試験が迫って来た月曜日、昼休みに顔を出したのはアイとしのぶだった。
「あれ? 朱音ちゃんは?」さとみがしのぶに訊く。「まさか、こんな時期に病気とか?」
「いえ、勉強です」しのぶがうんざりした顔で答える。「昼休みに勉強したって、何の意味もないと思うんですけど、なんだか一年生の間で流行っちゃって……」
「馬鹿な一年共だな」アイが笑う。「普段からちゃんとやっときゃ、慌てないだろうによ」
「そう!」しのぶが大きくうなずく。「わたしもそう思います! 付け焼刃なんてしたって、その場はしのげても、身には付きません! さすが、アイ先輩、分かってますね」
「あら、アイがしのぶちゃんに褒められるなんて、珍しいわね」さとみが驚く。「明日は大雪かもしれないわ」
「会長、そりゃあ無いですよ!」
「大雪なんか降らないわ」麗子が割って入ってくる。「アイなんか、普段から勉強なんてしないから、慌てないのよね」
「おい、麗子!」アイが文句を言う。「会長の前で恥かかせんなよ!」
「え?」しのぶが驚く。「でも、アイ先輩、さっき、普段からちゃんとやっときゃ慌てないって言ったじゃないですか」
「それはね」麗子が言う。「普段からやってなかったら、やっぱり慌てないって事なのよ」
「なるほど、逆もまた真なりって事ですか……」しのぶは感心したように言う。「……でもそれだと、アイ先輩、卒業できないんじゃないですか?」
「うるせぇな! わたしは大丈夫だよ」アイは言うとにやりと笑う。「先生たちの弱みをばっちり握っているからな。わたしに何かしたら、どうなるか、良く分かっているはずさ」
 笑えない話をした後、アイは麗子と屋上へと向かった。しのぶがさとみと残った。
「会長」しのぶが切り出す。「今。お時間、良いですか?」
「ええ、まだお昼休みだから」
「実は、ある情報をつかんだんです」しのぶがぐっと顔をさとみに寄せる。目付きが心霊モードに入っていることを物語っていた。「二階の女子トイレなんですけど、真夜中に一番奥の個室から声がするらしいんです……」
「あのねぇ……」さとみは呆れたように言う。「そう何度も何度もおかしな事は起きないわよ」
「わたしもそう思ったんですけど、本当の様なんです」
「誰か確認したの?」
「それはまだなんですけど、今夜確認します」
「しのぶちゃん一人で学校に来るつもり? 松原先生も来てくれるの?」
「いいえ、先生は言ったように『ほぼポンコツ状態』ですから、出来ません」
「じゃあ、どうやって? まさか、不法侵入みたいなことを……」
「いいえ、そんな事はしません」しのぶは言うと持っていた布袋を顔の前で振って見せた。「これを使うんです」
「袋を?」
「違いますよ、何を言っているんですか」しのぶは笑う。さとみは小馬鹿にされたようで、ぷっと頬を膨らませる。「この中に長時間録音できる小型のボイスレコーダーが入っているんです。これを放課後にトイレに設置して録音するんです」
「他の人の声も入っちゃうんじゃない? 音とか……」
「そんなの興味ありませんから、早送りします。わたしが聞きたいのは真夜中の声です」しのぶはきっぱりと言う。と、午後の予鈴が鳴った。「そう言うわけで、何か分かったら報告します」
 しのぶは直角に上半身を折り曲げて「失礼しますう!」と大声であいさつすると自分の教室へと戻って行った。
 ものすごく嫌な予感がしているさとみだった。


つづく

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