科博SCA サイエンスライティング分科会 (科博SCA-SW)

国立科学博物館サイエンスコミュニケータ・アソシエーション(科博SCA)サイエンスライティング分科会のブログです。

帰り道には招待状を携えて[エッセイ]

2022-10-12 22:11:31 | エッセイ

科博SCA会員のエッセイ,第4弾をお届けします!
行く時でなく帰り道に「招待状」とは……?


帰り道には招待状を携えて

 煌めく昆虫。巨大な恐竜。幼少の頃、両親に連れられ訪ねた博物館。展示を前にした私は、説明文まで夢中で読んで出会った世界にワクワクしました。

 でも、帰りは決まって寂しかった。記憶力が良くないと、博物館で得た知識はすぐに忘れてしまう。ワクワクも手からこぼれ落ちていく。例えば映画館で映画を観た後は、学校で友達と語りあったり一人DVDで反芻したりとその余韻を家へと持ち帰る。博物館でのワクワクは、私には持ち帰ることができなかった。

 あの日のワクワクは博物館に閉じてると思ってた。出会った世界とは、その場でサヨナラだと思ってた。

 違うんですね。歳を重ね、学び、気づきました。展示が教えてくれたのは、科学が切り拓いた世界でした。そして科学は誰もが触れられるべきもの。そう、あの日の世界は博物館の外に広がっている。またこちらから会いに行ける。なら、会いに行こう。

  “名前だけでもメモをする”。再会の思いを込め、私が始めたことです。科学の世界はとても広い。闇雲に探しても見つからない。でも開けているのなら、手がかりがあればきっと見つかる。名前を元にちょっと調べて拍子抜けするほどあっさりと、再会を果たせることもある。

 もちろん、いつも簡単とは限りません。ワクワクは単調で難しい文章にも埋まっていました。でも掘り起こすことができたとき、より詳しく更新された情報が世界と私を出会ったときよりもっと仲良くしてくれた。その瞬間が嬉しくて、大変な道も名前を頼りに進んでく。

 道程、ふと考えることがあります。最初に触れたのがこの複雑でムツカシイ情報だったら、あの日の私は楽しめたかな。頑張って会いに行こうと思えたかな。

 きっと科学が導く世界が大好きな人が、片鱗だけでも共有したくて、魅力をどうにか展示で伝えてくれてたんですね。だから私は楽しめた。もっと知りたいと思えた。ワクワクをくれたその人と、世界を少し共有できた。

 博物館とは、科学的手法や知見が切り拓いた世界やその魅力を、それが好きな人達が紹介している空間である。再会を経て最近私が感じていることです。紹介しきれてない魅力が博物館の外にもある。

 出会った世界にまた会いたいなら、もっと仲良くなりたいのなら、名前だけでもメモしてみて。博物館でワクワクしたときには既に、誰かのワクワクを受け取っている。その思いさえ忘れなければ、メモした名前は科学の世界への招待状に変わるはずだから。

 

(SC11期 本間 知広)


星と根っこ[エッセイ]

2022-03-16 18:26:05 | エッセイ

 科博SCA会員のエッセイ,第3弾です。
 何やら関係なさそうな2つの名前が並んだタイトルですが,いったいどんなお話でしょうか……?


 

星と根っこ

 柿やドングリ、モミジにイチョウ。秋になり、世界が色づき始めると、毎年思い出す話があります。

 昔々の夜空には、月しかなくて寂しかった。物足りなく思った少女は灰をまいて天の川を作った。フインの根を投げ星を作った。根っこは老いると赤くなる。少女は気にせず投げたから、今でも星は赤や白に輝いている。〔草下英明, 星の神話伝説集, 「星を作った少女」より筆者要約〕

 きっと、いろんな星があるのが不思議だったんですね。いつも凄いと思うのは、遠く遠くのお星さまの色の違いの説明に、身近な植物を使うこと。手も届かない遠くのことを、届く範囲で説明してる。よくある星の神話のように、神様に委ねない。

 科学の視点では、私たちが普段見る星の色をどうやって説明してるんでしょう?調べてみると、いろんな要素があるみたい。二つ簡単に紹介します。

 一つ目の要素は星の表面温度。炎が熱くなっていくときと同じように、星も表面の温度が低いと赤く、熱くなるほど青白く輝く。星の温度はその星の年齢や質量で決まるそうです。若くて質量が小さい星、年取り終わりが近い星。そんな星ほど、表面の温度が低く赤い。

 二つ目は星の地球からの距離。光には波の性質があり、波長が長い光ほど目に見える範囲では赤い。宇宙は膨張していて、星の光の旅路も伸びる。旅の途中で道が伸びるから、光の波長は引き伸ばされる。可視光ならば赤くなる。

 お年を召した星は赤い。長旅した光は赤い。根っこの話とちょっと似てて、ちょっとほっこり。

 思い出してください。お話の中では、手も届かない遠くの星の色の説明に、身近な根っこを使う。神様に委ねない。それでも、少女はどうして星が作れたか、その不思議は昔々に委ねられます。

 科学者だって遥か遠くや昔には、決して手が届かない。やっぱり凄いと思うのは、それでも不思議の説明を何かに委ねていないこと。

 遥か遠くや昔から手元に届く僅かな情報。手元でやってみた実験から分かった法則。それらをコツコツ積み上げていろんなことが見えてくる。科学のそんな側面を私はコツコツ階段と呼んでます。

 博物館ではたくさんのワクワクする世界に出会うことができます。その裏にはコツコツ階段がきっとある。探してみても面白いかも。

 

(SC11期 本間 知広)

 

 

 

 


見上げてごらん、夜の星を![エッセイ]

2020-11-20 14:21:36 | エッセイ

科博SCA会員のエッセイ,第2弾をお届けします。
吉田さんは,このエッセイの他にも,「sorae(そらえ)」というサイトで天文に関する解説を書かれています。こちらから吉田さんの書かれた解説がまとめて読めます)。
よろしければこちらもご覧ください。


 

見上げてごらん、夜の星を!

 空の晴れた夜、たまには星を見上げてみよう。いろいろな明るさや色のちがう星(恒星)が輝いている。まず明るさに注目してみると、あの明るい星は一等星、こっちに見えるのは三等星くらいかなと思う。次に色。星はどれも青白く輝いているように見えるが、目をこらしてよく見てみると、少し黄色っぽい星や赤っぽい星があることに気がつく。実は星の明るさと色のちがいから、星の一生がわかってくる。

 どんなに明るい電灯でも遠くにあればかすかな光になってしまうように、星の本当の明るさも星までの距離がわからなければ比べることができない。星を決まった距離において比べたとき、その明るさのことを「絶対等級」という。また、なぜ星に色のちがいがあるのか昔の人はわからなかった。でも今では、色のちがいは星の表面温度のちがいを表わしていることがわかっている。これを星の「スペクトル型」という。

 「絶対等級」を縦軸(上が明るい)に「スペクトル型」を横軸(右が低温)にして星をプロット(配置)したグラフを作ると、星の特徴が詳しくわかるのではないかと考えた二人の天文学者がいた。二人は別々に考えついたのだが、二人の頭文字をとってこのグラフは「HR図」と呼ばれている。「HR図」を見てみると、星はいくつかのグループ(エリア)に分かれていることに気がつく。それぞれのグループは、人間に例えれば子ども、大人、老人などの年代を表わしている。人の一生に比べて星の一生はあまりにも長いので、星の一生などわかりそうにないと思いがちだが、このグラフによって星の誕生から死までの様子がわかるようになってきた。

 「HR図」は国立科学博物館の地球館でも解説されているので見てほしい。そしてあらためて星を見上げてみよう。あの星はいま何歳なのかなと思うと、時間と空間を飛び越えた不思議な気持ちにならないだろうか。

 

(SC1期 吉田 哲郎)


そこにキラリと光るもの[エッセイ]

2020-03-18 12:06:14 | エッセイ

 科博SC講座ではサイエンスライティングについても学びます。
 こちらのブログでは,講座でライティングを学んだSCA会員の手になるエッセイなどもご紹介していきたいと思います。
 サイエンスコミュニケータの視点をお楽しみください。


 

そこにキラリと光るもの

 薄明るい部屋の中央にできた人だかりの陰に、何かがキラッと光った。その一瞬の輝きに目を奪われ、思わず足を止める。部屋の入り口でじっと宙を見つめるのは、黒人のガードマン。ささやかな緊張感の中、光の正体の方へと歩を進める。心なしか、少し鼓動が高まる。

 現れたのは、大きなブルーダイヤモンドのペンダントだった。ホープダイヤモンドと名付けられたこの宝石は、頑丈なガラスケースの中でまばゆいばかりの光を放っている。なんと、45.52カラットもあるそうだ。こんな宝石を身につけるのは、一体どんなお姫様だろう……なんて、つい妄想にふける。

 しかし、と我に返る。ここは宝石店でも大富豪の家でもない。訪れたのは、ワシントンD.C.にある国立自然史博物館。Harry Winstonから寄贈されたこの美しい宝石も、実は立派な科学の展示品――と改めて宝石に向き合う。

 そもそも、なぜ宝石がここに……? 実は、ブルーダイヤは科学的にも大きな魅力を秘めるのだ。

 ダイヤモンドは炭素からできる。鉛筆の芯と原料が同じとは、わかっていても不思議だ。そして、ダイヤモンドにふつう色はないが、この宝石はブルーダイヤ、つまり青色なのも興味深い。鉱物の色は微量な不純物の種類によって決まることが多いのだが、この青はホウ素に由来するそうだ。さらには紫外線を当てると、今度は赤い光を発するらしい。ただ、今のところその理由は分かっていないとか…。

 少々釈然としない思いでもう一度青の光を見つめる。神秘的だった。そして、ふと気づく。きっと、科学を解説するだけが博物館じゃない。それは、いまだ解明されぬ謎への好奇心を掻き立てる場所でもあるのだ、と。なかには、宝石を一瞥しただけで、キレイだねと通り過ぎる人もいるかもしれない。だが、その奥にキラリと光るサイエンスに思いを馳せた時、私にはその青色が一層深く、美しく感じられるように思う。

 一抹の名残惜しさを覚えながら青の光を目に焼き付け、踵を返した。

 

* ホープダイヤモンド at スミソニアン博物館(英語サイト)https://www.si.edu/spotlight/hope-diamond

(SC14期 若林 里咲)