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本を読むのだ

主に飛躍した感想文。

Piece 再考

2015-07-12 00:43:44 | 漫画
 先日の感想文から、更に深く考えてみた。
 再び、芦原妃名子先生の「Piece」です。
 ネタバレありです。













 
 恐らく、最終巻の最後の方、理紗子に皓が会いに行って帰る時の、クリニックのロビーにいっぱいいるうつむいてる患者。あの人たちが理紗子の言う「壊れた」状態なのかと思う。
 つまり、最終巻のあの気持ち悪さは、さつきは3年前から梨沙子にすれば「壊れていた」というところにあると思うのだ。
 じゃあ、ずっと同じ場所にいるお兄さんとか、理紗子は、壊れていないのか……。
 理紗子はだいぶ変な人だよねー。さつきも時々変だけど、まだマシな感じがする。
 
 ところで、8巻で皓の言った比呂と理紗子のえぐい程似てるところってなんだろう? 
 その疑問の答えになりそうなのが4巻松浦の「もしも世界に自分以外の他人が存在しないならさ オレは絶対絵を描かない 歌わない 主張しない」の辺りかと。比呂はわかりやすく絵を描きまくっていたけど理紗子も仕事とはいえ、あれだけの著書があるということは人に対して繋がりを求めていた証拠のように思う。

 一方、皓については、2巻の最後の方で水帆が「こんな無防備に”感情”を表現できる奴じゃない」と言った通り、彼は、わかりやすく感情を表現することを恥と考えているようだった。彼のシーンではモノローグがほとんどない。怒りと表面上の笑いのようなものはあったけど、あとは諦めたような表情のところが多かった気がする。水帆関係以外w 水帆が関わるとかなり人間っぽい動きをしていたと思うのだ。
 
 特に8巻はとても素晴らしい。珍しく皓が焦っている。普通なら焦る。わかる。行方不明の水帆のケータイに比呂が出るというアレはマジびびると思う。そして、迎えに来いと言われたファミレスにもいない。電話かけると留守電。まー、水帆の方は全巻通して、行方不明音信不通繰り返されまくってた感もあるけどw 水帆の心配を思い知れw
 その後、再会した後の「消えていかないで」は、果たしてどちらの感情だっただろうか。レビューでは水帆の感情として読んでいた方がいたが、果たして本当に、この想いは水帆だけだっただろうか。

 9巻でもそんなシーンがあって
”真っ暗な闇を””混沌とした世界を””キラキラ七色に輝く””眩しい風景を””苦しいくらいの幸せを”一方的にもらってばっかりで なんにも返せなくてごめん
 というモノローグ。””の部分は折口はるかの言葉だが、この言葉の絵は水帆も皓も同じように描かれている。
 
 さて、理紗子についても少し考察してみたいと思う。彼女めっちゃ嫌がりそうだけどwww 敢えてやってやるwww
 理紗子は何がしたかったのか。子ども2人も産んで置きながら、めちゃくちゃな子育てしつつ実験対象のような扱いをした上での、育児放棄。そして衝撃のラストシーン。非常に恐ろしい人間のように見えた。こういう理解できない人間を宇宙人と呼んだりするよね。
 彼女の真意が読めそうなところは非常に少ないけれど、想像してみると、恐らく、仲間が欲しかったのではないかと思う。
 上記の比呂と理紗子の類似点でもあって、比呂は散々皓に、わかるよね、同じだよね という同一性を求めた。
 数少ない理紗子のセリフの中にもそう読める部分があって、皓の回想シーン、理紗子が比呂について語るセリフの
「私の遺伝子の欠片の一つも見当たらない」
ここに、子どもを作った理由があるのだとするならば、同じような、他人から理解できない人間が欲しかったのだと思う。
 
 そう考えると少し納得できるシーンがいくつか出てくると思う。
 まず4巻の最後、水帆が比呂のことを聞きに理紗子に会いに行ったシーンで言った理紗子のセリフ
「……そうね あなただから来たのよ あなたに興味があったのよ」
 このセリフ、何度かさらっと読んでしまったけれど、もしも理紗子が仲間が欲しかったとしたならば、意味は全く違っただろう。
 描かれていないけれど、3年前、恐らくこんなシーンがあったはずなのだ。
 水帆の母、さつきがクリニックに訪ねてきて、「先生助けてください もう私には娘がよくわからないんです」みたいな… 深刻そうな表情で、相談したのだろう。
 彼女の方針が七尾の時と変わっていないならば「つらかったわね よく頑張ったわね」みたいな全面肯定をしていったのだろうが、その時から水帆に興味があったのだと思う。自分と似た人間なのではないかと。
 実際会ったら、暴走水帆さんだったので、全然ちがったけどねーw

 それから7巻中盤、初代家政婦、高田のシーン。
 皓が他人を思いやる術を学びとっている、比呂が自由にのびのび自分を表現する術を身につけている…
 これは理紗子からすると恐ろしかったことだろう。せっかく自分の仲間になりうる彼らが普通の人間になってしまうのだから。
 あとは嫉妬だよね…。ダダをこねると大事なものを奪うという教育方針。比呂がとても慕っていた家政婦、高田を辞めさせたこととか…。嫉妬のようにも思えてくる。ママが一番であってほしい。世の中の人にとっては理解できなくても、子どもからは自分を欲してほしいという想い…。
 そんな陳腐な言葉で捉えると私のような常人には何となく理解できた気がしてしまうw ばっさり否定するだろうけどなw
 
 しかし、この宇宙人英才教育の結果どうだったか。多分、彼女は失敗したのだと思う。
 まず、比呂は弟の皓も怖かったけど母の理紗子を非常に恐れていた。女性恐怖症もまたその現れか。常に誰かに助けを求め、絵を描くことでしか表現できない子どもになってしまった。
 一方、皓はどうだったか。それまでも、理紗子と同じではないというニュアンスの言葉を口にしていたが、決定的なのが最終巻ではっきりと「さよなら」という決別の言葉を残した。
 まー、あのシーンもひどいけどね…。梨沙子が皓に言った「誰のせいにもしない」のあれ。
 自分でルールを作る 自分で決める この言葉自体は悪い言葉ではないと思う。だけど、親は言ってはいけない、本来は。「私のせいにしないでね」って意味にもなってしまうから。実際そう言ってるのかもしれないけど。そもそも親らしいこと全然してないけど。
 そもそも子育て的にはかなり間違っていると思う。比呂も皓も家事やら何やら自分で生きる術を何一つ身につける機会を与えず、大人の年齢にさせている。これが普通の家庭であれば、お手伝いという形で学んだりするものだけど。
 しかし、20歳という年齢になったからという理由で、家を失い、社会に放り出されている。今の日本は、20歳で成人だけど、実際独り立ちできるのは大学生の場合だと、22歳の3月だ。就職できるのが4月だから、初めての給料が入るのが5月。これでやっと始めて自分で自分を養うことができたと実感するのだと思う。
 
 でも、歪んではいるが、理紗子なりの愛の形だったのだとも思う。
 2軒、しかも片方東京に、でっかい家買うって想像するだけでかなりのお値段のはず…。そして両方20年近く家政婦雇う。通常の倍の値段だっけ?
 著書がロングセラーで、カウンセリングも連日満員御礼だとは言えなかなかポンとはできないよ。
 歪んでいたとはいえ、殺すようなことはしなかった。
 このように考えると、監視カメラが外した理由は、皓の言う飽きたというよりは、自分と同じような人間が生まれなかったことに対する諦めの方が近いのかもしれない。
 しかし、20歳という年齢まで待ったのは、諦めきれない何かがあったのかもしれない。
 
 そして、こういう仲間を欲していると見られる行動を皓もしていて、言葉では言っていないのだけど、例えば、9巻のめっちゃ暗い回想シーン。
 これは、前回の感想文で、皓は何をしたのか? という疑問の答えへの一欠片なのだけど、彼は誰の仲間でもなかったのよね。田中の子分ではあったけど、他の子分からは、「怖い」と言われていた。
 彼が後生手放せず大事にしている想い出、丸尾を殺しかけた話。あれさ、何で否定しないんだろうってずっと考えていたけど、比呂を助けるためというよりは、田中と仲間であった想い出なのだと思う。
 だが、田中も、長門と森田から追われる仲間であったはずの田中ですらも、名古屋では「いかれてる」という言葉で彼を突き放した。
 その後5巻の終盤の名シーンにつながる。皓が水帆に助けを求めるシーン。で、水帆が名古屋まですっとぶシーン。5巻ではギャグめいて描かれていたけど、もし、無視したら本当にヤバかったと思う。ほんと須賀ちゃんいてよかったよね。

 皓にとっては、彼女だけが仲間だったのかもしれない。
 でも、一方で、水帆は、皓との関係に対し終焉を予期していて、その仲間から卒業しようとしていたようにも見える。最終的には、皓を踏み台にして、穴から抜けて行ったって感じもするが。
 
 この流れで、再度、最終巻最終話ラストシーンを見てみよう。
 さつきが理紗子のクリニックに訪れるシーン。そして、さつきが感謝しまくった後の、理紗子が水帆の写真を落とすシーン。
 ここで見えてくるのは、理紗子にとって決して喜ばしい出来事ではなさそうということだ。ぜひとも4-5巻の理紗子と見比べて欲しい。4-5巻で水帆と話す理紗子のシーンは、少し楽しげですらあった。
 しかし、最終話、写真から手を離す。しまっている風にも見えるけど、大事に、ではない感じ。やはり、宇宙人の仲間ではなかったという深い無念が漂っていると感じた。
 また皓との決別のシーンもまた、表情はないけど、やはり全体的に寂しい風に見えるコマだった。
 
 ここから想像すると水帆と皓は同じ道を選んだ風にも見える。

 でも、これが恋愛のストーリーかっていうと難しい…。ただ、世の中で一番おいしい料理はまだ口にしたことがない料理だとするならば、確かに、お互い強く想いあい惹かれあうのに未だ成立していない恋愛というのは一番美しいと言えなくもないかもしれない。実際片想いが一番良いみたいなことを言う人もいるよね。
 
 私はいつか皓は水帆のところに帰ってくる未来を想像したいのである。結局、皓絶対ひとりで生きていけないタイプじゃない?
 水帆にきちんと決別の言葉をしなかったことや、散々逃げ回っておきながらも追われることを拒まないところを見ると、やっぱりそういう未来はないとは言えないと思うのだ。むしろ、信じたい!
 どの道3年前に既に終わっていた関係…。死んだ人は蘇らない、起きたこともなかったことにはならない…。でもお互い生きてる限り、また廻り合うこともあるだろう。


 もう書き残したことはないかな? 思いのほか長文になってしまったけれど、久しぶりに、色々落ち込みもし、思い、考えさせられたとても良い作品に出会えたと思っています。


2 コメント

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辛い (てつ)
2017-01-16 22:32:20
最近この作品に出会い、いっきに読みましたが……結果辛くなりこちらにたどり着きました。 感情移入しすぎました。
愛してあげられなくてごめんね ってこんな残酷な言葉ないですよね 最後まで成海の気持ちがよくわからなかったです。救われたのってはるかの両親だけな気がします……
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Unknown (通りすがりです)
2020-05-09 23:13:13
結構な歳になりましたが、だからこそ、色々と生い立ちに悩み、この作品に重ねる部分がありました。
しかし、読み終えた後、どうも釈然とせず。
他の方の考えを知りたくて検索してたら、こちらにたどり着きました。
気持ちを代弁して頂いたようなコメントで、しかも前向きに捉えていてとても救われました。
ありがとうございました。
晧の「愛してあげられなくてごめんね」これは本当で、2人は幼くて共依存してたんだと思っています。
だけど、愛もあって、お互いに変わろうとしているから、大人になって理沙子の言う"普通“の状態で再会して、きっと結ばれるんじゃないかなぁ〜っと、想像しています。
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