お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ある男の日記 ②

2019年06月25日 | ある男の日記(全5話完結)
 6月14日(金)
 昨日から帰っていないようだ。
 オレをこわがって、友人の所へでも行っているのだろうか? そんなつもりは全く無かったのだが……
 オレは今、友人の所と書いたが、恋人とか彼氏とか書くのがためらわれている。
 一度しか会っていないのに、オレは何を考えているんだ?

 
 6月15日(土)
 隣の玄関ドアの開閉音がした。ひろみが帰って来たようだ。
 何故かほっとしている自分に気がついた。……まさか、オレはひろみに好意を持っているのか?
 引っ越しのあいさつの、あの儀礼的な笑顔を、オレは真に受けているのか?
 しばらくすると、ひろみの歌声が聞こえて来た。
 オレは咳払いをせず、ずっと、ひろみの声を、かわいい明るい声を聞いていた。


 6月16日(日)
 未だに心臓が高鳴っている。
 朝、ゴミを一階の捨て場に出そうと外に出ると、ひろみも出て来た。「おはようございます」と言われた。
 今も忘れられない。
 引っ越しの時のあの笑顔と、かわいい明るい声が、そのままだった。
 オレは声が出ず、ただ頭を少し下げただけだった。
 ……暗いヤツと思われただろう。
 本心はとっても嬉しかったのに……


 6月17日(月)
 窓から何気なく外を見ていると、ひろみが見えた。その横に男が並んで歩いている。
 ひろみが男と話をしている。そのままアパートに向かって来る。
 ……あれは彼氏か? 年も近そうだし、きっとそうなのだろう。
 注意して聞くと、鉄製の階段を上がって来る靴音は一人分だ。彼氏らしき男は帰ったようだ。
 ほっとしているオレ……


 6月18日(火)
 今日は会話ができた。
 朝、ドアを開けると、ひろみが出掛ける所だった。
「おはようございます」オレの好きなかわいい明るい声…… 「はあ、おはようございます」オレは必死に声を出した。自分の声じゃないみたいなカスカス声だった。
「徹夜でもなさったんですかあ?」「ずっとお部屋にいるようですけど、お仕事はクリエイター関連ですかあ?」ひろみは興味津々に聞いてくる。「ええ、まあ……」オレは答える。情無いほど短い言葉しか出せないオレ。
「じゃあ失礼します」ひろみは笑顔を残して階段を降りて行った。
 そのまま帰って来ない。
 ひろみはオレに関心があるのだろうか。つまらぬ妄想が浮かぶ……


つづく



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