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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 7

2022年07月10日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 不意に、皆の目の前に白い光の点が生じ、それが縦に細く広がった。皆は警戒する。みつは刀を抜いて中段に構えた。冨美代も薙刀を中段に構える。虎之助は軽く跳躍しながら何時でも飛び出せるように整えている。豆蔵は石礫を幾つか右手に仕込む。三人の祖母たちはうっすらと気を全体に立ち昇らせている。何があっても万全だった。
 縦に広がった光りから、それを左右に押し広げるようにしながら、人が出てきた。皆は一斉に仕掛けようとする。
「ちょっと! お待ちよう! わたしだよう!」
 光から出てきた者は言うと、地面に座り込んだ。
 楓だった。
 汚れて皺になった着物の左袖が肩からほつれていて、白い二の腕が見えている。裾も破れていて、白い脛が二本とも丸出しになっている。顔も頬が叩かれでもしたように両方とも赤くなって少し腫れている。座り込んだまま、肩を激しく上下させ、荒い息遣いが止まらない。
「楓、どうしたんでぇ?」
 豆蔵が訊く。皆は警戒を解かない。
「見りゃ、分かるだろう?」楓は息も絶え絶えに言う。「あいつらから逃げて来たんだよ!」
「あいつら……?」
「何だい、岡っ引きのくせして、もう忘れちまったのかよ!」楓は豆蔵を睨みつける。「わたしゃ、辰に連れられちまったじゃないか!」
「……ああ、そんな事もあったなあ」豆蔵はにやりと笑う。「あれは芝居だろ? オレたちを迷わそうって言う」
「そんな事あるもんかよ!」
「お前の日頃の行いがなぁ……」
「何だい、何だい!」楓は悔しそうな顔をしながら立ち上がり、皆の顔を見回す。「どいつもこいつも、この楓姐さんが信じられないって言うのかい? 消されかけながらも、こうして戻って来てやったってのにさ!」
「誰も、待っちゃあいねぇよ」豆蔵は冷たく言う。「それよりも、お前を追って、辰とユリアも来ちまうんじゃないのかい? いい迷惑だぜ」
「そんな言い方は無いじゃないか!」楓は言うと、ほつれた左袖の中に右手をつっ込んだ。そして、何かを掴み出した。「せっかく、これを奪い取って来てやったって言うのにさ」
 楓が得意気に示したものは、人差し指と親指とで挟んだ小さな珠だった。
「あなた、まさかそれって……」そう言って、ふらふらと前に出てきたのは虎之助だった。「竜二ちゃんじゃないの?」
「大当たりぃ!」楓がふざけた口調で言う。「あのチンピラ坊やだよ。隙を見て逃げ出す時に、さゆりの袂から掏って来たんだ」
「本当にぃ!」虎之助は楓に向かって駈け出した。しかし、豆蔵がそれを止めた。虎之助の腕をつかんだのだ。「ちょっと、豆ちゃん、放してよう!」
「相手は楓だ。嘘かもしれねぇぞ。オレたちを捕まえようって魂胆かもしれねぇ!」
「とことん、信じてもらえないんだねぇ……」楓は言う。「じゃあ、いいや。このまま、わたしはどこかへ逃げるさ。もう、あんたらとは会う事もないだろう」
「ちょっと待ってよう!」虎之助は慌てる。「ねえ、あなたが持っているのって、本当に竜二ちゃんなのね?」
「本当だって言ってんじゃないか!」
「……ねぇ」虎之助は豆蔵を見る。「楓を助けてやろうよう…… 竜二ちゃんを取り返してくれたんだしさ……」
「でもよ、本当かどうかは分からねぇ…… 罠かも知れねえんだぜ」
「だってさ、これから殴り込みを掛けようって言ってたじゃない? だったら、ちょっとくらいの事は良いじゃないのさ?」
 豆蔵は判断に困って珠子を見る。
「……楓さん」珠子が楓を見つめ、咳払いをしてから話し始める。「日頃の行いが、物を言うのですよ。それをしっかりとご自分で分からなければいけません」
「分かってるよ……」楓は口を尖らせる。「でもさ、わたしだって良い目を見たいじゃないか?」
「そのために、あっちへふらふら、こっちへふらふらってしてたら、結局は行く所が無くなります」
「そんな事を言ったって……」
「ふらふらするのは、本気じゃないからです」珠子は言うと、優しく笑む。「だから、今がその本気の見せどころ。わたしたちと共になるのなら、そのお覚悟を持つことです」
「覚悟……」
「そうです」珠子はうなずく。「あなたは、悪ぶっていても、思いのどこかで、深くは入り込めないでいる自分に気がついているでしょう。だからと言って、善行を積むのも難しい。いえ、恥ずかしいと思っているのですね。善行は恥ずかしい事ではありませんよ」
「そ、そうかねぇ……」楓は満更でもない顔をする。「恥ずかしい事じゃないのかねぇ……」
「恥ずかしいと思う心の方が恥ずかしいのです」珠子は言う。「もしそうなら、わたしたちは恥ずかしい集団ですよ」
「そうか……」楓は考え込んだ。「……確かにね、悪いヤツらといるとさ、気は休まらないよ。蹴落としと這い上がりばっかりだからね。正直疲れちまう」
「そうでしょうね」珠子がうなずく。「じゃあ、決まり。金輪際、悪い事には加わらない事ね」
 楓は大きくうなずくと、手にした珠を虎之助に差し出した。虎之助は受け取る。そして、珠を手の平で軽く転がす。
「ねぇ……」虎之助は楓を見る。「この珠、どうやって竜二ちゃんに戻すの?」
「それは……」楓はすまなそうな顔をする。「ごめんよ、本当に分からないんだ」
「そう……」虎之助は答え、にこりと笑む。「でもさ、竜二ちゃんと一緒だもんね。それはすごく嬉しい」
「あのう……」冨美代が言う。涙ぐんでいる。「わたくし、感動いたしました。虎之助様の愛の力が、必ずやその呪を破りますわ」
「おそらく、ですが」みつが言う。「さゆりを倒せば、竜二さんは元に戻ると思います。呪を掛けた当人ですから……」
「じゃあ、さっさとさゆりを倒しましょうよ!」
 虎之助が言う。
「ははは、そうは行かねぇよ!」
「そうそう、お生憎様だね!」
 まだ残っている光りに中から声がした。そして、光の中から辰とユリアが現われた。


つづく

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