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ジェシル、ボディガードになる 126

2021年05月28日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ジェシルとハービィは船外に出た。厚ぼったい雲が空を覆い、岩山だらけの殺風景な大地の割には快適な温度と湿度だ。
 ジェシルは宇宙船の右舷側に回り込み、損傷具合を確認した。焼け焦げた大きな亀裂とへこみが生々しい。
「……良く着陸出来たわねぇ」
 ジェシルは呆れたように、感心したようにつぶやき、ハービィを見る。
「当然だよ、ハニー」ハービィはぎぎぎと音を立ててジェシルに顔を向ける。「わがはいが操縦しているのだ」
「あら、凄い自信ね」
「ハニーを守ると言っただろう?」
「でも、発進したら壊れるって言ったわ。わたしを守るとは言えないんじゃない?」
「壊れる言えば、きっと発進を止めると思ったのだよ、ハニー」ハービィは言う。何となく得意気だ。「結果として、ハニーを守った事になるだろう?」
「ハービィの方が一枚上手って事か……」ジェシルは苦笑する。「まあ、良いわ。ムハンマイドの運んできた機材を搬入しちゃいましょう」
 宇宙船から少し離れた所に、覆いの無い一人乗り用の電動車を先頭にした、六ヤード四方の黒い立方体を載せた大きな台車が、五つ連結された状態で放置されていた。
「ムハンマイドは修理用のユニットを取りに戻ったようね……」ジェシルは言う。「ムハンマイドが戻って来る前に搬入しちゃいましょう。ハービィ、格納庫の出入り口を開けて」
「了解、ハニー」
 ハービィはぎごちなく動きながら、外部についている操作パネルで、宇宙船の最後尾にある格納庫の口を開ける。ハービィがさらに操作をすると、スロープが伸びて地面に接した。その間に、ジェシルは電動車の運転席に座って、ざっとシステムを見回す。どこにでもある一般的なものだった。……何よ、天才だと言われている人物の電動車だから、何か特別だろうと思っていたのに! ジェシルは不満気に口を尖らせる。ジェシルは電動車を動かして連なる台車を牽きつつ、格納庫へのスロープを上る。思いの外なだらかな地面なので、揺れる事も無く順調に収める事が出来た。
 収納が終わり格納庫から出ると、ハービィの姿が見えなかった。周囲を見回していると、損傷を受けた右舷側から声が聞こえてきた。ジェシルはその方へ向かった。
 男性だった。すらっと背が高く、均衡の取れた後ろ姿が見えた。白いシャツに黒いスラックス、金色のハーフブーツと言う出で立ちだった。肩まで伸びたぼさぼさの赤い髪が、話をするたびに揺れている。向かいに立っているハービィは、動きを止めて話を聞いてるようだった。
「ハービィ……」
 ジェシルが声をかけた。ジェシルの声に反応し、ぎぎぎと音を立てながらハービィが立ち位置を変え、ジェシルを見た。それに合わせて、背を向けていた人物もジェシルに振り返った。全く陽を浴びていないだろうと確信できるほどに色白な顔で、そのくせ目鼻が整っている。年齢的にはジェシルと同年代と言った感じだ。ジェシルと視線が合う。途端に二人とも険しい表情になった。
「あなた……」ジェシルがイヤそうな声を出す。「ムハンマイドね……」
「そうだ。そう言う君は……」ムハンマイドも負けないくらいにイヤそうな声を出す。「宇宙パトロール代表のジェシルか……」
「ええ、そうよ」ジェシルはむっとした表情を崩さない。「でも、宇宙パトロール代表は大袈裟よ。オーランド・ゼムが勝手に言っただけだから」
「まあ、そうだろうな。そんなふざけた格好をしているんだからな」
 ムハンマイドはそう言いながら、じろじろとジェシルを見る。ジェシルはその時になって、自分が水色の袖なしのワンピースを着ていた事に気が付いた。ムハンマイドは軽蔑し切ったような、小馬鹿にしたような視線をジェシルに向けている。
「宇宙パトロールと言うのは、そんな格好でも勤まるものなのだな」ムハンマイドが鼻で笑う。「気楽なものだな」
「違うわよ!」ジェシルはむっとしたままの顔をムハンマイドに向ける。「制服を洗っていたから、その間だけ着ているのよ!」
「ほう、宇宙パトロールと言うのは、任務遂行中でも制服を洗えるのか。やっぱり、気楽なものなのだな」
「何よ! 偉そうに、上から目線でさ! 迎えに来なきゃ行かないとか、荷物を運ぶのを手伝えとか、一人じゃ何も出来ないんじゃない!」
「偉そうだって? 一人じゃ何も出来ないだって?」ムハンマイドもむっとした顔をする。「じゃあ、聞くがね、宇宙パトロールが発足してからどれくらい経つんだ? 長い年月が経っているんじゃないか? その間、シンジケートを潰す事が出来なかったダメ組織じゃないか! そのくせ、一般の犯罪には威圧的だよな? ちっぽけな犯罪を捕えては、検挙率が上がったとか何とか言っている。だが、シンジケートには手が出せないじゃないか! 父も言っていたぞ。『宇宙パトロールなんざ役立たずだ。ちっとも怖かねぇ』ってね。実際、シンジケートを潰そうと言う今回の事だって、シンジケートの手を借りなきゃできないじゃないか。情けない事この上無しだよな!」
「わたしだって、シンジケートをぶっ潰したいわよ! でもね、色々とうんざりするほど面倒な事が多いのよ!」
「そんなのは言い訳だな」ムハンマイドは軽蔑の笑みを浮かべる。「要は、宇宙パトロール自体にやる気が無いんだよ。何故かって? それはシンジケートと裏で繋がっているからさ」
「そう言う連中もいるけど、そうでない人達の方が多いわ!」
「ふん、権力を持っているヤツらがシンジケートと繋がっているんだよ。下っ端が幾ら束になって力んだって無意味なのさ。実際の話、父もその同僚たちも、宇宙パトロールの上層部とねんごろなんだよ。そうなれば、どうとでも出来る。シンジケートから見れば、宇宙パトロールなんて建前だけなのさ」
「ふん!」
 ジェシルは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。……何よ、何よ、何よ! どうしてこんなイヤなヤツも仲間なのよ! わたしはもう知らないわ! 彼はオーランド・ゼムに任せるわ! ジェシルはムハンマイドを睨みつけた。


つづく

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