科博SC講座ではサイエンスライティングについても学びます。
こちらのブログでは,講座でライティングを学んだSCA会員の手になるエッセイなどもご紹介していきたいと思います。
サイエンスコミュニケータの視点をお楽しみください。
そこにキラリと光るもの
薄明るい部屋の中央にできた人だかりの陰に、何かがキラッと光った。その一瞬の輝きに目を奪われ、思わず足を止める。部屋の入り口でじっと宙を見つめるのは、黒人のガードマン。ささやかな緊張感の中、光の正体の方へと歩を進める。心なしか、少し鼓動が高まる。
現れたのは、大きなブルーダイヤモンドのペンダントだった。ホープダイヤモンドと名付けられたこの宝石は、頑丈なガラスケースの中でまばゆいばかりの光を放っている。なんと、45.52カラットもあるそうだ。こんな宝石を身につけるのは、一体どんなお姫様だろう……なんて、つい妄想にふける。
しかし、と我に返る。ここは宝石店でも大富豪の家でもない。訪れたのは、ワシントンD.C.にある国立自然史博物館。Harry Winstonから寄贈されたこの美しい宝石も、実は立派な科学の展示品――と改めて宝石に向き合う。
そもそも、なぜ宝石がここに……? 実は、ブルーダイヤは科学的にも大きな魅力を秘めるのだ。
ダイヤモンドは炭素からできる。鉛筆の芯と原料が同じとは、わかっていても不思議だ。そして、ダイヤモンドにふつう色はないが、この宝石はブルーダイヤ、つまり青色なのも興味深い。鉱物の色は微量な不純物の種類によって決まることが多いのだが、この青はホウ素に由来するそうだ。さらには紫外線を当てると、今度は赤い光を発するらしい。ただ、今のところその理由は分かっていないとか…。
少々釈然としない思いでもう一度青の光を見つめる。神秘的だった。そして、ふと気づく。きっと、科学を解説するだけが博物館じゃない。それは、いまだ解明されぬ謎への好奇心を掻き立てる場所でもあるのだ、と。なかには、宝石を一瞥しただけで、キレイだねと通り過ぎる人もいるかもしれない。だが、その奥にキラリと光るサイエンスに思いを馳せた時、私にはその青色が一層深く、美しく感じられるように思う。
一抹の名残惜しさを覚えながら青の光を目に焼き付け、踵を返した。
* ホープダイヤモンド at スミソニアン博物館(英語サイト)https://www.si.edu/spotlight/hope-diamond
(SC14期 若林 里咲)