ただただエッジの立っている作品。
とても才能のある人。
読んで楽しいのではなく、もちろん大変面白かったけど、心がざわつき、世界観が揺すぶられるという読書体験。
あらすじ
地方の短大生の熊田由理はある夜、向伊という男の電話を受ける。高校の同級生で借りた5千円返したいので、今からお宅へ行くと言う。憶えのない由理は断るが、相手は自分の名前書いた紙を持っていると言う。
夜、家の前に現われたのはものすごく美形の、そしてそつのない話し方をする男だった。これほどの男が同級生なら忘れるはずがない。すると男は別の学校だったと言う。
はあ?それで同級生とは強引なと、私は思うけれど、そして由理も思ったはずだけど、その先読みたいと私は思うし、由理も悪い気はせずにその日は別れる。
電話番号は卒業アルバムで知ったと言う。
一年後の正月に、向伊は気まぐれに電話かけてくる。東京の大学に通っていて、帰省している、他の同級生もいるので今から飲んでいる店へ来ないかと誘われる。
と、間隔は開いても、その時々で巧みに誘ってくる相手を由理は拒み切れない。
残りの二人も東京の大学生、同級生だと言い張るが記憶にない。
その場のちょっと華やかな都会の雰囲気
一人娘で地元に残ってゆくゆくは親をみて家を受け継いでいくことを期待される由理は、地元に帰った時の暇つぶしの相手で、「かわいい、きれい」とほめそやして遊んでいる。それが分かっているけれど、向伊に惹かれていく。惹かれつつ、バカにはされたくないと自分の気持ちを確かめていく。
いゃあ~ありそうな話ですね。恋愛は心と心が寄り添う美しいもの、それは理想でもしかしたら神話。
最初から最後まで同じ量だけ双方が思い合うよりも、それぞれの段階で熱量が違うのが普通。この話では由理がより深く思っているけれど、それは恋愛をきっかけに自分を変え、田舎を出たいと言う願望があるから。
相手は遊び人。大学生で、のちに時計台のある大学に通っていることが分かる。東京に大学はあまたあるけれど、時計台のあるのはそうたくさんはないはず。いずれも名門校。
由理は惹かれつつ、自分がただ一人の相手でないことがもどかしい。しかし由理は違う世界に行きたい。短大を卒業し、地元で務めてこのまま一生終えるのがつまらなく思える。
向伊の言い訳。付き合っている彼女は、以前にバイクに乗せて事故起こし、後遺症が残った。一生面倒見ると親に約束した。親はやくざ・・・なんて、本当に不誠実な男。
もどかしくて自分から誘い深い仲になると、なんと向伊は家に遊びに来て帰らない。そして東京で一緒に住もうと持ち掛けてくる。
親を、一年間と説得して、東京で部屋を借り上京する由理を待っていたのは、向伊とその取り巻き達の、どんな遊びにも飽きた退廃的な雰囲気。
飲み会の席で、向伊はきれいだと言い、彼女だと招介したくないわけじゃないと、もてあそび、他の全員が笑い転げる。ただの遊びを真に受けて、東京まで出てきた間抜けな女の子・・・
由理は鍛えられ、強くなっていた。めげなかった自分の自意識に自信を持つ。結末は胸のすくもの、バカ騒ぎが遠景になり、由理は一段高い場所へと。
よかった。面白かった。
こんな男いそうですよね。モテまくって、やがてモテて遊ぶのが自己目的化して、自分が何をしたいのかわからなくなった人。
最近の大学ではイベントサークルというのがあり、その都度企画して人集め、お金も取るらしい。バーべキューやスキーやパーティするのかな。女の子を酔わせて悪いことしまくっていたサークルが某KO大学にありましたね。その名もスーパーフリー、代表者のW氏は28歳なのに延々大学生だったのは、勤めるより良かったのでしょう。
著者は劇団を主宰し脚本も書く。人物の描写が生きているようで、言わせるセリフも無駄がない。
「人に興味を持たれ続けた人間にしか出せない億劫さ・・・この人のそばにいれば自分の価値まで上がる、自分のセンスも試される。
そんな人間の向伊。新潮文庫P139。
居そうですね。こんな人。芸能人に向くんじなかろうか。私たち世代だと沢田研二や布施明のような雰囲気かな。もちろんご本人は女の子と遊ぶ暇もなかったでしょうが。
しかし、由理は「私は無視されたくなかっただけ。私が必至で生きているところを馬鹿にするのはもうやめてと言いたかっただけ」同じくP149
飲み会の場を離れ、道端のビールケースから瓶を取り出して男たちの頭を割るつもりでコンクリートの壁に投げつける。そして決然と前を向いて歩いて行く。
長々と説明しても本作の魅力を伝えきれない。細部の描写が秀逸。神は細部にこそ宿り給ふ。
返事が遅れまして失礼しました。
そう言っていただいて嬉しいです。
ありがとうございました。
龍です🐉
ぬるい毒、
読んだことがあるので嬉しかったです。
本谷由紀子の小説は、
毒が燻るような不健康さが癖になりますよね😉
私は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が一番好きです。
毒が燻ぶる・・・そうですね。うまく表現されますね。短歌をされているのでさすがです。
そう、その表現がぴったりと思います。
この方は私の子供世代ですが、人を見る目が深い。これはまさしく純文学、それも極北にある作品かと思います。うつかりするとぞ毒に当たるような。
私は坂伊たちのどうしょうもない退廃ムードがむかついて、でもちょっと近寄って覗いてみたいような感覚になりました。
地方のばあちゃんが都会の若者のコンパを覗きたい、そんな感じですが、今は大学生、コンパもないんですよね。
大学は講義以外の所が面白いですよね。私はそこで夫を調達。家でパソコン向かっていたのでは人とは出会えません。つくづく今の若い人が気の毒で。
すみません長話でした。