草魂を見習い、ノーモア賭博!日本野球機構(NPB)の新人選手研修会が12日、東京都内のホテルで行われ、楽天のドラフト1位・オコエ瑠偉外野手(18=関東第一)ら116選手が参加。昨年の巨人選手による野球賭博問題を受け、1969年の「黒い霧事件」の説明とともに、通算317勝左腕・鈴木啓示氏(68=スポニチ本紙評論家)が八百長の誘いを断った際の生々しいやりとりも紹介された。日本球界を背負っていくルーキーたちに賭博に関与しない強い心を求めた。
野球協約の条項説明にはじまり、「黒い霧事件」の経緯をプロジェクターを使いながら説明した後だ。NPBの伊藤修久法規室長は切り出した。
「近鉄のある主力投手の例をご紹介したいと思います」
毅然(きぜん)と八百長と立ち向かった選手がいた。約5分間。生々しいやりとりを、伊藤室長が関西弁で臨場感たっぷりに紹介した後、ルーキーたちに「この選手をご存じですか?通算317勝を挙げている投手、近鉄の大エース、鈴木啓示さんです」と明かした。
近鉄の先輩でスナックを経営していた先輩がいた。鈴木氏もお世話になっていたが、その店で先輩から紹介されたのが暴力団関係者。「今後投げる試合で手心を加えてくれへんか?」と言われたことが始まりだった。
鈴木氏 そんなことはできません。
半年後。先輩から「あの方(暴力団関係者)と付き合ってくれ」と再度言われた。
鈴木氏 いっぺん、あんなこと言われた人と僕は付き合えません。先輩に長い間お世話になりましたけど、先輩との付き合いもやめさせてください。電話もせんといてください。
先輩 付き合った方がおまえのためになると思って言っている。野球できへん体にしてやるぞ。
鈴木氏 野球できへん体にされたら、実家の酒屋の商売でも手伝いますわ。その方が八百長やっているよりも、よっぽどマシです!
鈴木氏は当時22歳、24勝を挙げ、最多勝を獲得した69年の出来事だ。同年は八百長が明るみに出た「黒い霧事件」が発覚。65年新人王の池永正明氏、65年東映のドラフト1位で11勝を挙げた森安敏明氏ら、同世代の選手が永久追放処分を受けた。「草魂」を座右の銘とした鈴木氏の男気エピソード。近鉄球団を通じてコミッショナーへの告発も正確に行っていたからこそ、記録が残っていた。伊藤室長は「鈴木さんの勇気ある行動とともに覚えていただけたら」と強く訴えた。
賭博問題で揺れた巨人のドラフト1位・桜井(立命大)は「自己管理が大事。先輩であるとか関係なく、断るべきことは断る大切さを学んだ」と実感を込めて話した。初めて新人研修に組み込まれた「有害行為」と題された30分にわたる講義。鈴木氏の毅然とした態度は、新人選手の心にしっかりと刻まれたはずだ。(倉橋 憲史)