goo blog サービス終了のお知らせ 

How many rivers must I cross? I don't know...

幸せになりたくて川を渡る・・・

思い出の渓魚たち 2012/07/28 小坂川 アマゴ34cm

2014-03-04 23:43:40 | 渓流釣り 思い出の渓魚たち

岐阜県の南飛騨を幾つもの支流を集めながら流下する益田川。
その大支流のひとつである小坂川(おさかがわ)。
渓流をそのままスケールアップしたような落差と変化に富むその流れは真夏でも水温はそれほど高くはならない。
支流とはいえ川幅は広く、水量も流れの押しの強さも、小継の渓流竿では大物に対処するのは厳しい。

本流釣りというものに興味を持ち始め、シーズンを通してそのスタイルでやりたいと考えた時に候補として挙がったのが、奥飛騨の高原川とこの小坂川だった。
岐阜県は山に囲まれてはいるものの、夏場は結構気温も高くなり暑い。当然水温も上がる。
日中に本流でアマゴを釣ろうというのはとても難しい話になる。
それ以前の話として、岐阜という地域はこと鮎釣りに関してはその名を全国に馳せる名川が沢山ある。
鮎師の竿の間を縫ってアマゴを釣ろうというのはとても難しい。そのような幾つかの障壁をクリアした上で挙げられるフィールドは多くはない。
 

 

2012年は僕が小坂に通い初めて5シーズン目だった。
それまでにも泣き尺から尺サイズのアマゴは獲っていた。
でも、もっと大きいのが居るに違いないといつも思っていた。
そいつを釣るには自身の釣技の向上が必要なのは勿論のこと、水況を見極めねばならないし、ポイントに関してももっと良いところがあるのではないかと考え始めていた。


毎年必ずと言ってもよいほど、いずれかの渓流釣り雑誌にポイントが紹介される小坂川。
有名河川ではあるが意外にもその流程は短い。
大洞川と小黒川というふたつの小渓流の出合いから益田川本流との出合いまで、距離にしたら僅か数kmというところか。

その短い流程の半分近くは深い谷の底を流れている。
誰に教えてもらうでもなく、僕は自分の足でひとつひとつ入川箇所を探し出していったが、深い谷の区間は正直言って殆ど手付かずだった。

小坂に通い始めて5シーズン目となるその年、僕は手付かずだった区間の探索に取り掛かった。
それは予想通り簡単ではなかった。絶壁に近いような崖が随所にある。
ロープなどを用いれば降りられそうだが、生憎僕には登山の心得はなく、万が一脚を滑らせたりしたときのことを考えると躊躇せずには居られなかった。

それでも根気よく探せば幾つか入川箇所の目星は付いた。
ただし藪漕ぎは必須。下草が踏みしだかれた獣道のようなものもない。
そのようなポイントの中でも、最も有望と思われる箇所は入念に下見を行なった。
闇雲に竿を出すのは勿体ない。雨後の増水など水況を見極めて入川すべきだ。そして、必ず居る筈の大物を獲ってやるのだ。
そう決めた。



2012年7月28日
正に機は熟したと思えた。
前の週にまとまった降雨があり小坂は増水したはずだ。
その水も落ち着き始めた頃だろう。
平水に戻る前のこのタイミングこそあのポイントで竿を出すのに相応しい。
そう考えながら僕ははやる気持ちを懸命に抑え、冷静さを保つよう心掛けながら、クルマから降りて身支度を整え谷を降りていった。

下見は充分に行ったが、僕は流れを前にしてもう一度川の様子を観察した。
幾筋もの流れを目で追い、流下してきた餌は何処に行き着きやすいか、だとしたら魚は何処に居るのか。
イメージ通りに流れるよう僕は竿をコントロールし、尺には満たないもののほぼ狙い通りに4匹のアマゴを釣り上げた。

でもそこで終わる気はしなかった。
もっとでかいのが居るはずだ。
一旦岸から離れ、もう一度よく川面を眺めた。

落ち込みの後、急激に川幅が狭まり、そのために速くなった流れがある。
速い流れはちょっとした淵を形成し、水勢が減衰するところから急激に水深が浅くなるかけあがりのひらきとなっている。
僕はまだそこを流していなかった。

あそこだ。あのかけあがりだ。このポイントで一番デカイやつはあそこに着いている。
ならば餌を打つ位置は・・・流すコースは・・・タナは・・・そして食わせてる場所は・・・
掛けたとしたら取り込み位置は・・・ならば自分の立ち位置は・・・

いつも何気なくやっているであろうことをひとつひとつ丁寧に思い描いた。
そして、竿を振り込んだ。

その一番デカイやつはまんまと食ってきた。
掛けた直後に手許に伝わってくる重みで、尺は確実に超えていると分かった。
あわせは完璧のはず。しっかりと鈎に乗ったはずだ。
よほど下手こかない限り獲れる。絶対に獲れる。

鈎に掛かった直後によくやる首振りを凌ぐと、デカイやつは下流ではなく上流の淵を目指した。
深く深く潜ろうと懸命に尾を使った。
潜ればいい。そこには障害物は何もない筈だ。先ほどの流しでそれは分かっている。
潜ろうとすればするほど体力を消耗する筈だ。

案の定すぐに引き込む力が弱まり、水中の魚体が確認できるところまで浮いてきた。
「デカイぞ。思った通りだ。」

過去に、大きな魚体を見た途端、緊張のあまり脚が震えたことがあった。
さすがに今ではもう震えることはないが、バラシに対する懸念からやはり緊張するものだ。
でもこのときは違った。確実に鈎は乗っていると自信があった。
緊張というより、目の前の大きなアマゴと対峙していると思うとゾクゾクと興奮してきた。

その大きなアマゴは少しずつ岸に寄ってきた。
でもまだ安心できない。
多くの場合、網を差し出すと再び走りだす。
僕は敢えて身を乗り出して自分の姿を見せた。
そこもやはり睨んだ通りだった。
大きな魚体は最後の力を振り絞るようにもう一度走り始めた。
ギラギラッと魚体が水中で翻る。
糸を自身に巻き付けて切るか振りほどくかしたいのだろう。
でもそれも僕は折り込み済みだった。
ギラッとなった瞬間に竿に与えるテンションを強めた。
或いは少し絞ったと言っても良いかもしれない。
魚が向かおうとするのとは逆向きの力を加えて、余計に魚の体力を奪った。
掛けた直後にこのような竿の操作をするのは危険だが、弱りかけている魚に引導を渡すという意味ではとても効果的だと思っている。

網に収まった魚体を見て僕は狂喜したと言っても過言ではないかもしれない。
間違いなく小坂で獲ったアマゴの中では最大魚。
逞しく盛り上がった背中で、少し鼻が曲がり始めている精悍な顔つき。
更に、本当にこれは稀有なことなのだが、パーマークがとても鮮やかだ。
大きな個体になるとパーマークが薄くなっていくのが通常なのだが、このアマゴについては驚愕の鮮やかさ。
この大きさで、ここまで鮮やかなパーマークを持った個体には、次は一体いつ会えるのだろうか。
そして、そこには絶対にデカイやつが居るはずと踏んだポイントで、何もかも狙い通りに大物が獲れるというのは、これからの釣り人生において、これからあと何回体験出来るのだろう。
そう考えて、僕はそのアマゴに「会えてありがとう」と言いたくなった。


体長だけで言えば、もっと大きなアマゴを過去にもその後にも釣り上げている。
しかし、その魚を獲るまでのプロセスを思うと、他と比べるまでもなく掛け値なしにこの小坂のアマゴが思い出深い大物だ。

34cm20120729
2012/07/28 南飛騨 小坂川 アマゴ 34cm

Img00037

アップにも充分耐え得る美顔です。

Img00019

小坂川 古小橋より下流を臨む
 

 
 

渓流・本流大物最強manual―完全保存版 (別冊つり人 Vol. 212)
価格:¥ 1,600(税込)
発売日:2007-02