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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 187

2020年11月18日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 皆地下研究室に移った。
 タイムマシンの追跡装置完成に、居てもたってもいられない逸子がケーイチを急かしたのだ。
「お兄様、その装置はどこですの?」逸子はきょろきょろと辺りを見回す。「早くコーイチさんの所に行かなくちゃ!」
「まあ、あわてないいわてない」ケーイチは言うと、右手に持っていたサンドイッチを一口かじった。「おい、チトセ! これ、美味いな!」
「そうか?」チトセは疑り深そうな顔をしている。「それって、挟むものが見つからなかったから、オレの好物の餡子を挟んだんだけど……」
「へえ、餡子サンドか……」ケーイチはしげしげとサンドイッチを見る。「道理で甘いと思ったよ。でもな、頭を使った時は甘い物が良いらしいぞ」
「じゃあ、ちょうど良かったんだな」チトセは言う。「でもさ、それくらいすぐに気付けよな。兄者は研究に没頭すると、何にも分かんなくなっちまうのがいけないよ」
 チトセの言葉にケーイチは笑う。つられてチトセも笑う。しかし、他の皆は笑わない。それどころか、いらいらしている。
「お兄様!」逸子は声を荒げてしまった。逸子の気持ちを考えれば当然だと、皆は思う。「早く助けに行きたいんですけど!」
「え?」ケーイチは逸子の剣幕に驚く。「ああ、そうだったね。でもね、言ったようにあわてない事だ」
「でも……」
「心配はないよ。装置はね、今充電中なんだ。後三十分ほどで終わる」
「そうなんですか……」逸子はほっと息をつく。「じゃあ、後少しですね」
「そう言う事だね。『待てば懐炉も日持ちする』って言うからね。待つことも大事さ。特に研究をする身にはね。一つに仮説を証明するのに、辛抱強く実験を繰り返し……」
 ケーイチの話が長くなりそうな感じになった。
「あの、ケーイチさん……」と、そこへタロウがケーイチに話しかけた。「……その装置って言うのを見せてもらえませんか? さぞかし凄い物なんでしょうね」
「え?」話の腰を折られた格好のケーイチだったが、興奮と期待に目をきらきらさせているタロウを見るとうなずいた。「ああ、良いよ。……でも、そんなに凄い物ではないと思うね」
 ケーイチは言うと、実験用の長台の上のぼろ布をさっとめくり取った。
 そこには、縦十センチ横五センチ厚さ三センチ程度の、黒い金属性の小箱状の物があった。確かに充電中らしく、電源コードが接続されていて、本体のオレンジ色の小さなランプが点灯している。
「……あの、これ、ですか……」タロウは言う。「ボクは、もっと大きい物を想像していました……」
「ははは、この研究室のあるもので作ったからね。それにみんなは急いでいたようだし。だから、これはタイムマシン一台の追跡用だ。時間と部品とがあれば、全てのタイムマシンの追跡が可能なものが作れると思うけどね」
「ケーイチさんって……」タロウが呆れかえったように言う。「本当に、凄いんですね……」
「それで、お兄様」タロウの感慨などに構ってられないとばかりに、逸子が割って入る。「これってどう使うんですか? まだ三十分経っていないんですか?」
「あわてない事だ、逸子さん」ケーイチは言うと、手にしている食べかけのサンドイッチを頬張った。もぐもぐしている口元がコーイチさんにそっくりだわ。逸子は無意識に思った。「そのオレンジ色のランプが緑色になったら充電完了だ」
 ケーイチが言い終わると、ランプは緑色に変わった。
「おっ、充電完了だ」そう言うと、ケーイチは装置からコードを抜き、装置自体を裏返しにした。面の半分ほどの大きさの液晶パネルの下に、幾つかのボタンや方向キーやらが付いている。「おい、チトセ!」
「何だよ?」チトセはすっとケーイチの隣に来た。「サンドイッチのお代わりか?」
「そうじゃない…… でも、この餡子サンド、美味いな」ケーイチはにやりと笑ったが、すぐに真顔に戻った。「そうじゃなくてだな、あれだ、教えたように、ナンバーを覚えているか?」
「うん」チトセはうなずく。「兄者に言われていたからな」
「……何の話ですか?」ナナが聞く。「良く分からないんですが……」
「ほら、タイムマシンにはそれぞれ機体番号が付いているだろう?」ケーイチがナナに向かって話す。「タイムマシンを操作すると光が生じ、その中に入って使うだろう(ナナはうなずく)? 光に中に入ると天井の隅に機体番号を刻印したプレートが付けられている。チトセには、それを見て覚えるように教えたんだよ」
「オレ、兄者からタイムマシンをもらった時に、それを教えてもらったんだ。それで、テルキって人のタイムマシンに飛び込んだ時に、それを見たんだ」
「それで、その番号を覚えたの?」
「そうだよ。オレ、覚えるの得意みたいでさ」チトセが胸を張る。「しっかりと頭の中に入っているんだ」
「凄いわねぇ……」ナナはつぶやく。「伊達にケーイチさんの助手をしていないわね……」
「チトセ、覚えた番号をこの装置に打ち込め」ケーイチはチトセに装置を渡す。「この方向キーを左右に動かすと数字やアルファベットが現われて、切り替えられる。決定は方向キーの右隣のボタンを押す」
「分かった!」
 チトセは言うと、素早く指先を動かして打ち込んで行く。小型のゲーム機で遊んでいる子供と言った感じがする。逸子は少しほのぼのとした気持ちになったが、チトセにコーイチの命運が懸かっていると思い、気を引き締めた。
「終わったよ」
 チトセはケーイチの装置を返した。液晶パネルには二十桁ほどの数字やアルファベットが並んでいる。
「ようし」ケーイチは言うと、右端の赤いボタンを押した。「しばらくしたら、この機体番号のタイムマシンの居る時代や場所が分かるよ」
 装置はかちゃかちゃと小さな音を立て続けている。皆は装置に釘付けになっている。
 しばらくして、装置の音が止んだ。


つづく

 
 

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