
だが、このアルバムに関しては自分の中でもどう扱ってよいのか未だに整理がつかない。
1. Weight of the World
2. Violent Side
3. Hippie Dream
4. Bad News Beat
5. Touch the Night
6. People on the Street
7. Hard Luck Stories
8. I Got a Problem
9. Pressure
10.Drifter
「Landing on Water」というアルバムタイトルと、それに呼応した飛行機の緊急着水のイラストが描かれたアルバムジャケットにどんな寓意があるのかよくわからない。
参加ミュージシャンはダニー・コーチマーとスティーブ・ジョーダンの二人だけ。「Violent Side」「Touch the Night」の2曲についてはサンフランシスコ少年合唱団がコーラスで参加している。プロデュースはコーチマーとニールが共同であたっており、このサウンドを主導したのはコーチマーなのだろうか。シンセサイザーのチープな音色は良くも悪くも80年代的だし、ジョーダンのドラムはドタドタしていてドラミングというより「力任せに太鼓を叩いている」っていう感じ。この奇妙なサウンドがこのアルバムの最大の特色。そして収録曲の歌詞は重たいものばっかり。
適当にピックアップすると、"暴れたい気持ちを抑えなくちゃ"(Violent Side)、"俺が恋人を別の男に取られた話を聞いてるかい"(Bad News Beat)、"不幸な話を俺に聞かせるな"(Hard Luck Stories)、"問題を抱えてるんだけどうまく説明できないし解決もできない"(I Got a Problem)、"俺は漂流者だけど救助しようとするな"(Drifter)等々。最大の問題作は「Hippie Dream」だろう。"But the wooden ship were just a hippie dream"という歌詞は明らかにCS&Nにケンカ売っているもの。
こんな歌詞が並ぶからアルバム全体に閉塞感が漂うが、それらの曲を前述のようなサウンドで演っているから、得も言われぬ奇妙な感覚に陥る。人によってはこの奇天烈さに魅力を覚えることだろう。「Tonight's the Night」あたりの危なっかしいニールが好きな人は結構このアルバムも好きなんじゃなかろうか。
だが、このアルバムの最大の弱点は魅力あるメロディの楽曲が少ないことだと思う。そこがゲテモノ「Trans」と違うところ。そんな中で「Touch the Night」だけは唯一の名曲だ。ぐいぐい引き込むギターに少年合唱団の天使の歌声が絡んで不気味な魅力を醸し出している。ミュージックビデオも制作されて、その中ではこの曲をバックにTVニュースのレポーターに扮したニールが寸劇を演っていた。80年代のMTV全盛期はそれまでのミュージシャンにとって生きづらい時代だったが、彼もまたこのアルバムで試行錯誤の罠に嵌ってしまったのだろうか。
それまでのゲフィンアルバムは本人がマイペースに楽しんで演っている感じが伝わったけれど、このアルバムはそういう印象は受けない。キッチュなサウンド指向といい、「Hippie Dream」でのウッドストック時代への決別宣言といい、MVでの柄にもない演技といい、時代に追いつこうとかなり無理している感じがする。でも、このアルバムを「そんな時代の仇花」とレッテル貼って片付けてしまうことに躊躇もしていて、なかなか難しいアルバムだわ。
(かみ)
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