世間の常識では、高齢者はパソコンやスマホは不得意でいわゆる「ディジタルディバイド」されている者が多い、ということになっているようです。でも少し違うと思う。団塊の世代が高齢者区分に入りつつある。また「大都市シニア層のネット利用率は高い」「60歳以上の年代のインターネット利用は拡大傾向」、「65~69歳のインターネット利用率は、過去4年間で、57%→69%」(総務省調べ)http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05a.html
ということは、これから人口の高齢化に伴い、パソコンなどの情報機器ユーザーの年齢はどんどん高まり、若者たちの比率は落ちていくということです。現に年金生活に入った人たちが同窓会を開くときの案内は今や郵便ではなくメールを使っている。こうした実態を電機業界、情報機器・ソフト業界はどこまで気付いているのだろうか。
なぜ私がこういうことを言うかといえば、最近のウィンドウズOS やオフィス系ソフトの開発をしている人たちが高齢者に目を全く向けていないのではないか、利用実態を把握していないのではないかと強く感じるからです。爆発的だったウィンドウズ95の発売の時期に私は初めてPCを購入し、以来仕事に趣味にパソコンを毎日のように使ってきたので、一般のサラリーマン(除くIT技術者)と比べて、ソフトハード面の知識水準はかなり上位だと自負していますが、最近ウィンドウズ8.1のノートパソコンを購入してきわめて腹立たしく思ったからです。
パソコンの使用にあたって高齢者は若者とどこが違うかというと、最大のポイントは「目」です。視力です。小さな文字は読めないのです。だからパソコンの文字も大きくし、11ポイント以上にしないと使いづらいのです。マイクロソフト社の技術者はおそらく「そんなことは知っている、だから文字の大きさを調整できるようにしてある、虫眼鏡機能も付いている。」というに違いありません。確かにほとんどの字は大きくなります(ただしそのやり方が分かるまでにかなりの時間と知識が必要です)。また、虫眼鏡は画面の一部のみが拡大されるので不便です。「あなた方は文字を大きくして使っている高齢者ユーザーの意見・使い勝手をヒアリングしたことがあるのですか」と言いたいのです。どうやっても大きくならない文字があります。「これ以上大きくすれば画面が正常に表示されないことがあります」などという脅し文句が出てきます。幸い私は近視だから、めがねをはずしてディスプレイから10cmぐらいのところに顔をくっつけていけば何とか読めます。それでもどうしてわざわざ小さい文字の色まで薄くするのですか。見た目がきれいでも読めないものには意味がありません。高齢者は自分のパソコンのカスタマイズは若者にやってもらえとでもいうのでしょうか。孫の勉強を邪魔したくない、せっかく休みにくつろいでいる息子たちに迷惑をかけたくない、というのはいけませんか。
OSの大幅変更も厄介なことの一つです。私の場合、8.1の「タイル式」スタート画面を使わず、以前と同じデスクトップ方式にして使っていますが、一般に高齢者はこのような操作要領の大幅改定にはついていけないでしょう。自動車産業を見習うべきです。彼らは高齢化社会に対応して、70歳を過ぎた者でも新しい車が買えるように、衰えた身体能力でも従来と同じように運転できる車の開発を目指しています。
やがてスマホもタブレットも市場が飽和するにちがいありません。金を持っているのは若者ではなく、高齢者です。高齢者は若者と異なり、自分にとってのコストパフォーマンスは自分が決めます。まわりの人と比べて、という意識は低いのです。自分に役立つ物を買う金はあるのです。
おそらくマイクロソフト社はアメリカが日本ほど高齢化していないからなかなか気が付かないでしょう。気づいていないから、オフィスの画面のメニューは文字がうすくて見づらい、エクセルは、1ページから少しはみ出した資料を無理やり1ページに納めるためにボタン一つで全体を縮小するなどというばかげた機能を持たせている。結果として余白だらけで文字が小さいという資料を作った若手社員は老眼の役員に叱られる。
無給でいいからマイクロソフト社のソフトウェア開発のアドバイザーになって、若手技術者を叱り飛ばしてやりたい。「デフォルトを高齢者とせよ」というのは私一人の愚痴なのでしょうか。
どのメーカーが高齢者に好まれるか、それが企業の生き残りのポイントとなるということに早く気付くのは日本のメーカーか、韓国台湾のメーカーか、いま私はそういう目でこの業界を見ています。