科博SCA会員のエッセイ,第4弾をお届けします!
行く時でなく帰り道に「招待状」とは……?
帰り道には招待状を携えて
煌めく昆虫。巨大な恐竜。幼少の頃、両親に連れられ訪ねた博物館。展示を前にした私は、説明文まで夢中で読んで出会った世界にワクワクしました。
でも、帰りは決まって寂しかった。記憶力が良くないと、博物館で得た知識はすぐに忘れてしまう。ワクワクも手からこぼれ落ちていく。例えば映画館で映画を観た後は、学校で友達と語りあったり一人DVDで反芻したりとその余韻を家へと持ち帰る。博物館でのワクワクは、私には持ち帰ることができなかった。
あの日のワクワクは博物館に閉じてると思ってた。出会った世界とは、その場でサヨナラだと思ってた。
違うんですね。歳を重ね、学び、気づきました。展示が教えてくれたのは、科学が切り拓いた世界でした。そして科学は誰もが触れられるべきもの。そう、あの日の世界は博物館の外に広がっている。またこちらから会いに行ける。なら、会いに行こう。
“名前だけでもメモをする”。再会の思いを込め、私が始めたことです。科学の世界はとても広い。闇雲に探しても見つからない。でも開けているのなら、手がかりがあればきっと見つかる。名前を元にちょっと調べて拍子抜けするほどあっさりと、再会を果たせることもある。
もちろん、いつも簡単とは限りません。ワクワクは単調で難しい文章にも埋まっていました。でも掘り起こすことができたとき、より詳しく更新された情報が世界と私を出会ったときよりもっと仲良くしてくれた。その瞬間が嬉しくて、大変な道も名前を頼りに進んでく。
道程、ふと考えることがあります。最初に触れたのがこの複雑でムツカシイ情報だったら、あの日の私は楽しめたかな。頑張って会いに行こうと思えたかな。
きっと科学が導く世界が大好きな人が、片鱗だけでも共有したくて、魅力をどうにか展示で伝えてくれてたんですね。だから私は楽しめた。もっと知りたいと思えた。ワクワクをくれたその人と、世界を少し共有できた。
博物館とは、科学的手法や知見が切り拓いた世界やその魅力を、それが好きな人達が紹介している空間である。再会を経て最近私が感じていることです。紹介しきれてない魅力が博物館の外にもある。
出会った世界にまた会いたいなら、もっと仲良くなりたいのなら、名前だけでもメモしてみて。博物館でワクワクしたときには既に、誰かのワクワクを受け取っている。その思いさえ忘れなければ、メモした名前は科学の世界への招待状に変わるはずだから。
(SC11期 本間 知広)