ファンタジーノベル「ひまわり先生、事件です」

小さな街は宇宙にリンク、広い空間は故里の臍の緒に繋がっていた。生きることは時空を翔る冒険だ。知識は地球を駆巡る魔法の杖だ

第5章連載≪6≫「ひまわり先生、大事件です。…6年2組を大地震が襲いました。」

2015年12月09日 | ファンタジーノベル


ひまわり先生の子どもたち…、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、誘拐された勇樹を捜すために、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に帰ってきた。5人は固く手をつなぎ、桜の満開の下で、今この時の再会に、それぞれの顔を見合いながら感涙した。時の経過と共にお互いか失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた末に見つけた心の糧がここにあったことを頷いた。多摩川小学校には、町に住む茜や竜や緑たちの仲間がいた。

小さな街は、宇宙にリンクしていた、そして、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…

・・・・・・・・・・・・・・・

★登場人物の紹介★君子編★
多摩川を挟んで東京都と神奈川県川崎市の両岸に跨る、多摩川沿線地域にも戦前戦後から今日に至るまで昭和史に残るような大事件も幾つかありました。が、ただ、歴史を変える10大事件というよりも、街を上へ下への大騒ぎになる、街の人々の生活と生命を脅かす大事件や大異変や大自然災でありました。例えば、1963年(昭和38年)に安藤組の幹部・花形敬が川崎市の二子で刺殺される花形敬事件がありました。1960 年代(昭和30年~40年代)に多摩川に工場排水の有害物質や家庭の生活排水が流れ込み、河面は洗剤の泡が浮き、どぶ川のように多摩川は汚濁した。多摩川流域の生活環境を壊した。1968年(昭和43年)12月10日に東京都府中市で現金輸送車に積まれた東芝府中工場の従業員ボーナス約3億円が、偽の白バイ隊員に奪われた三億円強奪事件があった。1974年(昭和49年)9月に台風16号の洪水により多摩川が氾濫して、二ヶ領宿河原堰わきの左岸堤防が決壊、東京都狛江市の民家19棟が流失するという大水害が発生しました。さらに戦後では、2000年12月30日~31日の未明にかけて、東京都世田谷区上祖師谷3丁目の会社員宮澤みきおさん宅で、みきおさんと妻泰子さん、長女にいなさん、長男礼君の四人の一家が殺害されているのが見つかった世田谷一家殺害事件が、未だ未解決事件として残され、既に時効を迎えています。最近では、2015年月20日に神奈川県川崎市川崎区港町の多摩川河川敷で13歳の中学1年生の少年が殺害され、遺体を遺棄された川崎市中1男子生徒殺害事件がありました。更に、2015年5月24日に川崎市川崎区の簡易宿泊所「吉田屋」で火災が発生、2棟の焼け跡から死者9人が発見された。昭和平成を生きた川崎の住人は、昭和の大事件を決して忘れないだろう…。ただ、玄遊和尚の幽玄寺境内でボヤのような火災があり、街では全く無縁なよそ者で、刺青の彫師が殺害された終戦の混乱時期の殺人事件を覚えている人間は少ないだろう…よ。君子の父・大橋はこの多摩川商店街の交番に勤務する警察官で、その娘・君子もまた警官への職業を運命づけられていた。父親の大橋巡査は、街の未解決殺人事件「幽玄寺刺青師殺人事件」に関心があるようで、熱心に聞き込み捜査をしていた。ある夜に、玄遊和尚のお寺を訪ね、その足で極東貿易の社長・小泉満を訪ねると言い残して、途中何者かに襲われ、謎の死を遂げた。誰に何の理由で、何故殺害されたのか、未だに未解決になっていた。しかし、君子の心の隅には、父の殉死の理由を突き止めたいー、謎の死を遂げた父の敵を取りたいー、という秘めたも父親譲りのデカ魂があった…父がいつも言ってたのは、「君子よー、この多摩川に住む町の人が安心できるように、君子の小学校の友達を守るためにいつも目を光らせているのが私の仕事だー。その仕事は大切だぞ。お前も、私の後をついでくれ…」というのが父の遺言でした。彼女も一時は父の遺志を継いでいたのだが…。

ただ、君子にはまだ少女の淡く可愛い夢もあった。漫画作家になりたくて。幼稚園の頃より、画用紙や学校のノートに漫画ばかり書いていた。よく悟に見せては自慢していた。警察学校を主席で卒業した後、警官である父親の仕事の崇高さを身近に理解していた君子も、女性警官としての警察庁初の女性管理職も望めたかもしれない。しかし、父の殺害事件を体験したことで人生が変わった。

後々、東欧でジプシーのように世界を放浪するサーカス団で、アクロバットをしているとの噂があつた。元々小さいころより器械体操の練習をスポーツセンターに通い、体は柔らかく、幽玄寺の和尚の道場で古武道の柔術を教わっていた。まれに見る身体機能は、スポーツの小学校部門の県大会でも100メートル短距離とマラソンと器械体操でトロフィーをいつも多摩川小学校に持ち帰っていた。10年後に再び、君子と美佳は、ニューヨークの中華街で偶然に再会、ひまわり先生の幼子・勇樹の失踪を知ることになる。。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

霜柱を溶かす朝日のように、初春の静けさを破る地震は、じわじわと忍びより、突然に地表を襲ってきた。もうすぐお雛様の5段飾りが君子の家にも飾られる3月の初めでした。先程から、一心不乱に左手のB5の鉛筆を走らせながら、時々右手の17色の色鉛筆を持ちかえていた君子は、「ゴーウー、グガーン、ドドドードー、ギシーギシィー」と、誰かが教室の床を大きな拳骨で叩いたような振動音を感じた。震動の最後に一気にドスーンと不気味な体感が伝わった。君子の手からレッドとイエローとブルーとグリーンの色鉛筆がバラバラと転げ落ちた。誰からともなく教室内に、どよめきが湧き上がり、静かな恐怖が皮膚に浸透した。「地震だー、揺れているよ。キャー、地震が来た…」。甲高い恐怖の叫び声、そのあとに、好奇心を含んだ驚き声がまきあがった。「何なの、これー」「後者の揺れてぞー」「どこが震源地かしらー」「みんな落ち着いてよー」と、徹が皆を宥めた。「君子、泣くなよー」と、悟が笑いながらふざけた。「ガラス窓がわれないかなー」と、龍が心配気に行った。俺の店の野菜が地面に落ちてるぜー」と太一が怒鳴った。

美佳が、遊園地の絶叫マシンの重力に耐えられなくなた恐怖心を吐き出すように、 「アースクエーク! イママダ、イマモユレテイル。Just now do you feel、地震よ、大変。地球が揺れている…」と絶叫した。建物の土台が小刻みに震動して、クラスのみんなの心は不安に揺れた。ハムスターのように急いで廊下へ飛び出すもの、猫のように頭を下げて机の下へもぐり込むもの、ネズミのように教壇に駆け寄り、部屋の四隅を無意識に走り回るもの、兎のようにジーッと体を震わせて硬直しいるもの…。恐怖を体感した者の防衛機制は、小動物のようにさまざまに反応を示した。

慌てて6年2組の教室に飛び込んできたひまわり先生は、「みんな、落ち着いて。ほらほら、騒がないで。廊下に飛び出た生徒は、直ぐに机に戻りなさい。教室をふらふら歩きまわっている生徒を見たひとみ先生は、「怖い時にはまず大きく一息呼吸して、気を静めてーね」と注意した。よかった、「今、揺れが収まったみたい。怖かった、ビックリして、先生の心臓、まだドキドキしているわ…」と、みんなの戸惑いに共感し、動揺を宥め、パニックを諌め、恐怖を慰めた。でも、ひまわり先生自身も、慌てていたようです、「怖い、誰か守って」というゆかしい女心を、先生らしい言葉の中に隠した。

翌日の6年2組の一時間目は、クラス会から始まった。昨日の地震は、飽食の笑いに満ちた関東地方を、一瞬ぴりっと引き締めた。さっきから徹が教室の前で、「私たちは、困った人たちに何か出来るとはないでしょうかーね? 喉の渇きを潤す水、空腹な腹を満たす食べ物、大地の揺れに怯える子供たちに、温かい手を差し伸べましょう…」と、懸命に救援活動の話している。いつも穏やかで冷静な口調の徹であるが、今朝の徹の仕草も話し方も、まるで檀家に説教をしている幽玄寺の和尚のように、激昂している。

始業チャイムが鳴って、ひまわり先生がいつも通り教室に現われた。いつもと違ってニコニコはしていない。こわばった表情に、硬い決心があった。昨日の恐怖をもう一度噛み締めるように、「まずは、昨日は恐かったですね。皆さんに怪我も事故もなくて、本当に良かったです。地震の震源地は東北地方、福島、宮城、山形の方でした。マグニチュード.8だそうです。神戸の震災なみね…。今朝からTVは現地の中継ばかり、震災の被害を見ると、津波に飲み込まれた人も、家屋の下に押しつぶされた人もー、被災者にお悔やみの言葉もなくなってしまうわね…」と言った。悟が、一語一語を短く区切りながら、「マ・グ・ニ・チュ・ゥー・ド」と、ゆっくり反芻した。美佳の脳裏に、「マグニチュード8」が、怪獣ゴジラのように巨大怪獣が地球を襲い、恐怖の爪痕を残した残像が浮かんだ。太一でさえ冗談口が出なかった。他人の悲しみに誰よりも素直に共感する君子の唇は、憂いを含み、薄氷が張っているように青ざめていた。

奇心旺盛の龍が、揺れ始めたときに先生は、どこにいたのと聞いた。「みんな、こわかたっわね、先生も恐かった。足がすくんで廊下で動けなかった。怖くない人なんて、いない筈よ。でも、この恐怖心が、恐竜のように絶滅することなく、ヒトが地球で生き延びて来た理由だと思うの。グラグラと揺れた時、震えて頭が真っ白になった。だからみんなと同じように先生も頭の中が混乱していたわ…。」と、言った。ひまわり先生は、揺れがたった今、収まったかのよう、昨日の地震を思い出していた。


*******************



最新の画像もっと見る

コメントを投稿