お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ある男の日記 ③

2019年06月26日 | ある男の日記(全5話完結)
 6月19日(水)
 ひろみはまだ帰って来ない。
 いっしょに歩いていたあの男と共に居るのだろうか? あるいは事故にでも遭ったのだろうか?
 嫌な事ばかり考えてしまう。
 しかし、考えてみれば、オレとひろみの接点は、たまたま隣同士と言うだけの事だ。
 オレが一人で舞い上がっているだけだ。
 そんな事はわかっている。……わかっているのに、気になってしまう……


 6月20日(木)
 今日は朝から窓の外ばかり見ていた。ひろみが帰って来ないかと見ていたのだ。
 ひろみは帰って来なかった。
 ひろみの面影を追う。
 異国人とのハーフなのか、顔立ちもスタイルも周りの女たちと違っている。圧倒的に優れている。
 特にオレにとって好ましいのは、碧みがかった瞳だ。理由はわからぬが、どこか懐かしさを覚える。
 今、どこに居るのか? あの男といっしょなのか? 下らぬ妄想が消えない……


 6月21日(金)
 今日もひろみは帰って来ない。
 今、外へ出てひろみの部屋を見たが、真っ暗なままだ。
 帰って来ないつもりなのか?
 他人だ! 気にする事など無い! そう自分に幾度も言い聞かせた。
 しかし、心は落ち着かない……


 6月22日(土)
 オレは何も手が付かない。
 今日もひろみは帰って来ない。
 何かトラブルに巻き込まれたのか?
 やはり男の所なのか? それとも……
 妄想がオレを痛めつけている。


 6月23日(日)
 昼過ぎ、ドアがノックされた。「隣の川村ひろみです」とかわいい明るい声がノックに続いた。
 オレは嬉しさのあまりドアを開けた。ひろみが笑顔で立っている。つられてオレも笑顔になりそうだった。……オレに笑顔は似合わない。
 ひろみは手に紙袋を持っていて、それをオレに渡した。「遅ればせの引っ越しのごあいさつです。ご迷惑じゃなければ、もらって下さい。拒む理由など無い。
 それが済むとひろみは出て行った。部屋には戻らず、そのまま出掛けたようだ。
 紙袋の中には、オレは知らないが多分名の通った店なのだろう、そこのケーキが幾つか入っていた。
 初めて食べる味だった。ひろみのくれたものだから、美味いのだろう。


つづく



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