日本銀行の新しい金融緩和政策によって、株高と円安が進んでいるが、その裏で巨大なリスクが膨らんでいる。代表銘柄である長期国債の10年債は、銀行が買って7年程度保有し、日銀に売る。これは金利低下が続いていたため、銀行は安く買った国債を高く売ることで売買益が発生していた。金融機関の利益は、これによって賄われていた。所が今回の措置で国債購入額が拡大され、また購入国債の長期化がなされたため問題が生じてきた。問題は今回の国債購入計画は規模が大きすぎることにある。年間国債発行額約120兆円の7割程度にもなり、金融機関からみれば日銀が買入れ全て応じれば保有国債残高が減少してしまう。これは銀行の利子収入を減少させることになるので、国債を保有し続けることになる。
そうなると、日銀が買うといっても、銀行が売らない可能性があり、購入目標が達成できないことになる。
これまで残存期間3年以下だった購入対象国債が今回の措置で長期化されることとなった。銀行はこれまでのように新発債が増える分、購入後一定期間保有する必要はなくなり、右から左へ日銀に売ることが出来る。これは日銀引き受けに限りなく近い形となり、新発債は全て買うのであるから、財政赤字を気にする必要がなくなり、支出はいくらでも増やせる。従って財政規律が更に弛緩し、財政破綻が進むことになる。その結果金利が高騰し、金融機関に損失が発生する。日本財政の持続可能性に対する信頼は完全に失われ、国債格付けが大きく引下げられる可能性がある。こうした状況を見越して外国人投資家が国債を売ると、雪崩的な資本逃避が起こる危険がある。
また、購入国債長期化は金融緩和を止められなくなる。日銀は購入国債を2,3年間保有していれば償還されるので、残高は自然にゼロになる。しかし長期国債を保有するとなると、売れば国債価格の暴落を引き起こすから、償還まで長期保有し続けざるを得ない。この間に金利高騰があれば、日銀に巨額の損失が発生する。金利高騰によるリスクを日銀が抱え込むことになる。
物価上昇率目標は2年で達成すると言うが、緩和政策の後遺症は10年程度の期間にわたって日銀を束縛する。今回の緩和措置は出口のない政策で、仮に金利高騰のリスクが回避でき、長期債利回りが順調に下がったとしても、生保が逆ザヤになるという問題が生じる。生保は外債投資などを増加せざるを得なくなり、円安を加速することにもなる。
日本の国債はこれまで安全な投資対象と見なされ、目的は運用益ではなく、一時的避難先としての安全性であった。所が「日本国債は安全」という認識が変わった。それは国債市場利回りが乱高下したことにある。考えてみれば破滅的な財政状況の国が、かくも低金利で資金調達ができるというのはどう考えてもおかしい。現在、円や株もバブルを起こしているが、国債は最も顕著にバブル状態である。従って金利高騰は大いにあり得る事態だ。しかも、将来更に円安が続くなら、日本に投資することは大きな為替リスクを意味する。何かのきっかけで、外資が逃げ出すと円安が進み、日本では円安が進むと輸入インフレがもたらされる。
こうした事態が予測されると、外資だけではなく、日本の金融機関や資産家などの国内資金も一斉に流出する。つまりキャピタルフライトが生じる危険がある。短期的には円高になるかもしれないが、日本経済は衰退しているので何時かは日本売りで円安になる。今回の措置で投資の避難先の機能が失われると、円安が急速に進む危険性がある。
バブルは徐々に形成されるが、崩壊は急速に起こる。そうなれば金融システムだけでなく、日本が崩れる。今回の金融緩和は「大胆な」というより「無謀な」ものだ。日本はまさに「異次元の世界」に入ったと言わざるを得ない。
以上のような内容となっていますが、この論説はまさに「的を得た」ものだと思われます。
昨日の日本国債10年物利回りが、0.79%にまで上昇してきており、マスコミは株高を受け、投資家が安全資産の国債を売って株を買うとの思惑から国債に売りが出ていると解説していますが、実態はどうでしょうか?
日々約0.1%ずつ利回りが上昇してきており、まさに日本国債売りが始まっているかも知れず、日銀が想定もしていなかった金利上昇が日本で始まりつつあり、世界は金融緩和下での金利上昇という、かなり厳しい事態に直面しつつあると言えます。