下記の記事はダイヤモンドオンラインからの借用(コピー)です
韓国の大手芸能事務所JYPエンターテインメントとソニーミュージックによる合同オーディション企画から誕生した、日本人9人組ガールズグループ「NiziU」(ニジュー)が国内外で大きな話題になっている。なぜ韓国のエンターテインメント業界は、世界で通用するアイドルたちを次々に輩出できるのだろうか。(国際政治評論家・翻訳家 白川 司)
NiziUの記事が
ネットで炎上
NiziU公式ホームページより
先日、あるネットメディアで『なぜNiziUは世界を興奮させるのか…日本のエンタメが「韓国に完敗」した理由』という記事を執筆したところ、Yahoo!ニュースで炎上してしまい、たくさんの否定的なコメントをいただくこととなった。
記事ではNiziU、BTSなど、韓国のエンターテインメントが日本などの海外で爆発的ヒットを記録し、世界に打って出ている一方、日本のエンターテインメントは世界市場では低迷が続き、ここ数年で日本と韓国の差がより大きくなった背景などについて触れた。
タイトルの「韓国に完敗」が気に障った方が多かったようで、内容を読まずにタイトルに反発したコメントもかなりあった。タイトルは私がつけたわけではないのだが、確かに嫌韓の雰囲気が強まる中で「韓国に完敗」と言われてうれしいはずもない。一言言いたくなる気持ちはわかるが、記事の真意を改めて伝えたい。
私が記事で言いたかったのは、「日本のアイドルが世界市場に打って出るのに限界がある。その理由は日本のアイドル市場の特徴にある」ということだ。
英語のidolはもともと崇拝する対象のことだが、「アイドル」は崇拝対象ではない。ファンにとってアイドルは「応援するもの」である。
完璧なルックスやスタイルで歌やダンスをこなすアイドルはいない。日本におけるアイドルとは、未成熟で透明感のあるルックスの少女が、愛すべき欠点や程よい下手加減を補おうと一生懸命になるものだ。ファンはそんなアイドルの一生懸命に「萌えて」応援するのである。
そのため、ちょっとドジだったり、不器用だったり、少し知識が足りなかったりしたほうが好まれることが多い。「ポンコツ」ぶりが「愛嬌(あいきょう)」となり、それも含めて愛されるからである。だから、アイドルにとって「おバカ」は武器になりうる(でも、「おバカ」になるには、「馬鹿」ではつとまらない)。
この「未成熟の一生懸命」が日本のアイドルの典型的なあり方であり、その一生懸命さを応援することがアイドルに求められる伝統的な形だと言っていいだろう。
モーニング娘。が
世界市場への先駆け
そんな日本のアイドルが国際化した時期がある。きっかけは1990年代に起こった世界的な日本のポップカルチャーとサブカルチャーのブームである。
欧米の若い女性を中心に原宿ファッションや渋谷ギャルファッションが注目を集め、日本のビジュアル系バンドや浜崎あゆみなどの音楽がJ-POPと称されてヨーロッパや東南アジアなどを中心に聞かれるようになった。その流れで、1990年代後半から大活躍していたモーニング娘。がヨーロッパを中心に注目された。
モーニング娘。はテレビのオーディション企画で生まれたアイドルグループで、タレントでない少女たちがいくつもの課題をこなす「未成熟の一生懸命」の物語に多くのファンが引き寄せられて、やがてヒット曲を連発する国民的アイドルグループに成長した。
私の印象では「LOVEマシーン」(1999年)からフランスやスペインなどでも注目されたのが最初だったように思う。モーニング娘。は日本のアイドルが世界市場に乗り出す先駆けとなり、それはのちのPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅの世界進出につながったと考えられ、その功績は大きい。
ところが、肝心のモーニング娘。は、メンバーが交代してパフォーマンス力を上げていくとともに、ライトなファンが脱落して、人気を落としていった。それに取って代わるように、「未成熟の一生懸命」を合理的にシステム化したようなAKB48が人気を博し、やがて日本のアイドル市場はAKBグループに寡占化されていく。
日本流アイドルの
輸出に限界
AKB48もモーニング娘。が開いた世界市場を狙ったが、うまくいかなかった。それは「未成熟の一生懸命を応援する」というスタイルが日本独特なものであって、世界市場ではあまり通用しなかったことが大きかったと考えられる。
また、AKB48の仕掛け人である秋元康氏は、世界市場進出失敗後に、AKBの「ビジネスモデル」の輸出に挑戦している。面白い試みであるが、AKBの「未成熟の一生懸命」が通用する国は限られており、インドネシアや中国などでの部分的な成功を除けば失敗だったと言うべきだろう。
モーニング娘。の道を広げたのは韓国の少女時代である。ハイヒールを履いた「長い脚」で高いパフォーマンスを見せる少女時代は、韓国政府が予算を組んで国家としてエンターテインメントの国際化を狙っていたこともあって、ある程度の成功を収め、アメリカなどのヒットチャートをにぎわすことに成功した。現在、国境を越えて成功を収めるTWICEやBTSの道を開いたと考えていいだろう。
もともと韓国では日本同様に若さが重要であると同時に、エンターテインメントに完成度を求める傾向が強い。それはアイドルグループについても同じだった。だから、少女時代のメンバーは、デビュー前から厳しい訓練を積んでおり、その訓練に耐えたメンバーゆえにレベルの高いパフォーマンスを演じられたのである。
モーニング娘。の「アイドルグループ」というフォーマットは偶然の力で世界市場に浸透したが、その後、市場を広げることはうまくいかなかった。それに対して、韓国のエンターテインメントがその市場を戦略的に広げたわけである。その際、日本流の「アイドルグループ」は韓国流の「ガールズグループ」というフォーマットに書き換えられている。言うまでもないだろうが、アイドルグループは応援するもの、ガールズグループは楽しむものである。
現在の韓国の「ガールズグループ」というフォーマットは、日本のアイドルグループが下敷きになっている。だが、アイドルグループの「未成熟の一生懸命」というやり方が、世界市場へのアクセスを妨げており、結果的に「ガールズグループ」が優勢になっている。
BABYMETALが
切り開いた可能性
では、日本のアイドルが世界市場に食い込むのは無理なのかというと、そうとは言い切れない。日本流のアイドルの可能性の高さを見せているBABYMETALの存在があるからだ。
ただし、BABYMETALが世界市場で成功できたのは、ポップスではなくメタルで勝負した点が大きい。
BABYMETALは最初からメタルで勝負していたわけでなく、あくまで当初はアイドルにメタルの要素を取り入れたものだった。それがやがてメタルのほうに引っ張られて、やがてメタル界のアイドルとして成功したわけである。それはボーカル担当の中元すず香がアイドル離れした歌唱力の持ち主であったことが貢献している。
BABYMETALの特異性は、メタルが国境を超えて世界中に市場が存在しており、国境を超えて人気を博すようになったことにある。やがて「世界的な人気者」として国内で再評価されて、日本でも中高年男性を中心に人気を博すようになった。
このことは、アイドルの活躍の場が徐々に「ローカル」に移行していることと関係していると考えられる。
日本においてアイドルのあり方が細分化されていることに気づいている人も多いだろう。ローカルアイドルはもちろんのこと、地下アイドル、コスプレアイドル、鉄道オタクのアイドルなどなど、細分化された世界においてアイドルが誕生している。
たとえば、私に言わせると、石原さとみは「アイドル女優」ではなく「女優界のアイドル」である。
「アイドル女優」はアイドル的な女優のことで、たとえば「本格派女優」「演技派女優」などに対立する。一方、「女優界のアイドル」は「女優」という限定された世界におけるアイドルであり、石原さとみは後者である。
BABYMETALもポップスではなく、「メタル界のアイドル」として成功している。国境を超えた活躍をしているが、あくまで「メタル」という世界に限定されている。BABYMETALの成功は、日本のアイドルが国際市場に活躍の場を見つけることができるヒントとなっている。
それは、ローカルな場でアイドルが存在できる可能性があれば、エンターテインメントにおいて多様で大きな市場を持つ日本が有利だからだ。
BABYMETALが世界的な活躍ができるのは、メタルを熟知する仕掛け人と、国際水準のプレーヤーが存在して、BABYMETALを全面的にバックアップできるからだろう。ローカルな場であろうと世界市場であればあるレベル(=お金を払った客をライブで楽しませるレベル)のパフォーマンス力が必要である。その点に関しては、日本が独壇場にできる可能性はあるだろう。
ただし、BABYMETALのメンバーが、本当にメタルを愛してライブに情熱を燃やしているのかは少し疑わしい。最近、メンバーの一人が脱退したが、そうなると「やらされている」という状態でハードなスケジュールを無理してこなしていた可能性もある。
BABYMETALの場合、あまりに早い段階で世界市場に出てしまったために、まだ10代のメンバーに過剰な負担をかけている可能性もあり、その功績は評価したいものの、本当に手放しで評価していいのかかどうか迷いもある。ただし、BAMYMETALが日本のアイドルのあり方に大きな可能性を与えてくれた点は疑いようもない。
プレデビューながら
オリコン首位を独占
日本のソニーミュージックと、TWICEを輩出した韓国最大手のJYPエンターテインメントがタッグを組み、選抜した「ガールズグループ」が9人組のNiziU(ニジュー)である。本格デビュー前のプレデビューながら、2020年6月30日に4曲が配信されて、オリコンデイリーデジタルのシングルランキングでは初登場で1、3、4、6位を獲得した。
デビュー前から話題になったのは、日本で開催されたオーディション「Nizi Project」の経過を、インターネット番組やテレビ番組が追っていたからである。NiziUのプロデュースを担当するパク・ジヨン(J.Y.Park)氏も、候補者に対する的確なコメントや独自の哲学で注目されている。本人自身もアーティストでありながら、K-POP好きな少女が憧れているTWICEを手掛けた辣腕(らつわん)プロデューサーでもある。
ここまでを読んで、日本のテレビ番組でつんく♂氏が手掛けたモーニング娘。にそっくりであることに気づいた方も多いだろう。モーニング娘。と違うのは、オーディションにおいてダンスや歌の能力が重視されている点だ。つまりモーニング娘。のオーディションが普通の少女がアイドルを目指すという物語だったのに対して、NiziUはアイドル性だけでなくパフォーマンス力を競った点である。
同じくスターを目指す少女たちの物語を消費する点は同じだが、NiziUの場合、あくまで「NiziUという完成品」を目指す点であるのが異なっている。すでに注目度の高い曲を出しているのに「プレデビュー」なのは、まだガールズグループとして完成していないという思いからだろう。
つまり、NiziUは、韓国ガールズグループとしてだけでなく、日本のアイドルグループ募集番組のやり方をミックスしたような方法をとっている。これが「日韓合作」であるゆえんだろう。ただし、日本の手法を取り入れたのは、なんといっても日本市場がメインターゲットであるからにほかならない。
アイドル性から
パフォーマンスの競争へ
韓国人プロデューサーが日本人の「ガールズグループ」をプロデュースすることに抵抗感がある人も少なくないが、世界進出において韓国エンターテインメントが先行している以上、これも1つのやり方だと割り切るべきではないだろうか。
実際、この方法ですでに大きな人気を獲得しているというのは、日本において、アイドル市場とは別に、「ガールズグループ」への需要が生まれているからにほかならない。
日本にも、今年解散したフェアリーズのように高いパフォーマンス力を持つ「ガールズグループ」もいる。だが、いまだにAKBグループのような「未成熟の一生懸命」消費が主流であり、パフォーマンス先行のグループには従来の方法では突破できない壁がまだ存在していたのである。
NiziUがブレイクした裏には、従来のアイドルファンとは違った層が生まれていると考えられる。それは自身もYouTubeやTikTokにダンスを投稿するような若い層だ。これらの層は、透明感のある少女の「ポンコツ」に萌えるのではなく、自分たちが踊りたくなるようなパフォーマンスを見せてくれるグループのファンになりうる。すると、NiziUのダンスがまねしたくなるようなものであれば、NiziUのファンになり、その中にはもっとレベルの高いことをやりたいと考える少女も出てくるはずである。そのような新しい消費の形が芽吹きつつあると感じる。
これは日本のエンターテインメントにとっても大きなチャンスとなるだろう。これまでの「未成熟の一生懸命」というアイドルの公式を超えて、日本に数多くいるポテンシャルの高い人材を活用できる仕掛け人の登場こそが望まれているのかもしれない。
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