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ハヤカワ文庫、数理を楽しむシリーズ、3冊を読む

2020年11月26日 | 数学

数学読み物として、縦書き翻訳本、数式のない数学の本3冊を続けて読んだ。まとめてその読後所感を書く。

<今回読んだ3冊の本の 書名 著者・翻訳者 発行日>
(1)ポアンカレ予想
    ジョージ・G・スピーロ 永瀬輝男監修他 発行日 2011/4/15 2013/10/25第3 刷
(2)「無限」に魅入られた天才数学者たち
    アミール・D・アクゼル、青木薫訳、発行日 2015/8/25
(3)神は数学者か
    マリオ・リヴィオ 千葉敏生訳 発行日 2017/9/25 2018/4/15第2刷

いずれもそれぞれのテーマについて、時の流れに沿って難解な理論の概要を普通の言葉によって説明する形の本となっている。

(1)「ポアンカレ予想」はこの「予想」が生まれてきた経緯から始めその内容を解説する。「予想」されている命題の内容が難しい。3次元を超えた高次元空間の話のために、分かりにくい。図形や立体的なイメージをつかもうとして読んだら全く理解不能になる。
ポアンカレの問題提起(予想)とは(同書p167)、
“多様体の基本群が自明であり、かつその多様体が球面と同相でないことがありうるだろうか” ・・・(途中略)・・・
輪ゴムが取り付けられて巻き付けられた物体を使って言い直してみよう。「どのように掛けられた輪ゴムも一点に縮めることができる三次元物体は、球面に変形できる」。つまり三次元球面を識別するのに必要な情報は一次元ループだけでいいのではないかとポアンカレは考えた。
また、「ポアンカレホモロジー球面の作り方」(p153~154)
正十二面体では二つの正五角形が必ず向かい合っており、それが全部で六組ある。その一組を選び、正十二面体を伸ばしてまげて―――五分の一回転(72度)させてねじってから―――二つの五角形を張り合わせる。・・・・(途中略)・・・そして、ほかの五組についても同じことをすると、見事、ホモロジー球面の出来上がりとなる。

わかったような気になることも無理だ。数学入門辞典(岩波)にはポアンカレ予想Poincare Conjectureとは「単連結な3次元コンパクト多様体は3次元球面Sに同相である」とあり、参考にはならない。詳細の議論についていけなくても大筋の議論は理解できる。ただ、肝心の最後の部分でお手上げとなる。トポロジーは難しい。

(2)同じトポロジーの一分野でもある結び目理論の話が「神は数学者か」にも出てくる。こちらも立体幾何の感覚がないとイメージできない。最近の数学者はいったいどのような頭の構造をしているのだろうか、と思う。ただこの「神は数学者か」についていえば、こうしたトポロジー理論そのものの理解は不要だ。この本のテーマは「自然科学における数学の不条理な有効性」、「Unreasonable Effectiveness of Mathematics」、つまり、なぜこの世界が数学でできているように見えるのか、ということだ。

「数学の不条理な有効性」には二通りの側面、「アクティブ、積極的」な側面と、「パッシブ、受動的」な側面がある、とする。アクティブ積極的とは、「科学者たちが明らかに応用可能な数学的用語を用いて自然法則を構築するケース」、ニュートン力学はまさにこれ。ニュートンは微積分の理論を構築して自然法則を記述した。

一方パッシブ受動的とは「もともと応用する意図もなく作られた抽象的な数学理論が、後になって強力な物理学等の予測モデルに変身するケース。純粋数学の典型であったトポロジー(位相幾何学)の一分野、「結び目理論」がDNAを扱う分子生物学に適用された。アインシュタインは相対性理論を構築するにあたり、リーマン幾何学(非ユークリッド幾何学)を用いた。

そして、そもそも数学というのは「発見」か、つまり人が知る前に確固として存在し(数学者である「神」が創造したと主張する人もいる)、それを数学者が発見しているのか。
それとも「発明」か、つまり、人間(数学者)がその頭脳を用いて思索から創作した論理体系なのか、ということを考えている。多くの数学者たちの意見を詳しく説明した後、著者の主張は、次の通り。
 数学は半分が発明で半分が発見だと提案したい。一般的に、数学の概念は発明であり、概念同志の関係は発見である。(p337)

このことを議論する最後の章になるとこの本は哲学書の様相を呈してくる。「神」を扱い始めるとどうしてもそれは避けられない。この部分は私の趣味ではない。
(誤植p38、完全数として28,496,8218となっているが、8218は間違い、正しくは8128.)
(8218=2X7X587 これはダメ。8128=2^6X127こちらは完全数)

(3)「無限に魅入られた天才数学者たち」は、上記2冊とは少し異なり、数学における「無限」とは何かということを掘り下げた本。ギリシャ数学から始まり、カントールの集合論と連続体仮説、その議論の中から出てくる「選択公理」の問題などを詳しく解説している。この内容もまた難解であるが、分かったような気持ちにさせてくれ、非常に興味深く読むことができたという点では、ポアンカレよりはまだわかりやすい。

20世紀の最先端分野の数学の本を3冊読んで感じたことは、「数学は趣味にとどめておけば楽しめる。数学者も歴史に残るほど優秀なものは精神に異常をきたすものが多い」ということ。3冊の本はいずれも、「数学者にならなくてよかった」という気持ちを強くさせる本だ(もっともなれるほどの知能があったとは思わないが、、、)。