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「入居日からオムツをはずす」老人ホームを見た

2021-09-12 13:30:00 | 日記

下記の記事はビヨンドヘルスオンラインからの借用(コピー)です。

入所のその日から「自立」を目指してオムツはずしと歩行の訓練に入る特別養護老人ホームがある。東京都渋谷区上原にある「杜の風・上原 特別養護老人ホーム正吉苑」だ。寝たきりで入所しても、数週間後には歩ける人が続出。施設1階にはジムと見紛うほどのリハビリ施設を完備。「身体」「社会」「精神」──これら3つの自立を目指すその取り組みを聞いた。
「杜の風・上原 特別養護老人ホーム正吉苑」(写真:末並 俊司、以下同)
 東京都渋谷区。東京メトロ千代田線の代々木上原駅から徒歩圏内。都会のど真ん中にある「杜の風・上原 特別養護老人ホーム正吉苑」(入居定員80人)は歩けるようになる特養として知られる。
 取り組みの特徴は「オムツをしない」ということに収斂する。入居の当日からオムツはずしのケアが始まり、概ね数週間で入居者のほぼ全ての方がオムツ生活から開放されるという。
 同施設を運営する正吉福祉会理事の齊藤貴也氏に聞いた。
 「私たちはとにかく『自立』に軸足をおいて全ての取り組みを行なっています。では自立とはそもそもなにか」
 齋藤氏は次のように説明してくれた。
正吉福祉会理事の齊藤貴也氏
 福祉分野における「自立」とは、自己決定に基づいて、主体的な生活を営むこと。障害を持っていてもその能力を活用して社会活動に参加することである。そのためには身体的自立性の向上をきっかけにして精神的自立、社会的自立へと繋げる。
 身体的な自立が低下すると、いままでできていたことができなくなる。精神的な自立の低下は、寝たきりやオムツなどによる依存心がこれを増長する。また社会的自立の低下は要介護状態になることで孤立が深まるし、家族や社会に対する負担も増える。
 「『身体的自立』『精神的自立』『社会的自立』はそれぞれ独立しているのではなく、全てがつながっています。どれかひとつだけの解消を目指してケアするのではなく、3つの自立がそれぞれつながった形でケアすることが大切なのです」(齊藤氏)
オムツがはずれることで精神的な自立へとつながる
 身体的自立、精神的自立、社会的自立──。
 3つは相互につながっているとはいえ、高齢者の場合、多くは身体的な部分の低下がはじめに見られる。「分かりやすい現象としてはオムツへの依存ですね」と齊藤氏。
 「オムツがはずれることで、自信や生活の意欲が回復しその後、自己実現につながったり、精神的な自立へとつながる」(齊藤氏)
 都市部の特養は入居待機者が数十人、数百人単位で存在する施設が少なくない。どこも順番待ち状態ということだ。原則的に緊急度の高い順に入居が決まっていくので、都市部の特養の入居者は要介護4、5の方が多い。そのほとんどが入居時はオムツをつけている。
 「当施設では入居の当日からオムツをはずしてもらいます。おむつの中での排泄を続けていると、排泄の機能がどんどん低下してしまいます」(齋藤氏)
 今日は体調がいいからトイレにいこう、という気力がなくなるというのだ。
 「やがてオムツを交換するのも誰かにお願いしないとできないという生活になり、様々な意欲が低下していく。自立に向けての気持ちがどんどん低下するわけです。ここでは入所の日からオムツをはずして、その日からトイレに行くという生活を目指します」(齊藤氏)
 もちろんはじめのうちは失禁などの失敗もあるが、1~3週間のうちにほぼ全員が改善するという。
 「だから当施設ではいわゆる寝たままできるテープ式のオムツとか、紙パンツのようなものは開設当初から買っていない。普通のパンツと尿パットのたぐいで対処しています」(齊藤氏)
寝たきりでもオムツをはずす
 オムツをはずすのは大歓迎だが、気になるのが寝たきりの方だ。トイレに行きたくても行けないその場合はどうするのか。
 「やっぱりはずします。尿の失敗だとある程度なら尿パッドがあれば大丈夫。でも便の失敗はそうはいかない、だから寝たきりの方の場合、どうしてもオムツを使ってしまうのですが、当施設ではオムツをはずすと同時に『便失禁ゼロ』の取り組みをスタートさせます」(齊藤氏)
 ここで重要になってくるのが「水分管理」なのだという。
 「高齢者の方の中にはトイレの失敗が怖いから水分を控える、という人が少なくありませんが、間違いです。水分不足は様々なデメリットを生みます。水分不足は意識レベルの低下を招きます。すると尿意や便意を感じることができなくなって失禁につながる。また便秘の原因にもなる。個々に合った水分量を設定し、きちんと水分を摂ってもらいます」(齋藤氏)
 そのために杜の風・上原では常時50種類のジュースやゼリーなどを用意している。1日3回の食事時はもちろん、朝の起きがけやおやつ時など、それぞれのタイミングでそれぞれの好みに会った水分を提供する。
施設のバックヤード ゼリーからジュースまで豊富なラインナップ
 「適切な水分管理の結果、排便のリズムが安定してくるので、適切なタイミングでトイレにお連れすることができるようになる。あとは、その人の様子をみていると便意・尿意を感じ取ることができる。そのタイミングでトイレにお連れする。同時に歩行トレーニングもやるので、筋力や歩く感覚も戻ってくる。やがて自分でトイレに行けるようになるのです」(齊藤氏)
 もともと誰もが長年トイレを使ってきたはずだ。その感覚に戻ってもらう。これがトイレ訓練の基本だ。
歩行のトレーニング
 ベッドから起き上がり、立ち上がって歩く。ドアを開けてズボンを脱ぎ、便器に座る。トイレに行くという行為はこれだけの運動が必要だ。
 「歩ければオムツは要りません。なのでオムツはずしと歩行練習はセットです。当施設の場合、入居時に歩ける状態の人はおよそ30%ほどです。ところが概ね3ケ月でだいたい歩けるようになります」(齊藤氏)
利用者数に対する歩行率の割合。杜の風・上原 特別養護老人ホーム正吉苑による集計
 「高齢者が歩けなくなるのは筋肉低下だけでなく、一番の理由は長期間歩かなかったことで『歩き方を忘れている』ことなのです。だからまずは歩いてもらう。歩き方を思い出してもらうことが重要です」(齋藤氏)
 今年83歳の須子田光子さんは4年前に入居したときは車椅子を使っていた。しかし現在はご覧の通り。
楽しそうに歩く須子田光子さん
足の曲げ伸ばし運動は「毎日欠かさずやるのよ」と須子田さん
 「もちろんトイレも自分でいくしね。お出かけもするんですよ。今日は杖を使ってるけど、具合のいいときは杖もいらない。ここへ来る前は歩けるなんて思ってもなかったですよ」(須子田さん)
 「まずは5秒間、自分の足で立つ練習です。それができるようになったらすぐに歩行の訓練に移ります。これを続けているうちに歩けるようになる」(齊藤氏)
経営面でもプラス
 寝たきりで入居した方を、その状態のままケアする施設もある。一方、杜の風・上原は寝たきりの方のオムツをはずし、歩行練習をして元気にさせる。入居者本人にはもちろんいいことだが、施設としては手間がかかるばかりでメリットはないように感じる。
 「元気になってくれたほうが経営面でもプラスです。このようなケアは健康を増進し、入院が減りますからね。入居者が病院に入院している間は家賃相当分は入ってくるけど、介護保険サービス費は支払われません。ずっと元気で入院せずにここで暮らしてもらったほうが施設の経営は安定します」(齋藤氏)
 杜の風・上原では食事の面でも「自立支援」が徹底している。介護施設に入居する高齢者の多くは栄養不足気味だ。
 「当施設に入ってくる方々の8割くらいは当初、低栄養状態でした。刻み食やミキサー食の方も多い。でもそれだと食べる喜びを感じにくい。だから当施設では常食を目指します。つまり普通の食事にするということです。常食には食物繊維も多く含まれていますので、便失禁を改善する大きな要因のひとつといえます」(齋藤氏)
1階にあるジムでの風景
 見守りや食事介助の手間は増えるが、常食を摂ることで食べることの喜びを取り戻し、これが認知症の予防や症状の軽減にもつながるのだ。
 「私達は常から『認知症の周辺症状を取り除くケア』を実践しています。認知症はあくまでも精神疾患です。精神疾患が治るということは問題行動などが消失することです。私たちは水分ケアや歩行ケアを中心にケアによって、周辺症状を取り除き、安心した生活を送ってもらうように支援を行っています」(齊藤氏)
 医療では到底叶えることのできない取り組みだ。
 歩ける、トイレに行ける、美味しく食べられる。人として当たり前の日常を取り戻すことで、たとえ認知症を患っていてもその人らしく生きることができる。施設入居から新しい人生が始まることもあるのだ。



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