たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子36

2019-02-09 11:35:09 | 日記
高市皇子の想い人は十市皇女であった。
近江朝の2代目天皇として即位するはずであった大友皇子の妃で、天武天皇と額田大王との間の皇女であった。
お互い心を通わせていたが、大友皇子に譲らざるをえない形で引き離されたと聞く。

流石に高市には大津も川嶋も聞けない。

そして大友皇子亡き後、高市皇子が妃として迎入れようとした時急に亡くなってしまった。病気というわけでもなく、朝、布団の中で絶命していたという。
それが自殺だの噂になっているのだが。

今は御名部皇女と仲睦まじくし幸せそうだが。

もしかしたら誰しも本当に愛している人とは添い遂げられないのかもしれない。愛おしく心をかき乱されもがくような思いをする人とは結ばれないのかもしれぬ。例え運良く結ばれても心を砕かれるような別離が待っているのかもしれない。

いつ、どんな形で人生は終わるかわからない。そう思うと大津は無性に大伯に会いたくなった。

川嶋が「影の功労者の息子が現れたら誰だって脅威に思うのは当たり前じゃな。いくらなんでも斎宮を妃にとホラをふくやんごとなき皇子でもな。」と笑った。
高市も「たまげたの、大津。」と言い笑った。大津もつられて笑った。

そうじゃ、姉上のことで草壁に我は腹を立てていたのだ、いや草壁に嫉妬をしていたのだ。つまらぬ奴は我のことじゃな、しっかりせねばなと思うと同時にあの不比等に絡め取られそうな不安感も拭えなかった。

伊勢では大名児という郎女を大津が草壁から取り上げたと噂が届いていた。

どんな娘なのかしら…少し大伯は嫉妬も感じたが、大津が何かを考えた結果ならいたしかないわ…それを含めて大津なのだから…少し強がっているかしらと自問自答していた。
山辺皇女が送り届けてくれた布地も目の前にあった。山辺皇女もきっと我と同じ気持ちでいるわね…

乳母が「皇女さま、お聞きになられましたか。草壁皇子は皇女さまを妃にしたいと公言しておられるのを。」と大伯に言った。大伯は嫌悪と憎悪の感覚を初めて覚えた。大伯が沈黙をしているのを見て乳母は「皇女が斎王でなく還俗されるのは天皇がお亡くなりになることを示すのに迂闊な皇子でいらっしゃいますわね。」と慌てて言った。