お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 80

2024年09月24日 | マスケード博士

 ジャンセンの言葉にジェシルとマーベラは顔を見合わせる。
「やっと、静かになってくれたねぇ……」ジャンセンは二人を交互に見ながら言う。「君たちが黙ってくれないと、ぼくは話が出来ないよ。そう言う意味じゃ、君たちに割って入れるトラン君は勇者だね」
 変な褒められ方をしたトランは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化している。
「じゃあ、聞くけど……」一気にしゃべりすぎたのか、ジェシルが呼吸を整えて言う。「ジャン、あなた、メギドベレンカを抱きとめていたじゃない」
「あれは、彼女の足元がおぼつかなくなったから、支えたんだよ。見ていたら分かるだろう?」
「でも、あんなにしっかりと抱きとめなくても良かったんじゃないの?」マーベラが言う。「それに彼女、あなたに抱きとめられた時、すぐに離れようとしたじゃない? 嫌がられていたのは明白だわ!」
「そうよそうよ!」ジェシルも絡む。「それなのに、しつこいったらありゃしなかったわ」
「きっと、嫌がっているのが分かっているのに、わざと足下をふらつかせて抱きとめたのよ」
「うわあ~」ジェシルは眉間に皺を寄せる。「下劣だわ! 姑息だわ! 下心の塊だわ! それから、ええと……」
「わたしたちへの当て付けよ!」マーベラも眉間に皺を寄せる。「ジャンセンは、わたしたちを女として見てはいないって事よ!」
「ひどいわ!」
「ひどいなんてもんじゃないわ!」
「……でも、その気持ちは分かるなぁ」トランがボソッとつぶやく。「二人とも勝ち気だし、乱暴だし…… メギドベレンカさんはなんだか守ってあげたくなる雰囲気なんだよなぁ……」
「トラン!」
「トラン君!」
 マーベラとジェシルが同時に怒鳴り、トランを睨む。トランはあわててジャンセンの後ろに隠れる。
「……もうお喋りは終わったかい?」ジャンセンは呆れたような顔で自分の頬をぽりぽりと掻く。「ぼくが話してもいいのかな?」
 気勢を削がれた二人は黙ったままだ。それを了承と取ったジャンセンは軽く咳払いをして話し始める。
「彼女を支えたのは、倒れそうだったからだ。それは間違いない。呪術は肉体もそうだけど、精神的な負担が計り知れないものなんだよ」ジャンセンはため息をつく。「……でもね、神の前で弱っている素振りなんか見せられない。それは負けになるからね。神の怒りが完全に鎮まるまでが勝負なんだ。ジェシルが助かった事で、マーベラに憑いたデスゴンは鎮まった。デスゴンにすれば、アーロンテイシアが蘇ったと満足したってわけだ」
「……わたしは遠退く意識の中でせせらぎのような音が聞こえて、それが誘ってくれて何とか意識を失くす事無くいられて、最後に温かいものに包まれて意識が戻ったって感じだったわ……」
「せせらぎはメギドベレンカのまじないの声だよ」ジェシル言葉にジャンセンは答える。「君はメギドベレンカといっしょに金色の光に包まれて、無事に蘇ったんだ」
「そうだったの……」
「そうさ、命懸けの闘いを、彼女は勝ち取ったんだよ」
「そう……」
 ジェシルは民の方を見る。しかし、すでにメギドベレンカの姿は無かった。
「今頃は民から離れて一人深い眠りについているだろう」ジャンセンが言う。「民の所へ戻る途中、たまたま、ぼくの前で倒れかかったんだ。支えない方がどうかしているだろう?」
「まあ、そうね……」マーベラも納得したようだ。「……でも、最後に何て言ったの? 彼女、驚いた後に、嬉しそうな恥ずかしそうな感じだったじゃない?」
「『マ・ユース・ボリエンタ・カラッチェン・メギドベレンカ』って言ったんだ」ジャンセンは答える。「『メギドベレンカのお蔭で助かった、感謝している』って意味だよ。普段、呪術者は直接には褒められることはない。神を助けたなんて考えは甚だしい不敬になるからさ。皆心の中では感謝しているが、決して口には出さないんだ」
「じゃあ、あなたも言っちゃいけないんじゃないの?」
「いや、それは無いよ」ジャンセンは訊いてきたジェシルに笑む。「なんたって、ぼくはアーロンテイシアのメッセンジャーだから。メッセンジャーなら問題ないさ」
「それで嬉しそうに恥かしそうにしていたのね……」
「多分、直接褒められるなんて、初めてだっただろうし、予想もしてなかっただろうからね」ジャンセンはうなずく。「まあ、そう言う事だったのさ。君たちの考えは悉く外れたってわけだね」
 嫌味っぽく聞こえるが、ジェシルもマーベラも言い返せなかった。
「ちょっと民のみんなに話があるから、外すよ」ジャンセンは言うと、座り込んでいるマスケード博士に目をやる。「博士も君たちのパワーに呆れっ放しだから、介抱を頼むよ」

 

つづく


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