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障害者差別の特性と、行政の立脚点の齟齬を埋めるために

2018年08月11日 23時08分20秒 | 障害者権利条約Vs障害福祉

日本は国連障害者権利条約を批准し、条約に準拠した法律で障害を理由とする差別を禁止している。しかし現実には、われわれの周囲は「障害を理由とする差別」に満ち溢れ、一方で「差別されたことはない」という当事者・家族もいる。そもそも「障害」とは何か、という認識自体がここ数十年で大きく変化したともあって、差別禁止に合意したとしても、「何が『障害を理由とする差別』なのか」が、専門家や行政を含めて合意形成できていない、という現実で、障害と差別を理解啓発する研修も、内容や方法の合意形成が困難だ。差別・偏見に一般にある問題への考察と並行して、筆者の現場である障害者差別に顕著にみられる状況分析をしていく。


1 進化した障害者差別の概念と、追いつかない現場の落差

以前からの繰り返しにはなるが、「障害とは何か」「障害を理由とする差別とは何か」が、ここ数十年で大きく変化した。国連障害者権利条約の成立と、各国における批准の進展がひとつの到達点といえる。一方で、この変化に現場は追いついていない。行政、専門家、当事者、家族も、今まで当然とされてきたことと、条約が示した新しい概念の落差に対応できていないことを感じる。

長年、障害者と人権はなじみのないものとされてきた。昨日まで社会が準拠してきた医学モデルに立つ限り、機能障害を原因とする不利益はその個人に責任があり、障害に応じて権利が制限されるのは当然、というのが社会の合意だったからだ。


2 責務者である行政の首長、幹部職の研修は?

このように、それまでの社会で合意できていなかった、人権に関する新しい考え方に転換していく時期には、教育啓発が組織的に行われる必要がある。特に、責務者である行政とその首長、幹部職には先行した研修が必要となる。それがないままで一般への教育啓発は機能しない。この問題も以前とりあげた(「思いやり」Vs「人権教育」(その1)-2017年人権週間の最終日に寄せて-)。

では、障害者差別解消法においても、そうした問題への用意がまったくないかといえば、そうではないと考える。

政府は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」で、「第3 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項」において、

1 基本的な考え方

行政機関等においては、その事務・事業の公共性に鑑み、障害者差別の解消に率先して取り組む主体として、不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供が法的義務とされており、国の行政機関の長及び独立行政法人等は、当該機関の職員による取組を確実なものとするため、対応要領を定めることとされている。行政機関等における差別禁止を確実なものとするためには、差別禁止に係る具体的取組と併せて、相談窓口の明確化、職員の研修・啓発の機会の確保等を徹底することが重要であり、対応要領においてこの旨を明記するものとする。

とある。以下、対応要領について具体的に指示している。

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2 対応要領

(1)対応要領の位置付け及び作成手続

対応要領は、行政機関等が事務・事業を行うに当たり、職員が遵守すべき服務規律の一環として定められる必要があり、国の行政機関であれば、各機関の長が定める訓令等が、また、独立行政法人等については、内部規則の様式に従って定められることが考えられる。

国の行政機関の長及び独立行政法人等は、対応要領の作成に当たり、障害者その他の関係者を構成員に含む会議の開催、障害者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成後は、対応要領を公表しなければならない。

(2)対応要領の記載事項

対応要領の記載事項としては、以下のものが考えられる。

趣旨

障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方

障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例

相談体制の整備

職員への研修・啓発

3 地方公共団体等における対応要領に関する事項

地方公共団体等における対応要領の作成については、地方分権の趣旨に鑑み、法においては努力義務とされている。地方公共団体等において対応要領を作成する場合には、2(1)及び(2)に準じて行われることが望ましい。国は、地方公共団体等における対応要領の作成に関し、適時に資料・情報の提供、技術的助言など、所要の支援措置を講ずること等により協力しなければならない。

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ちなみに、大田区が作った対応要領は、形式的にはこの基本方針に準拠し、職員への研修については、「第8条 区は、障害を理由とする差別の解消の推進を図るため、職員に対し、必要な研修及び啓発を行うものとする。」としている。しかし、首長、幹部職を含めて新しい障害概念=「障害の社会モデル」の研修を自ら受ける様子がない。

問題なのは「行政は差別しない」「行政は専門性を持ち差別について十分に判断できる」という誤った認識から出ようとしないことだ。以前から述べているように、「誰もが差別の加害者であることから逃れられない」上に、行政は「原理的に加害者」なのだが、その認識を認めるのはどうしても抵抗があるようだ。


3 行政の危惧

行政側の頑なな姿勢の背景にある本音を聞くと、「『合理的配慮』の名のもとに、過重または理不尽と思われる一方的要求をぶつけられる」という出口のない閉塞感から、特定の団体や学識者と密接な関係を形成することで防御壁を引いていることがわかる。確かに行政職員には逃げ場がなく、防御壁は自らを守るために必要なのだろう。それを「原理的に加害者」などと認めてしまえば丸腰になってしまい、研修の名のもとに特定の団体に支配されかねない。


4 障害者差別解消における相対的先進性が、担保され活かされる方法の模索


障害者差別への取り組みは、たの差別の課題に比べて新しい。そのこともあり、取組手法自体が他の課題に比べて相対的に先進性を持っていると考える。


障害者権利条約において、障害に対する定義は進化したが、それに留まらず、障害を「生成途上の概念」とした。同時に、障害による差別の定義も進化し、「差別は合理的配慮を提供しないことを含む」という、ある意味消極的な差別をも対象にし、差別の概念の拡張をした。


合理的配慮は一定ではなく変化もする。過重な負担も一定ではなく変化もする。このような柔軟な状況に対応するために、日本では障害者差別解消法において、「建設的対話による相互理解」をキーワードとした。「建設的対話」は、国連障害者権利条約には存在せず、どちらかといえば条約委員会と締約国の間でなされるやり取りで使われている用語である。差別のある関係性はもともと対等ではない、非対称なものであるだけに、建設的対話が成立するためには第三者期間の調整調停が不可欠である。

差別解消のしくみが動くためには、建設的対話を担保する調整調停機能が問われている。しかし、前に述べたとおり、基本前提である「加害の自己認識」すら持つことも困難な現状で、現状で行政窓口の調整調停能力にはあまり期待できない。以下に参照したように、「障害者差別解消支援地域協議会」も、直接にはその任にあたるものではない。唯一期待できる方法として、障害者権利条例を制定し、その中に権利委員会を設置して調整・調停機能を担わせることだと考える。

この調整・調停の中で、

1)一般性を持つ事項は公的基準に追加する

2)結果を啓発の内容に還元する

役割も求められ、また

3)相談窓口の対応・助言が適正であったかを検証評価する

役割にも踏み込めることが望ましいと考える。


その権利委員会設置の際の課題としては、

1)委員会の公開性の担保方法

2)委員会への区民参加の枠組みの基本的な考え方

3)委員会への当事者参加と「当事者性の限界」への認識整理

があると考える。


ここから先の構想は、現在8年越しですすめている「大田区障害者権利条例をつくる会」の議論の中で整理していきたい。


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4 障害者差別解消支援地域協議会
(1)趣旨
障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者にとって身近な地域において、主体的な取組がなされることが重要である。地域において日常生活、社会生活を営む障害者の活動は広範多岐にわたり、相談等を行うに当たっては、どの機関がどのような権限を有しているかは必ずしも明らかではない場合があり、また、相談等を受ける機関においても、相談内容によっては当該機関だけでは対応できない場合がある。このため、地域における様々な関係機関が、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事案の発生防止の取組など、地域の実情に応じた差別の解消のための取組を主体的に行うネットワークとして、障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができることとされている。協議会については、障害者及びその家族の参画について配慮するとともに、性別・年齢、障害種別を考慮して組織することが望ましい。内閣府においては、法施行後における協議会の設置状況等について公表するものとする。

(2)期待される役割
協議会に期待される役割としては、関係機関から提供された相談事例等について、適切な相談窓口を有する機関の紹介、具体的事案の対応例の共有・協議、協議会の構成機関等における調停、斡旋等の様々な取組による紛争解決、複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押し等が考えられる。






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