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ジェシルと赤いゲート 73

2024年08月28日 | マスケード博士

「おいおいおいおい!」
 コルンディが叫ぶ。静かに見つめるジェシル、不気味な仮面をつけて見つめるマーベラ。その異様な雰囲気はコルンディのみならず、並んでいる傭兵たちをも怖じ気づかせる。
「何だよ、こりゃあ! 一体何なんだよお!」コルンディは泣き声だ。「……ジェシル、悪かったよお! お前を始末するのは無しだ!」
「ブオーサ・マイメーラ!」
 ジェシルが声を張った。
「ブオーサ・マイメーラ!」
 マーベラも声を張る。
「何だってんだよお! 何を言ってんだよお!」
 コルンディはへたり込むように座る。
「コルンディさん……」ジャンセンは並び立つジェシルとマーベラの横から姿を見せ、大きなため息をつく。「この二人が言っているのは古代ペトラン語で『神は怒る』って言っているんだ。……あんた、開けちゃいけない封印を開けちゃったみたいだねぇ……」
「神、だってぇ?」
「そうさ。トラン君の事と衣装を馬鹿にして神を冒涜した事とが、二人を怒らせ、それを切っ掛けにアーロンテイシアとデスゴンの怒りをも呼び覚ましたんだ」ジャンセンはコルンディに言う。「何が起こるか、ぼくにも分からない。とにかく、覚悟はしておくべきだね」
「ふざけるなあ!」コルンディは勢い良く立ち上がり、ジャンセンを睨み付ける。「……そうか、お前ら一芝居打っているんだな! オレがオカルト嫌いなのを知っていて、こんな事をしてやがるんだな! やはり宇宙パトロール支給のレーザー防御装置を使ってやがるんだ! オレは騙されないぜ!」
「コルンディ君……」マスケード博士がジャンセンの横に立って、頭を左右に振る。「わしの発掘した神の衣装は本物なのだよ。衣装には神が宿っており、その神が二人の女性のからだを通して具現化しているのだ」
「オカルトとかそんなレベルじゃないんだ」ジャンセンも付け加える。「ジェシルはアーロンテイシアの闘神を現わし、マーベラは邪神デスゴンの威力を現わす。ついさっき、二人は闘ったんだ。壮絶だった。その二人の怒りがコルンディさんに向いているんだよ。これは紛れもない事実なんだ」
「やかましい!」コルンディは叫び、並んでいる傭兵たちに振り返る。「あのうるさいジジィとおっさんを撃て!」
「おっさんって……」ジャンセンが呆れた顔でつぶやく。「博士はともかく、ぼくはまだ若いんだけど……」
 傭兵の銃口がジャンセンと博士に向く。コルンディが右手を振り上げる。
 博士はジャンセンの前に立った。
「博士……」
「ジャンセン君、本当にすまなかった……」博士の声は後悔の念が滲んでいる。「まだ若いトラン君に続いて君まで失わせるわけにはいかんよ……」
「ははは! 無駄無駄無駄あ!」コルンディが嘲笑う。「レーザーライフルの総攻撃じゃあ、老いぼれ博士の一人くらいじゃ楯にも無りゃしないぜ!」
 ジャンセンは覚悟を決め、目を閉じた。博士はじっとライフルを見つめている。
 コルンディは右手を振り下ろした。
 が、レーザーライフルは撃ち出されない。
「おい、何をやっているんだあ!」コルンディは隣の傭兵に怒鳴る。「引き金を引かんかあ!」
「……それが……」黒いフルフェイスの防護ヘルメット越しにくぐもった声で、身動きもせずに傭兵が答える。「からだが動かないのです…… 声もやっと出せるくらいで……」
「何だとお!」
 不意に強い風がコルンディたちに吹きつけた。コルンディは立っていられずに尻餅をつく。身動きが出来ない傭兵たちはそのまま動けないでいる。
 コルンディが風の吹いてくる方を見ると、ジェシルが傭兵たちを妖しい金色を湛えた眼で睨み付けながら両腕を真っ直ぐこちらに向かって伸ばしている。五指を拡げた両の手の平から風が出ているようだった。妖しい眼は傭兵の動きを封じているようだ。コルンディはあまりの事に、両目を見開き、口をぱくぱくさせている。
 次いでマーベラが両腕を真っ直ぐにこちら手伸ばした。仮面の細くくり貫かれた眼が青白く光っている。マーベラの両の手の平から灰色の霧の様なものが生じてきた。それはゆっくりと増えながら広がり、ジェシルの紡ぎだす風に乗った。霧は瞬く間に傭兵たちを包んで行く。
 傭兵たち全員が霧に包まれた。尻餅をついているコルンディを、霧は拒否の意思を持っているかのように包まない。
 ジェシルは不意に両腕を下げた。マーベラもそうした。傭兵たちを包んだ灰色の霧はゆっくりと晴れて行く。
「……おいおいおいおい……」
 コルンディはつぶやく。喉がからからになったようにかすれた声だった。
 傭兵たちの黒いコンバットスーツに黒い防護ヘルメット、大型のレーザーライフルは失われ、黒いシャツと黒いパンツをまとっただけの姿で、銃を構えた姿勢のままで立っていた。

 

つづく


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