郵政見直し
2010年06月30日
地区唯一の金融機関の窓口となっている近露郵便局=田辺市
■地区唯一の金融窓口
・高齢者多く 局廃止「かなわん」
熊野古道の中辺路ルートにあたる田辺市の近露(ちかつゆ)地区。かつて古道の宿場町として栄えた山あいの町にはいま、金融機関の窓口が旧特定郵便局の近露郵便局しかない。今年3月末、郵便局以外で一つだけ営業していた金融機関の支所が窓口業務を閉じた。
「郵便局まで引き揚げてしまったら、かなわん。この辺りは高齢者の一人暮らしも多い。車のないお年寄りには年金を受け取るだけでも難儀になる」。地元で林業を営む○○さんは、ため息混じりに話す。
金融機関は、窓口閉鎖の代わりに現金自動出入機(ATM)を設置した。問い合わせなどに応じる職員1人が在駐しているが、お年寄りの中には機械の操作になじめず、10キロ近く離れた栗栖川地区の窓口までわざわざ車やバスで出かける人もいる。
近露地区は人口が500人弱。このうち約4割が65歳以上の高齢者だ。○○さんが住む集落は、28世帯のうち8世帯が高齢者の一人暮らしという。「就職先もなく、子どもたちはみんな町の外に出た」と中村さんは話す。
小泉首相の掛け声で実行された郵政民営化から、2年半余りが過ぎた。郵政事業が郵便局、郵便、貯金、保険の4事業に分社化された。近露局の窓口だけを見ると大きな変化は感じられないが、業務内容は確実に変わっている。近露地区の集配を担当する中辺路郵便局が、民営化を前に無配局となった大塔郵便局の集配業務も担当するようになった。
「郵便物が前より遅く、夕方になって届くようなことがある」。近露地区で自営業を営む60代女性は、集配業務の再編が配達の遅れにつながっていると感じている。「前は郵便屋さんに貯金の集金もお願いできたんだけどね」。民営化に伴う分社化で、配達員は貯金の仕事をすることができない。
それでも女性は「できるだけ郵便局を利用しよう」と近所同士で話しているという。利用者が少なければ、局は廃止されかねない。多少不便になったとしても、なくなってしまうよりはましだと思うからだ。
先の国会で会期切れのために廃案となった郵政改革法案。郵政民営化に反対してきた国民新党はこれを「一丁目一番地」と位置づける。
民営化法では、郵便事業に限って全国一律のサービスの維持は義務づけられていた。これに対し、改革法案では、貯金と保険の金融事業にも全国一律のサービスを義務づけた。過疎地を含めた全国2万4千の郵便局網を維持するために、預け入れ限度額の引き上げなど金融事業の収益力を高める内容も盛り込まれた。
「高齢化社会に耐えうる郵便局網を守ることが大事だ。そのために改革法案は必要不可欠」。紀南地方の旧特定郵便局で10年以上郵便局長を務める現役局長は、語気を強める。
昨年12月、ゆうちょ銀行など日本郵政グループ3社の政府が持っている株式を売却するのを凍結する法案が成立したとき、局長は「改革の兆しが見えだした」と感じた。だが首相交代で改革法案がいったん廃案となり、期待が不安に変わった。「民主党は法案の早期成立の約束を守ってくれるのだろうか……」
(黒川真里会)asahi.com
2010年06月30日
地区唯一の金融機関の窓口となっている近露郵便局=田辺市
■地区唯一の金融窓口
・高齢者多く 局廃止「かなわん」
熊野古道の中辺路ルートにあたる田辺市の近露(ちかつゆ)地区。かつて古道の宿場町として栄えた山あいの町にはいま、金融機関の窓口が旧特定郵便局の近露郵便局しかない。今年3月末、郵便局以外で一つだけ営業していた金融機関の支所が窓口業務を閉じた。
「郵便局まで引き揚げてしまったら、かなわん。この辺りは高齢者の一人暮らしも多い。車のないお年寄りには年金を受け取るだけでも難儀になる」。地元で林業を営む○○さんは、ため息混じりに話す。
金融機関は、窓口閉鎖の代わりに現金自動出入機(ATM)を設置した。問い合わせなどに応じる職員1人が在駐しているが、お年寄りの中には機械の操作になじめず、10キロ近く離れた栗栖川地区の窓口までわざわざ車やバスで出かける人もいる。
近露地区は人口が500人弱。このうち約4割が65歳以上の高齢者だ。○○さんが住む集落は、28世帯のうち8世帯が高齢者の一人暮らしという。「就職先もなく、子どもたちはみんな町の外に出た」と中村さんは話す。
小泉首相の掛け声で実行された郵政民営化から、2年半余りが過ぎた。郵政事業が郵便局、郵便、貯金、保険の4事業に分社化された。近露局の窓口だけを見ると大きな変化は感じられないが、業務内容は確実に変わっている。近露地区の集配を担当する中辺路郵便局が、民営化を前に無配局となった大塔郵便局の集配業務も担当するようになった。
「郵便物が前より遅く、夕方になって届くようなことがある」。近露地区で自営業を営む60代女性は、集配業務の再編が配達の遅れにつながっていると感じている。「前は郵便屋さんに貯金の集金もお願いできたんだけどね」。民営化に伴う分社化で、配達員は貯金の仕事をすることができない。
それでも女性は「できるだけ郵便局を利用しよう」と近所同士で話しているという。利用者が少なければ、局は廃止されかねない。多少不便になったとしても、なくなってしまうよりはましだと思うからだ。
先の国会で会期切れのために廃案となった郵政改革法案。郵政民営化に反対してきた国民新党はこれを「一丁目一番地」と位置づける。
民営化法では、郵便事業に限って全国一律のサービスの維持は義務づけられていた。これに対し、改革法案では、貯金と保険の金融事業にも全国一律のサービスを義務づけた。過疎地を含めた全国2万4千の郵便局網を維持するために、預け入れ限度額の引き上げなど金融事業の収益力を高める内容も盛り込まれた。
「高齢化社会に耐えうる郵便局網を守ることが大事だ。そのために改革法案は必要不可欠」。紀南地方の旧特定郵便局で10年以上郵便局長を務める現役局長は、語気を強める。
昨年12月、ゆうちょ銀行など日本郵政グループ3社の政府が持っている株式を売却するのを凍結する法案が成立したとき、局長は「改革の兆しが見えだした」と感じた。だが首相交代で改革法案がいったん廃案となり、期待が不安に変わった。「民主党は法案の早期成立の約束を守ってくれるのだろうか……」
(黒川真里会)asahi.com