今回の
メニューの改定と価格の再設定はほぼ、番頭が行いました。
理由は、店主森川は作る側の気持ちが強すぎ、全てのメニューに並々ならぬ愛着が湧いているせいで、なかなかロジカルに取捨選択や変更が出来ないまま、ずるずると半年以上先延ばしにしてしまっていたからです。
今回、番頭は出数やロス率や原価率など一般的に参考とするデータと、以前試食会で行いましたアンケートを照らし合わせながら取捨選択を行い、インターネットの口コミ等を見ながら約半年くらいかけて改定の基礎の作成を行っておりました。
今回、最も頭を悩ませたのはほうれん草のカレーライスでした。
キーマカレーライス、牛カツカレーライスに次ぐ人気の商品なのですが、御提供開始当初と比較してほうれん草の価格がかなり上昇しており、御提供の中止をするか、それとも価格を上げるのかで葛藤しておりました。
ほうれん草のカレーライス、実はキーマカレーライスよりも店主森川の思い入れが強かったりします。
理由は単純なのですが、ほうれん草のカレーライスの開発はこれまでのどのカレーライスよりも開発に苦戦し、御提供開始までかなりの時間を要したからです。
また、御提供を開始してからもなかなか売れず、賄いにほうれん草の炒め物が数ヶ月出続け
「もう、鉄分、つらい」
と思った頃、やっと人気が出始めました。
そのようなメニューですので、店主森川は継続を希望しましたが、僕は御提供の停止を提案しておりました。
ほうれん草のカレーライスの御提供の停止を提案した理由は大きく2つございました。
1つは、今回仕入先様の御尽力でキーマカレーの価格を10円下げる事が出来ました。これはキーマカレーの出数が増え続けた為にスケールメリットが生じ、発生した天からの贈り物のようなものです。そのキーマカレーの値下げに対し、ほうれん草のカレーの値上げで冷や水をぶっかけるような事をしたくなかったからです。
もう一つは今後さぼてん食堂が今の三人体制の維持が出来るかどうか保証も無く、二人体制へのシフトを視野に入れますと、御提供時の工数の多いほうれん草のカレーライスはかなりの負担になるとの判断もありました。
今回の
メニュー改定を機に、僕としては値上げに踏み切らざるを得ないメニューは今回全て卒業させ、心機一転して新商品の開発に取り掛かりたかったので、ほうれん草のカレーライスの御提供を中止する方向を堅持しておりました。
しかし、店主森川は
「ほうれん草のカレーを無くすのはダメだ」
と言うばかりで話が平行線のまま時間だけが過ぎてゆきました。
その間も、店主森川は現在の価格のまま御提供出来る方法は無いかとペーストの量を減らしてみたり、素揚げのほうれん草を減らしてみたり、お肉を抜いてみたりと模索しておりましたが、やはり味や見た目が大きく変わってしまいます。
色々と手を尽くし、いよいよメニューの改定をするしないも含めて決定しなくてはならない日に、やっと店主森川から
「価格を上げ、それでも召し上がっていただけるなら継続、ダメなら諦めよう」
との提案が出まして、それを採用との運びとなりました。
今回のメニューの改定及び、価格の変更はさぼてん食堂にとって試金石となると思っております。
さぼてん食堂は以前
「割高」
との評価がございました。
しかし、材料費的に鑑みますと決して割高だと僕は思っておりません。
ただ、そのかけた材料費に見合う商品を作り出すセンスやスキルが弊店に無く、そのセンスやスキル不足が割高との印象を与えてしまったのだと僕自身は解釈しております。
店主森川は連日連夜、店舗で様々な努力をしております。
店主はそのセンスやスキル不足を丁寧な仕事や努力で払拭出来ると信じておりますが、僕はその丁寧な仕事や努力もお客様に好評価されなければ自己満足でしかないと思っております。
料理人の視点だけで無く経営者の視点を
料理の事だけで無く新しい文化の吸収を
調理のスキルの向上より、会話のスキルの向上を
独りでいるのではなくもっと他者との交流を
カレーだけでなく、他のジャンルの料理の研究を
これまでの2年間の努力が報われないのなら、努力の方向性を変える必要があると思っております。
さぼてん食堂は現在、ちょうど喫水線を上下しているような状態におります。
さぼてん食堂がこれから永続的に3人体制のまま肥後橋で営業するには、何をどうしても今のうちに修正すべき点から目を背けず、恐れず、粛々とそれを課題としてクリアしていかねばもう先は無いと思い、誠に勝手ながら今回のような
メニュー全般の改定を行わさせていただきました。
長々と生々しい事を徒然と書いてしまい、なんのこっちゃと読まれた方の中には不愉快に思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、さぼてん食堂の番頭はいつもこのような感じですので、御容赦下さいますよう、よろしくお願い致します。
【PS】
「番頭の事は嫌いになっても、さぼてん食堂の事は嫌いにならないで下さい」