お気楽おばさんの徒然日記

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浅見光彦の旅ー小樽殺人事件。

2013-09-05 21:45:02 | 日記
まだ明けやらぬ冬の小樽の海。浅見光彦の北海道の旅は無粋にもその海に
死体を発見する事から始まる。浅見光彦が事件に関わるきっかけを作者は
いろいろと模索しているが、この作は第一発見者として必然的に関わる
設定となっている。浅見光彦というキャラクターは、ほとんど病気のように
殺人事件に興味を示す。ハンサムで優しい印象の好青年であるにも拘わらず
彼が結婚もしないでいるのは、本人が認めているように女性に対するある種の
恐怖心だけではなく、本当は殺人事件に拘わる情熱が恋愛感情を凌駕して
いるからとも思えるのだ。ひとの感情の極みの果ての殺人事件にからむ
人間ドラマに魅せられているというべきかもしれない。愛や憎しみ、友情、恨みなど
わかりやすい感情のもつれを旅人として、外から傍観してみるという立場である。
それはどんな素晴らしいヒロインに巡り会っても、常に一線を画する立場でもある。
加えて日本の各地の特色を楽しみながらであるから、これはかなりな無責任男で
あることに違いないだろう。ただ浅見流のポリシーはあるようだ。罪を憎んで
ひとを憎まず。まことに日本的な感情の持ち主なのだ。
さて冬の小樽に漂う死体から始まる事件は複雑にからまる愛憎劇を展開していく。
謎にスパイスを添える黒い揚羽蝶がミステリアスな雰囲気を盛り上げている。
この揚羽蝶は平家の一族であるシンボルでもあるといわれ、また亡くなったひとの
魂をも象徴する。作中で披瀝される女優の久我美子と平田昭彦のエピソードのような
クラシックな恋愛は今は伝説になりつつあるが、作中でもその逸話になぞらえた
恋愛が語られる。また作中で描かれるのは浅見光彦の健啖ぶりである。
浅見光彦のシーフード好みがよくわかる。小樽の海の豊穣な味が堪能できる。
作中では安曇野の旅も描かれるが謎解きに傾倒しているせいか印象が薄い。
私は浅見光彦が訪れてから10年後に小樽を旅したことがある。まだ春浅い
時期だったけれど相当寒かった記憶がある。それに驚くほど多い
寿司屋も印象に残っている。寿司好きな友人に3軒,寿司のはしごにつき合わされたのだが、
いくら美味でも浅見光彦ほどには食べられなかった記憶がある。作中で北一ガラスが
描かれているが小樽の町にひと味違った風情をそえていたのを思い出す。
この小樽を舞台にした悲劇は、最後に一層寒さを増した景色で終わりをつげる。
暗い情感を秘めたロマンチックなストーリー展開に浅見の人情家探偵
としての姿が吹雪のなかで描かれるのだ。黒い揚羽蝶を残して。

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