信おん御伽草子

信長の野望onlineの世界を題材のオリジナル小説を書いておりました。令和二年一月、ブログを閉鎖しました。

大ふへん者 弐 「山賊町にて』

2018-12-15 08:16:20 | 真宮寺八雲の書
《山賊町にて》

武田家が治める信濃の国は、
雪により白く染められた大地が、
広く、広く、これでもかと広く広がる場所。

この地の主要都市は、
越後の国境寄りに位置する松本という町だが、
実はもう一箇所、
他に類を見ない、特別な町が存在する。


『山賊町』と呼ばれるその町は、
何処から集まったか、他の町同様の施設を有し、
訪れる者の助けとなる場所だ。

それでは、特別とは言えないではないか。

いや、

この町の特別性は、もっと根本的な部分にある。

それは、
ここを統治する大名がいないということ。


どういう理由か知れぬが、
ここは、どの勢力にも属さない完全な中立都市。


様々な人間がここに、何かを求めてやってくる。

それが何であるかは、
当の本人しか知らぬこと。

だが、

行き交う人々の数だけ各々の物語が有ることは、
どの町にも言えること。


特別であるこの町も、そういった意味では、
ごくありふれた場所と言えるのかもしれない。


さて、
ある日、ここにやってきた傾奇者の竜司は、
茶屋の席にどかりと座り茶を飲んでいた。

なんとも、複雑な表情。

不機嫌、そして困惑だろうか?

不機嫌に関しては、説明することができる。


ここに稀代の傾奇者、前田慶次がいると聞いて、
わざわざやって来たのだが、
どうも、滞在していたのは大分前のことらしく、
会うことが叶わなかったのである。

会ってどうしようとしたのか。

一手、喧嘩をふっかけてみたかもしれないし、
もしくは、酒を酌み交わしていたかもしれない。

会ってみなくては、
己の心がどう動くか、わかりはしないのだ。

その時、その瞬間、
感じるままに振る舞う自由なる者。

それもまた、傾奇者としての生き方なのだから。


もう一度、不機嫌と困惑の最中にいる、
竜司へと戻ろう。

さぁ、困惑とはどういったことなのか…


「…はぁ」

竜司はコトリと茶碗を横に置くと、
立ち上がって、その者の方を向いた。

「おい、あんた」

と、言葉を発して、
竜司は、しまった、と少し後悔する。

思った以上に、うっぷんが溜まっていたのか、
軽く声をかけるつもりが、
少しだけドスの効いた声色となってしまっていたからだ。

そう、少し、だけ…?


竜司のそんな声を受けて、
びくりと身を固くしたのは、
その茶屋の茶くみ娘だった。

「は、はい。なんでございましょうか?」

「あ、その、なんだ。
別によ、愛想を良くしろとは言わねぇんだが、
さっきから、あんた、
ずっと俺のこと睨んできているよな?

いい加減気になってよ。

心当たりはねぇんだが、
何か俺が気に食わねぇことしたなら、
教えてもらえないか?」

そう言われた娘は、
一瞬ギクリとした表情を見せた後、
無言で俯いてしまう。


少しの間、
娘からの回答を待った竜司だったが、

「まあ、いいや。
悪かったな、変なこと言ってよ。

代金、ここに置くから…」

なかなか口を開かない娘に、
そう言って、袂から小銭を取り出した。

その時、

「いえ!あなたはっ、
お客様は何も悪くありません!

ごめんなさい!

私が…私が悪いんです!
どうしても、どうしても、抑えられなくて…!」

娘が竜司に駆け寄り、
頭を下げながら言った。

そして、
ポロポロと涙を流し始めたのだ。




「えー…傾奇くん、女の子泣かせたの?
それは、ちょっと良くないなぁ」

「最低だな、お前」


竜司の話を聞いていた二人の反応である。

からかうように微笑みながらの色葉と、
殺気すらこもっているような雪音の言葉。

「ちげえよ、話を最後まで聞けって」

竜司は顔をしかめて、そう言うと、
山賊町で起きた事の続きを話し始めた。



「…取り乱してしまって…
本当に申し訳ありませんでした」

未だ涙ぐんだ瞳を見せて、
茶屋の娘が、竜司へと頭を下げた。

「私、名を千代恵と申します。
見ての通り、ここでお茶汲みをしております」

「俺の名は竜司だ。
こっちこそ、すまなかったな。
ちょっと、むしゃくしゃしててよ。
あんたに、あたっちまったようなもんだ」

すまなそうに言う竜司に、
千代恵は首を振って言った。

「そんな事ありません。
私が、あなたの事をジッと見ていたのが、
悪いんですから…」

「それなんだが、何か理由があるんだろ?
良かったら聞かせてくれよ。
出来ることなら、力になるぜ?」

「…竜司さん、あなたも傾奇者、ですよね」

「ああ、まあ、見ての通りさ」

「傾奇者、というのは、
そんなに魅力があるものなのですか?」

「んん?」

唐突な質問に、竜司が答えあぐねていると、
千代恵は目を伏せて謝った。

「ごめんなさい、私ったら、
なんて失礼なことを…」

「いや、気にすんな。
そうさなぁ、人それぞれ想いはあろうが、
少なくとも、でなければ傾奇者なんて名乗る奴はいねえんじゃねぇかな」

「そうですか…そうですよね。

竜司さん、お願いがあります。
私の話を聞いてもらえますか?」


ああ、いいよ、と頷く竜司に語られたのは、
千代恵と彼女の想い人であった侍の話であった。



「その方は、松山からいらしたお侍さんでした。
修行の為、と申されて度々この店に来てくれて、
色々なお話をされて。

ご自分の武士道を命をかけて貫くのだと、
真っ直ぐな目をして話しておりました。

…だんだんと、私はあの方に惹かれ…
そして、とても嬉しいことに、あの方も私を
好いてくれて…

直接その事を聞かされた時は、
どんなに嬉しかったか…

そうして、将来を誓い合った私たちでしたが、
あの日、一人の傾奇者が、この店にやってきて、
私から全てを奪っていったのです」


伏し目がちに言葉を綴る千代恵の前、
竜司は無言でそれを聞いていた。


「店にやってきた傾奇者は、
乱暴な言動で周りの人を威嚇し、
私の…手を掴んで抱きついてきたのです。

その時、あの方が店に丁度やってきて、
私を助けてくれました。

でも、そのまま…
二人はその場で決闘をすることになり、
あの方は…私の前からいなくなりました」

「そうか…それは辛かったな」

目に涙を浮かべて、
千代恵は懐からあるものを取りだした。

「これは、あの方から頂いたものです。
形見、というのでしょうね」

それは白木の鞘に収められた、
一振りの小刀だった。


「竜司さん、
どうかこれを受け取ってもらえませんか?

そして、ある傾奇者に出会ったら、
その者を討って欲しいんです。

恐ろしいことを言っているのも、
ご迷惑なことを頼んでいるのも百も承知です。

でも、私の力ではどうすることも…

どうか、どうか、お願いします」


泣きながら頭を下げる千代恵に、
竜司は少し間の後に、こう言った。

「わかった。言ったろ?力になるって。

その仇討ち、この傾奇者竜司が引き受けた。

だから、もう泣くなよ、な?」

「はい…どうか、どうか、
よろしくお願いいたします」

頭を下げる千代恵の瞳からは、
さらに涙が溢れて落ちる。


そんな彼女が泣き止むまでの間、
竜司は彼女に優しい言葉をかけ続けたのだった。


〜続く〜
次回「大ふへん者 参」
旗印


☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、伝承、
システム、設定等とは一切関係ありません。







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