信おん御伽草子

信長の野望onlineの世界を題材のオリジナル小説を書いておりました。令和二年一月、ブログを閉鎖しました。

鎮魂の日々 参

2017-10-31 20:54:27 | 封印の書 虎空
越中、倶利伽羅峠へ向かう山の中。

すっかり、陽も落ちた闇の中、
その場所には小さな炎がちろちろと燃えている。

火を絶やさぬようにしながら、
夜明けまで身体を休めることにした一行は、
時間ごと二人ずつの交代制をしくことにした。

まあ、
簡単に男女で分かれることになったのである。


始めは女性陣。

虎空とリョウの二人は、少し離れたところで、
仮眠をとることとなる。

そして、火の側では、
こんな話が始まっていたわけだが…。


「えー?!
虎空さんと由美さんて、そういう関係じゃなかったの?あたしは、てっきり…」

「私もです。
茶屋で見かけた時から、仲よさそうでしたから」

火蓮と水香、二人の口撃をまともに受け、
由美は気合を大きく削られる。

「ち、違いますよ?!
よく一緒に出かける仲間でそういうのでは…」

顔を赤くし、
その前で手をブンブン振って、
『力一杯』否定する由美。

「えー?ホントかなー?」

「ふふふ、やめなさい、火蓮。
由美さん、困ってらっしゃるわよ」

すっかり二人の遊び相手になってしまっている。

「そ、そういうことなら、
お二人はどうなんですか?リョウさん、優しくて
真面目そうで、素敵な方ではないですか」

危機回避のために、
とっさに出てきた、由美の言葉。
それは、どうも地雷だった様子で…

「あー、それは…」

「えっと、その…」

二人俯いて、黙ってしまった。
聞いた由美の方が困って、

「え、あの、ごめんなさい。
私、とても失礼なことを聞いてしまって」

と、二人に謝った。

「あ、由美さん!いいの、大丈夫だから!」

「そうなんです!
私たち、まだそういう関係ではないんです!」

まだ?

言ってしまってから、
水香は口を押さえて赤くなる。

火蓮も、額に手を当てて、顔を背けている。
赤く見える頬は、焚き火のせいではないようだ。

「まだ?」

恐ろしい天然炸裂。
由美は水香の言葉を繰り返す。

「あー、もう!水香?!」

「ご、ごめんなさい。
困っている由美さん見ていたら、なぜか口から出てきてしまって」

虎空ら仲間うちで相談役となることが多い由美。

不思議と彼女には、何でも話してしまう。
どんな事でも、嫌な顔せずに、
優しく、静かに、話を聞いてくれる。
由美は、そんな魅力に溢れていた。

「じつはね、由美さん。
あたしも、水香も、そのね?
ずうっと前から、そういう事は話していてさ」

「私たちは、お互いリョウをどう思っているのか
良く分かっているんです。

リョウは全然気がつかないのですが…

その、怖くて。

例えば、リョウにそんな事を話して…」


「今まで通りの
三人でいられなかったらどうしようか?

あたしは、リョウも水香も大事だし、一緒にいたいと思うから、三人離れるのもいやでね」

水香の言葉を、香蓮が継いで答える。
そして、二人揃って、
大きなため息をつくのだった。

由美は、それを聞くと、並んで座る二人の前に近づいて、

「本当に素敵な方々。
私は答えを示してあげられないけど、
皆さんの事、応援しますよ」

二人を両手で包んで抱きしめた。

驚いた二人だったが、香蓮も、水香も、
由美の背に手を回し感謝の言葉を伝える。

「ありがとうね、由美さん」

「ありがとうございます、由美さん」




しばらく後、今度は虎空とリョウが
火の番、見張り番となる。

「由美殿、お先にありがとうでござった。
あとは、ゆっくりしてくだされ」

「ありがとうございます、虎空さん。
では、よろしくお願いしますね。

あ、あと…」

由美は、少し微笑みながら、
他の三人から見えないところで、
虎空の腕をギュッとつねる。

「…タヌキ寝入りは、いけませんよ?」

小声で叱られた。
バレていたようでござる。

「おう、お前たちも、ご苦労さまな」

「「……べー、だ」」

こちらは、
なぜか、二人舌を出して行ってしまった。

「???」


男達の見張りは、意外と真面目な話がなされた。

そこで、虎空がリョウから受けた相談は、
少々驚く内容であったが虎空はそれを了承する。

「よろしいのですか?」

「この徒党の党首はリョウ殿でござる。
やりたいことがあるなら、やってみるのが良かろう。

きちんと、相談もしていただけたしな。
拙者も考えたうえで、賛成したでござるよ」

「ありがとうございます!」

そう言って、リョウは勢いよく頭を下げた。


倶利伽羅峠。
源氏と平氏が戦い、多くの命が散った場所。

五人がそこにたどり着くと、まさにそこは、
阿鼻叫喚、亡者の溜まり場となっていた。

首だけの怨霊や、朽ちた身体を引きずる亡者、
もはや人間の体をなしていない、異形の者まで
そこを徘徊している。

リョウを先頭に、少しずつ近づいていく。

何体かの亡者が、こちらに気づいたとき、
リョウが声高らかに口上を述べた。


「我は遠方より参りました、リョウと申す者!
一介のもののふにございます!

平家の誇りある武人であらせられる、
平為盛どのとの、一騎討ちを所望いたす!

どうそ、我が前に御姿をお見せいただきたい!」


その後ろで、
火蓮、水香が心配そうな顔で見守っている。


これこそが、リョウが虎空に頼んだ事であった。

『敗れたとはいえ、武士が怨みと憎しみだけで
剣を振るうなど、もったいないお話。
平家の武将であったとなれば、なおのことです。

私は為盛どのと、この剣で語ってみたいのです』


「お侍の、こういった頑固なところは
皆、似ているでござるな?」

「本当に。でも、大丈夫でしょうか?」

虎空の言葉に、
やはり心配そうな由美が聞き返す。

「さて、どうでござろう。しかし…」

「…そうですね。
あのお二人が信じているのですものね」

由美は、背後で手を繋ぎ、
リョウを見つめる火蓮と水香を見る。



しばし後、

「田舎者の源氏の匂いがするかと思えば、
若造が大層な口をきくものだ。

身の程を知らぬとは、恐ろしいことよ」

そう言って、怨霊の群の中から、
一人の武士が現れる。

生きた人間と変わらぬ、その姿。
精悍な顔つき、威厳ある立ち居振る舞い。

「我が平為盛である」

其の者は、
リョウを見据えながら、そう名乗った。

〜続く〜

次回「鎮魂の日々 四」
怨嗟


☆この物語は架空のお伽話です。
作品の中で語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません
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鎮魂の日々 弐

2017-10-31 02:09:24 | 封印の書 虎空
驚く虎空と由美に、
兼生尼は穏やかな笑みを浮かべて言った。

「この度は、
おいでくださいまして、ありがとうございます。

どうか、皆さまのお力をお借りしたいのです」


深々と頭を下げた後、
兼生尼が虎空達に話してくれたこと。

彼女の望みとは、この地において、
命を落とした、死者の魂の安らぎ。

虎空達は、誰もが一言も発することなく、
その話に耳を傾けていた。


「かつて、加賀との国境にある倶利伽羅峠にて、
源氏と平氏が激しく争いました。

木曽から京へ上ろうとした、源義仲様。
そして、それを討とうと押し寄せてきた、
平氏の者たち。


多くの血が流れ、命を落とし、
そして、峠に積み重なっていく骸…。

その戦いの後、源平のもののふ達の怨念が、
この現世にて彷徨い続けているのです。


もう数えきれないほどの、月日が経っていると
いうのに…。

皆さまにお願いしたいのは、
その者たちの怨念を鎮めてほしいのです」


伏し目がちに話をする兼生尼。

痛々しい話に、由美の表情も曇っている。
しかし、そんな彼女が、始めに口を開いた。


「お話はわかりました。
しかし、その方々の怨念を鎮めるにしても、
どのようにして差し上げればいいのか…」

兼生尼は答える。

「かのもの達は、すでに理性を失っております。
残念ながら、戦いにおいて、
その念を滅するしか、方法はないかと存じます」

由美は、そんな悲しそうな兼生尼を前に、
何も言えなくなってしまう。


「わかったでござる。

源平の勇士達、その悲しい想いを、
我らで介錯いたせばよろしいのですな?

お安い御用でござる」


そんな空気の中、虎空はあえて明るく答える。

「無念と悲しみを、
断ち切って差し上げよう、由美殿」

「虎空さん…
そうですね…わかりました、やってみます」

と、由美もしっかりと頷いた。


「もちろん、私達も参ります。
どうぞ、よろしくお願いいたします」

少し後方で、話を聞いていたリョウ達。
リョウの言葉に、

「よろしく頼むよ」
「どうかよろしくお願いいたします」

火蓮と水香が続いた。


「この三人には、
先に依頼を受けていただいたのです。

しかし、源平の猛者達は、
怨念に成り下がったとはいえ、強者揃い。

そこで、ご助力いただける方を探すように
進言いたしました」


たしかに、虎空達に比べて、
この三人は戦闘の経験が浅いようだ。

力が及ばない相手が目標の場合、
無理をせずに、経験豊かな者に助けてもらう事は
この世界では、至極当然の事である。


「兼生尼殿も、我らと同様、
冒険の経験がおありなのでござるか?」

虎空の問いに、兼生尼は黙って頷く。

「ほう、大先輩の頼みとあれば、
拙者も大いに張り切って臨むでござる」

「…どうか、よろしくお願いいたします。

まずは、倶利伽羅峠付近にて徘徊しております、
平氏の武将、『平為盛』殿にお会いください。

そこは、平氏の怨念が多数渦巻いております。
どうぞ、お気をつけて…」


そういうと、兼生尼の姿はだんだんと薄くなり
ついには見えなくなってしまった。

「…霊からの依頼とは、初めてでござる」

「私もです。頑張って、
なんとかしてあげましょうね」



こうして、兼生尼の依頼を受けた虎空と由美は、
リョウ、火蓮、水香と合わせ、五人の徒党で、
倶利伽羅峠に向けて出発したのであった。


越中は、とにかく険しい山々が多い土地である。

加賀との国境付近に向けての道中も
同様に、大変険しい道のりとなっていた。

途中、一夜の野宿を挟む計画を立てて、
事故など無いように、慎重に進んでいく。

その道すがら、リョウ達三人の話も、
色々と聞くことが出来た。


「まあ、それでは、
皆さま幼馴染みでらっしゃるのですね。
それは、素敵です!」

由美にそう言われ、火蓮が照れ臭そうに答える。

「いや、腐れ縁みたいなもんさ。
お互い、ハナタレの頃から知ってるからね。
よく飽きないものだと、自分でも感心するよ」


侍の火蓮は少し男勝りの快活な女性。
虎空達とも、すんなりと会話をするようになり、
色々な事を話してくれた。

「おまえ、虎空殿達の前で
ハナタレとかいうなよ。恥ずかしいだろ?」

「んじゃ、寝小便たれだったころ、
の方が良かったか?リョウ?」

「おい?!」

火蓮にからかわれて、顔を赤くしているのは、
同じく侍のリョウ。

礼儀正しく、真面目な青年だ。
口頭では女性陣にいじられる場合が多いようだが
ここぞという時に、道を示すのは彼の役目。
この三人の党首であった。

「もう、火蓮たら。私も恥ずかしいわ」

「ははは、悪い悪い。
寝小便たれは、リョウだけだったよな」

「火蓮?
そういうことを言っているのではありません」

三人目は陰陽師の水香。
お淑やかで、細かなところによく気がきく女性。

少し走り過ぎとなりそうな火蓮の袖を、側で
ギュッと握って止めている、そんな印象である。

引っ込み思案なのか、最初はなかなか会話も少なめであったが、由美に話しかけられているうちに、今ではすっかり打ち解けた雰囲気に。

そういうところ、由美には敵わないな、
と、虎空は感心して見ていた。


おそらく、
道程の半分に差し掛かったと思われる場所。

時間も夕刻が近づいていたので、ここで野営を
行う事にする。

各自作業を分担し、着々と準備を進めていく。

「さあ、楽しい野営の始まりでござるよ!」

張り切った声を上げる虎空。
皆、その様子を笑いながら見ていた。

〜続く〜
次回「鎮魂の日々 参」
平為盛


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鎮魂の日々 壱

2017-10-30 07:15:49 | 封印の書 虎空
雪を纏った大地が広がる国、
ここは越中。


その昔、この地の倶利伽羅峠において、
源氏と平氏による、
激しい戦いが繰り広げられたといわれている。


今はもう、その名残も見えず、
清らかな、白い雪が見えるだけ。


だが、人の想いは未だそこにあり続け、
それぞれの求めるものを
待ち続け、または探し続けていた。
そして、もがき苦しんでいるものも…。


今この時にも、ずっと。



「美味い!あー、あったまるでござるな!」

と、思わず声が出る。


越中は富山の町。

茶屋の一角で、虎空は大きめのお椀を片手に、
実に幸せそうな顔をしていた。


「本当、これは美味しいですね」

隣に座る巫女の由美は、同じお椀を両の手で持ち
静かにその料理を味わっている。


越中の名物の一つ、『越中みそ』を使った、
具材たっぷりの、お味噌汁。


この町の人気の品だということで、
二人は早速これを注文、その味を堪能していた。


「流星さんも、一緒にいただければ、
良かったのに。残念ですね」

「あー、まあ、そうでござるな」

由美の心の底から残念がっている声に、
虎空は合わせるよう努めて、それに答える。



この度、虎空は、

この町にいる知人に荷物を届ける

という依頼を流星本人から受け、
当の本人とともに富山に来ていた。


由美は二人への行進曲援助ということで、
同行している。


「いや、助かったぜ、虎空、由美さん。
一人じゃ大変だったからな。
ほんと、ありがとうな!」

富山の両替商に荷物を預けると、
流星は二人に上機嫌でお礼を言った。


「いいえ。どういたしまして。

それに、私も初めて越中まで来れて、
道中、とても楽しかったですよ」

そう言って、由美は微笑んだ。

「たまには、遠出もいい。他国の美味しいものも
食べられるでござるからな」

「ああ!良いですね。
三人でお食事をして帰りましょうか」

と、そこで流星が気まずそうな顔をして言う。

「あー、申し訳ない!
俺はちょっと知人と約束があってな。

そいつ、少し人見知りなもんで、別行動とらせてもらうわ」


両の手を顔の前で合わせ、謝る流星。


「そうですか、残念ですが仕方ないですね。
どうか、その方によろしくお伝えください」

「悪いな、由美さん。虎空も、な!」

流星はそう言って、由美に見えないところで、
虎空に、『ある合図』を送っていたのだった。


小指、ぴこぴこ動かしていたでござるなー
と、虎空は思い出す。

女性と逢引か。

「別に隠すことないと思うのだが、
カッコつけでござるな、まったく…」

「?
何か言いました?」

「いやいや、別に。

それより、あちらで市が開かれていたでござる。
あとで、覗いてみるでござるか?」

「はい!」

由美はとても嬉しそうだ。


まあ、何より由美殿が楽しそうだからいいか。
せっかくだ、楽しめるものは楽しんで帰ろう。


そんな事を考えていたところに、

「お食事中、申し訳ありません。
少し、話を聞いていただけませんか?」

と、声をかけられた。



虎空と由美が、そちらに顔を向けると、
そこには三人の若者が立っていた。

男性の侍と女性の侍、もう一人は陰陽師の女性。

神妙な面持ち。
何やら、お困りの様子だ。

「構わないでござるよ。
どうかしたでござるか?」

隣に座る由美も頷いている。

少し、ホッとした顔で、男性が話しだした。

「ありがとうございます。
なかなか、
お時間をいただける方が見つからなくて…

申し遅れました。
私はリョウ、こちらが…」

「あたしは火蓮(かれん)」

と、侍が。陰陽師の方は、

「水香(すいか)と申します」

揃って、虎空達に頭を下げる。

続いて虎空達も自己紹介を済ませた。


「とあるつてにより、こちらの寺院で
依頼を受けることになったのですが、
私たちでは、手に余るようなのです。

お力添えいただけないでしょうか?」

リョウが頭を下げ、残る二人もそれに続く。

虎空が、ちらっと由美を見ると、
目が合った彼女は静か微笑むだけ。

「いいでござるよ」

こうして、旅の地において、
虎空と由美の二人は、
追加の依頼を受けることになったのである。



「こちらですか?」

由美が、その場所を手のひらで指して確認する。

そうです、とリョウが答えた。


その後、五人となった徒党は、
富山の寺院を訪れていた。

ここが、リョウ達が依頼を受けた場所だということなのだが、大きな木が立っているだけで、
他には何も、誰もいない様子だ。


「由美殿の鼓、大活躍でござるな」

「ふふっ、そうですか?
とても嬉しいです」

そう言って、由美は鼓を取り出す。

少しの間、その後、

軽やかに空気を震わせて、
鼓の音が境内に響きわたる。

瞳を閉じて打ち鳴らす由美の鼓は、
優しく、優しく虎空たちの心と身体にも、
染み入っていくようだった。

「…綺麗な音」

思わず発した、水香の言葉に、
リョウも火蓮も、無言で頷いていた。


変化が起こったのはその時。

何もないはずの場所に、始めはうっすらと、
そして、だんだんと鮮明にそれは見えてきた。


「…美しい音をありがとうございます」

え?と、驚いた由美の鼓が止まる。
虎空も同様に驚きの表情を浮かべていた。

不可視のものが見える『真実の唄』

しかし、その後、こんなにもハッキリとした声で
話しかけられるとは思っていなかったのだ。


そこにいたのは、一人の女僧。
彼女は虎空達に、こう名乗った。

「はじめまして。

私の名前は兼生尼(けんせいに)。
この越中にて、祈りを捧げ続ける者です」

〜続く〜
次回「鎮魂の日々 弐」
山中へ


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ふたりたび 結

2017-10-28 21:57:25 | 封印の書 陸奥和泉
八百屋の前、しばしの間、
ぎゃーぎゃーと騒いだ二人は、
その後、鍛冶場に戻ってきた。


たまたま、表に出ていた、カナが出迎える。

「あ、姫さま!
和泉さんに会えたんですね」

カナの言葉に渋い顔をする姫巫女。

「会えたのは、つい先程じゃ。
こやつが、ふらふらとしとるものでの」

「仕事だ、仕事。
遊び人みたいにいうんじゃない」

肩にかけた、鍛治道具を下ろしながら、
和泉が反論してくる。

「あはは、それは、姫さま、大変でしたね。
ところで、ここにはどうして?」

「うむ。
和泉が何やら一緒に来いというものでな」


カナと二人、話しているところに、
和泉が声をかけてきた。

「おーい、こっちだ、こっち」

姫巫女は、カナに手を振り、
呼ばれた方へ歩いて行く。

すれ違う鍛冶屋たちとは、ほとんどが顔見知り。
挨拶を交わしながら、和泉の後をついていった。



通された場所は、鍛冶場の一角。
窯など設備はなく、武具生産の折に、
仕上げなどを行うところだ。


そこに座る和泉。
促され、姫巫女も側に座った。

「これを仕上げるからな。
ちょっと、そこで待っててくれ。

じや、始めるぞ?」

「うむ」


何回か、
鍛冶場にでの和泉の作業を見せてもらってきた。

その際、先の和泉の言葉、それを合図に
姫巫女からは話しかけない
暗黙の決まりとなっていた。

もちろん、和泉からも話しかけたりはしない。

作業に集中する時間。

その始まりの合図だった。


和泉は、そこに置いてある小箱を開ける。

中には白銀に光る短い刀身。

そして、
艶のある紅が美しい飾り柄、同じ紅の鞘。


和泉はそれらを手に取ると、
一つ、一つ、丁寧に調整しながら、
作業を進めていく。

姫巫女は、じっと黙って、それを見つめていた。



しばらくすると、和泉は

「…よし」

と、静かに刀身を鞘の中へ。
白い光が、紅の鞘のへと収められていく。



「…終わったのかや?」

和泉は頷くと、その紅い小刀を
姫巫女へと差し出した。


キョトンとする姫巫女。

「お前たち神職には、似合わないものだろうが、
何かの時に役に立つかもしれん。

将監の時もそうだったからな。

お守りがわりに持っておけよ」


艶やかに光を見せる、紅い小刀。


自分のために作ってくれたもの。

自分の身を案じて贈ってくれたもの。


姫巫女は、そっとそれを受け取ると、
ぎゅっと胸に抱く。

「…ありがとうなのじゃ。大切にするの」

と、ニッコリと微笑む。

それを見て、和泉も満足げに笑っていた。



次の日、日の出とともに、
春日山を出立することになった。

長い道中になるだろうが、
互いに思うのは、決して退屈な旅には
ならないだろうということ。


ふたりたび。


将監と桔梗が待つ尾張の国は那古野へ。

朝日を浴びながら、街道を歩いていく、
はずだった。





バーーーーーーーン!!!

壊れんばかりに、勢いよく門戸が開かれる。

ドカドカと乱暴な足音を立てて、屋敷の中に入ると、目的の場所、姫巫女の部屋へと向かう。

またもや、乱暴に襖が開け放たれる。

そこには、スヤスヤと眠る姫巫女の姿があった。



「何、寝てんだ!
夜明けに出立するって言っただろうが!」

和泉の怒声に、
ほえ?と、間の抜けた声を発して、
姫巫女が目を覚ます。

寝坊。完全な遅刻。

もうすでに、町は動き始める時間となっていた。


「ほら、さっさと起きて支度しろよ!
桔梗のところに行くんだろ?!」

「ぎゃあぎゃあ、うるさいの。
昨日、ワクワクして、
なかなか寝付けなかったのじゃ…はっ!

和泉!ここは、乙女の寝所じゃぞ?!
何を勝手に入り込んでおるのじゃ?!」

「ふざけんな、
大口あけて、よだれ垂らしながら
寝こけてる奴の、どこが乙女なんだよ?!」

「失礼なことを申すな!
よだれなんか、垂らしてないわ!」


ひとしきり、喧嘩した後に、
やっと出立したのは、昼も近くなった頃。

何はともあれ、
いつもの調子で、和泉と姫巫女のふたりたびは
始まるのだった。

〜結〜
次回「鎮魂の日々」
越中の兼生尼(けんせいに)


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ふたりたび 四

2017-10-28 16:02:34 | 封印の書 陸奥和泉
さて、少し時間は遡る。

陸奥和泉は、
姫巫女の侍女、桔梗と対話をしていた。


手には金槌、板に釘。
足元は、若干不安定な梯子。

道場の天井に空いた、大穴修理の真っ最中だ。


「しかし、
大変だったみたいだな。二人で走り回ったら、
すぐに帰ってくるかと思ってたけどよ」

器用に修繕作業を行いながら、
対話を続ける和泉。

「はい。
わたくしの油断から、
将監様にはご迷惑をおかけしてしまいました」

「無事だったんだから、いいじゃないか。
あとは、怪我をしっかりと治すんだな。

こっちのことは、気にしなくていいからよ」


話しながら、サッササッサと作業は進む。
天井の穴は、みるみる塞がっていった。


「それなのですが…
和泉様。一つお願いがございます」

「んん?なんだ?」


桔梗のお願い。
それは、以前の桔梗からは考えにくい、
意外な内容だった。


「姫様が、こちらに、那古野に来たがった場合、
その旅にご同行いただけませんでしょうか」

桔梗の言葉に、少し間を空けて和泉が答える。

「止めないのか?」

「はい。
わたくしの身を案じてくださる、
姫様の優しさ故の行動。

それは、ありがたくお受けしたいのと…あとは」

「あとは?」

「わたくしも色々ありました。
早く姫様にお会いしたいのです」


更に意外な言葉に、和泉は思わず笑ってしまう。
桔梗も向こうで、クスクスと笑っている様子。


「はははっ。わかった、任せな。

というかな、昨夜、将監から話を聞いて、
そういう事になるんじゃないかと、
ただ今、絶賛準備中だ。


予約の仕事片付けて、さっさと出立するつもりだったからよ」

「左様でございましたか。

それでは、和泉様。
那古野にてお待ちしております。

ありがとうございます」


対話を終えた和泉は、
さらに作業の手を速めていった。
板を打ちつけながら思う。

「なんか、桔梗の奴、変わったな。
与力試験ってすげえんだな。

って、あぶねえぞ、まだ入って来るなって!

今度、こんなふざけた理由で壊しやがったら
二度と直してやらないからな?!」





「…んと、んと」

八百屋の近くまで来た姫巫女。
周りをキョロキョロと伺いながら歩いていた。


「どこに行ったのじゃ?
あの、ふらふら和泉大入道は?」

ため息混じりの言葉に、
背後から怒気を含んだ声が聞こえてくるの。

「誰がふらふら和泉大入道だって?」

ビクッと、肩をすぼめる姫巫女の後ろには、
ふらふら和泉大入道が立っていた。


「おお、和泉!
そこにおったのか?」

とりあえず、笑ってみる姫巫女。
和泉は、ふう、と息を吐くと、姫巫女に尋ねる。

「まったく、こんなところで何してんだ?」

「ずっと探しておったのじゃ!
鍛冶屋にも、道場にも、寺院にも行ったのに、
全部入れ違いじゃ。

大変だったのじゃぞ?」


頬を膨らませて、姫巫女が言う。
それに、とぼけた顔で答える和泉。

「なんだ、俺を探してたのか?
って、寺院?」

「うむ。
美味しかったのじゃ♪」

美味し…?

色々思うことはあったが、
姫巫女の笑顔を見て、それをやめた。

こいつは、きっと、こいつなりのやり方で、
山を一つ越えたのだろう。


大した奴だな。


和泉は心から感心する。

それを促したのは、和泉自身だとは、
夢にも思わなかったわけだが。


「で?用件はなんだ?」

「う、うむ…あのな、和泉」

姫巫女は、両の手をもじもじと動かしながら
言い淀む。

決心して飛び出してきたが、いざとなると
言いにくい。

和泉はニヤニヤしながら、姫巫女の言葉を待つ。

ニヤニヤ?

「な、何をニヤついておるのじゃ?
こっちは、真剣なお願いをしようというに!」

「ほほう、お願いか。何だ?言ってみ?」

「そ、その…姫を
姫を那古野に連れてって欲しいのじゃ!」

「おう、いいぞ」


半分、涙ぐみながら姫巫女は続ける。

反対されるか、桔梗に止められるか、
どちらかと覚悟してやってきたのだ。

でも、折れるつもりはなかった。
意地でも、和泉を説得して那古野へ。


「お願いなのじゃ…
だって、桔梗が心配なのじゃ!

何か姫にも出来ることはないかと思うと、
居ても立っても居られな…へ?」


「だから、いいぞって言ってるだろ?」

呆れた顔の、いや
心底、面白がっている顔の和泉。

反対する和泉に、何と言ってお願いしようか、
そればかり考えて、悩んでいたというのに、

こんなにあっさり?



「…反対せんか!バカモンが!」

「どっちだよ?!バカ姫が?!」


何だかんだで、
二人、那古野へ行くこととなったのである。


〜続く〜
次回「ふたりたび 結」
鍛冶場に戻りて


☆この物語は架空のお伽話です。
作品の中で語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません
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