信おん御伽草子

信長の野望onlineの世界を題材のオリジナル小説を書いておりました。令和二年一月、ブログを閉鎖しました。

幕間 安土の生活 結 後編 「姫とお友達」

2018-04-29 10:12:32 | 姫巫女の書
《姫とお友達》

こんな人に出会ったよ。
あんな事、本当に起こるんだね。


そんな他愛もない話をしていると、

「あれ?真希さんに姫さん。
何やってんすか?こんなところで」

親しげに話しかけてくる武芸の男性が一人。


安土で、真希とともに親しくなった、
若きもののふである。

素晴らしい向上心の持ち主で、
様々なところに冒険に出かけては、
沢山の経験と情報を持ち帰って、
己の力としている。

わからない事や、初めていく場所の事を、
二人で相談させてもらったりしている。

とても優しく、頼もしい御仁である。



「おお、雷斧(らいふ)どのではないか。
久しぶりじゃの」

「今日はね、姫ちゃんとお店屋さんしてるの。
さあ、買っていってくれていいのよ?」

胸を張って言う真希に苦笑しながらも、
雷斧は一つ一つ品定めをしていく。


「どれどれ…あ、浴衣だ。
夏に向けて、新調しとこうかな…」

「今なら、変身薬もつけるよ」

「いや、それはいらないっす。
え、これは何すか?真希さん」


指をさした先には、
何やら黒い金属の塊が山になっている。
鉱石ではないようだが…

「あー…それね。
姉さんがね、知人の付き合いで冒険に出かけたら
そこで大量に拾ったんだって。

あんまり需要が無いのよね…

あの人、捨てるっていうことが苦手だから、
なんとか売ってきてくれって、
押し付けられたの」


真希がため息をつく中、
雷斧が問題のそれを手にとってみる。

「ああ、これは『型』か。
手裏剣に、マキビシまであるっすね」

「お?欲しくなってきちゃった?」

「いや、いらないっす」

ピシャリと断られた真希は、
渋い顔で雷斧を睨め付けた。


そんな視線を物ともせずに、

「姫さんの方は…あ、耳飾りっすか。
綺麗っすねぇ。でも、俺がつける訳にもいかないし…あ」

「ん?どうかしたのかや?」

「覇道の装備箱あるじゃないっすか」


耳飾りのついでに、
ある場所で拾った箱も販売していたのだ。

開けると、希望の武具を手に入れられる、
不思議な箱である。


「え?安っ!市の三分の一じゃないっすか、
いいんすか?こんな値段で」

「うむ。今日は損得抜きで楽しもうと思うてな。
欲しいなら、いくつでも持って行っていいぞ?」

「ちょっと待ってください。
知り合いで欲しがってる奴いたので、
呼んでくるっす!」


そこからが、賑やかなものだった。


雷斧の知人数人が訪れてからは、

「おお、いいじゃん!その浴衣。
粋だね、いなせだねぇ」

「え?!この団扇、付与までしてある!」

「…ちょっと、変身薬飲んだら、
なかなか戻らないんだけど…」


周りにも聞こえるくらいの楽しげな様子に、
ちらほらと通りがかりの人達も、
店へと近づいてきた。


この状況を作ってくれたのは、
他でもない、雷斧のおかげだと、
姫巫女と真希は心の中で礼をいう。


そんな中、姫巫女が、

「あの、すいません」

と、突然声をかけられた。


振り向くと、
忍び装束の女性がにこやかに立っている。


初めてのお客さんだ。


「あ、えっと…いらっしゃいなの…
いらっしゃいませ。
何かご入り用ですか?」

いきなり、初対面の方に普段の口調は驚かせてしまうだろうと、努めてお淑やかに振る舞う。

隣の真希が、笑いを噛み殺しているのが見えた。


「この耳飾り、四種類を一つずつ貰えますか?」

「はいっ。
染料は無料ですが、どれがいいですか?」

「んと…赤、青、緑、金でお願いします」

「ありがとうなのじゃじゃなくて、
ありがとうこざいます!」

慌てて言い直す姫巫女に、
彼女は怪訝そうにしながらも、

「こちらこそ、ありがとうこざいました」

と、笑顔で去って行った。


その後ろ姿を見送った後、

「真希、真希!
売れた!売れたのじゃ!」

ピョンピョンと飛び跳ねながら、
満面の笑みで彼女に報告する。

「うんうん。良かったねぇ」

「うん!」

真希に頭を撫でられながら、
姫巫女は満足気に頷いた。


そして、その時も訪れる。


「あのー、ちょっといいですか?」

今度も忍者のお客さん。
全身を黒で固めた男が、真希に声をかける。

「はいはい、何かいいものありました?」

「それを見せていただいても?」

男が指差したのは、例の『型』の山だ。

「え?」

思わぬ事に、思わず固まる真希。

「売り物ではないのでしょうか?」

「いえいえ!どうぞ見てってください!」

軽く会釈して、男は『型』を手にとる。
頭巾で目元しか見えないが、
とても真剣な眼差しだ。

真希と姫巫女が固唾を飲んで見守っていると、

「…素晴らしい!」

男が声を上げる。


え?


「私は各地の骨董などを集めてまわっているのですが、この艶、手触り、佇まい…完璧だ。
魂が震えるのを抑えきれません!」

なんてキラキラした目をするんだ…

真希たちは、若干引きながらも、
その輝きに感心していた。

「ああ、全ていただいていきたいが、
一人何個までよろしいのでしょうか?」

「いや、決めてないので、いくつでも…」

「本当ですか?!
ああ…貴女は女神様ですか?
こんな幸せが訪れるとは…感無量です!」


どこの作法か。
男は跪くと、真希の手を取り、こうべを垂れた。


数万貫のお金を置いていこうとする男を、
二人で慌てて説得して、数十貫にて販売する。

それでも、貰いすぎと感じる真希は、
実に複雑な表情だ。


そんな彼女に、
姫巫女が声をかける。

「世の中、いろんな方がいるものじゃの…」

「ほんとね…」

「…『型』だけに、の」

「姫ちゃん…それはないわぁ」

「…」



さて、

日も傾いてきて、そろそろ店じまい。

後片付けを進めていると、

「ごめんなさい、まだ良いですか?」

という声が。


そこにいたのは、
先ほど耳飾りを買ってくれた女性だ。

「はい。どうかしましたか?」

そう姫巫女が答えると、

「さっきつけてみたら、金色がとても綺麗だったので、あと三ついただけますか?」

「ええ、もちろん!」


なんて嬉しいことだろう。


自分が作ったもの、売っているものが、
誰かに喜ばれることが、
こんなに幸せなものなのか。



「真希、今日は楽しかったの!」

「うん、またやろうねっ」

「今度は男の人向けに、
ヒゲの商品を作ってみるのじゃ」

「ええ?そんなものがあるの?」

「うむ。調べてみたのじゃがの…?」


帰り道。

二人は次回の企画を話しながら、
テクテク仲良く並んで歩く。


以前、共に世界を駆け回った仲間たち。
今は離れた場所にいる彼らを思うと、
寂しい気持ちになる。

それは当然のことだ。

だが、その心を温かく包んでくれる、
支えてくれる存在がいる。

今まで出会った人たち。
今ともに過ごす人たち。
今から出会うであろう人たち。

すべてが愛おしくて仕方がない。


そんな思いを胸に、
姫巫女は笑顔で今を生きる。

だから…

「これからも、仲良くしてたぁもれ♪」

ニッコリと笑って友の手を握る。

素敵な想いが伝わるように。
かけがえのない絆が続いていくようにと。


〜結〜

日本の各地に伝わる『羽衣伝説』

空から舞い降りた天女と、
その美しさに心を奪われた人間との物語。

その発端を、その経緯を、
その結末を知る時、
人の心には、どんな想いが生まれるのだろうか…

舞台は、ここ『近江』

今こそ語ろう。
天と地の狭間に揺れる物語を。


次回「近江天女伝説」
尋ね人


…さあ、貴方の胸には、どのような『想い』が?



☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません。

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幕間 安土の生活 結 前編「姫と耳飾り」

2018-04-29 00:47:08 | 姫巫女の書
《姫と耳飾り》

とある、小さな屋敷にて。


いざ生産を始めた姫巫女であったが、
さっそく、新米であるが故の、
壁に行き当たる。

髪飾り各種を作るために必要な、
『銀製飾り玉』を作ろうとするが、
なかなかうまくいかない。

一生懸命頑張ってみたが、
おそらく熟練者が生産した場合に比べ、
半分以下の数しか作れなかった。


「これは、あ奴に怒られてしまうの」

ようやく目標の数を作り終えて、
姫巫女は独り言を言う。

それとも、笑われてしまうだろうか?

どちらにせよ、
何か言ってもらえるのならば…

そう思い溜め息をついた。


そう。

越後で出会い、ずっと側にいた鍛冶屋、
陸奥和泉は、訳あって今はいない。

いつか、きっと、また会える、はず…

それまで、姫巫女はこの安土で彼を待ち続ける。

和泉から姫巫女の世話を頼まれたという、
真宮寺八雲。

彼の城下町に居候しながら。



「さてと、次はいよいよ耳飾り!」

暗くなりそうな気持ちを振り払うかのように、
姫巫女は張り切って作業へ向かう。

予定では、何種類かの耳飾り、
そして、染料を作るつもりだ。

必要な材料は、市司を利用して、
すでに揃っている。


まったく、便利なものだ。
どんな妖術か、一瞬で売り子のいる屋敷へと
飛ばしてもらえる。

昔のように、特別な狩りを行ったり、
特定の町まで買い付けに行く必要がないのは、
始めたての姫巫女にはありがたかった。


何より…

「おお、変な像が沢山おいてある!!」

「あ、ワンコじゃ♪おいで、おいで〜」

「???この箱型のカラクリは何かの?
変な筒が並んでおるが…」

「はぁはぁ、やっと売り子さん見つけたのじゃ。
まさか、庭で迷子になるとは…の」

などなど。
その屋敷ごとの楽しい仕掛け、演出、装飾に触れ
とても愉快な時間を過ごしたのだった。




そして、初めての生産品が完成した。

キラキラと輝く石を、手のひらに乗せて眺める。


真希にもらった耳飾りと同じ『涙玉耳飾り』。

なんとも言えない達成感、喜びが、
心の中にふわっと湧いてきた。

これは…楽しい!

和泉や皆が、夢中になって生産に打ち込む理由が
少しだけわかったた気がする。


すっかり生産に夢中になった姫巫女は、
その日、夜遅くまでかかって、
目標の数を作り終える。

気がついた時には、
沢山の耳飾りに囲まれて、
手に工作道具を握ったまま寝こけていた。

寝落ち、というやつだ。

ハッと目を覚まして、周りを見回す自分が滑稽で思わず一人で笑ってしまった。




そして、当日。

姫巫女と真希は、
どちらも浴衣を着て、道場の前で待ち合わせ。

遅れて来た姫巫女を、
真希は手を振って迎えてくれた。

挨拶の後、

「真希、浴衣とっても似合っておるの。
さすがは姉妹が仕立てたものじゃ」

普段の頼もしい武者姿とは違う彼女の姿。
その魅力的な姿を褒めると、
真希は頬を赤く染めながら礼を言う。

「ありがと!姫ちゃんも似合ってるよ」

「うん、ありがとなのじゃ♪」

「よーし、じゃあ今日はお店屋さん楽しもう!」

「おー!」


二人は少し相談した後に、
通行の邪魔にならぬよう気をつけて、
もののふ道場側に茣蓙を広げる。

浴衣姿の女子二人が、
こんな所に並んで店を出すなど、
普段あるものではない。

何が始まるんだ?

通りかかる人たちの視線がこそばゆい。


用意した綺麗な布の上に、
耳飾りを並べていく姫巫女。

その隣の真希は、浴衣に団扇、
その他にも、姫巫女が見たこともないような、
薬などが品揃えされている。

眺めているだけでも、楽しそうだ。


「真希、真希。
この薬は?傷薬か何かかや?」

並べられた瓶の一つをつまんで、
姫巫女が尋ねた。

「あ、それね、変身薬だって」

「へぇ…すごいの。
何に変身できるのじゃ?」

「なってみてのお楽しみ♪
使ってみる?」

「…いや、やめとこ。
なんか、真希の笑みが怪しいのじゃ」

「ああん、そんなことないって!
ね、ね、一回だけ」

「いーやーじゃっ」

そんなことを楽しそうに話しながら、
ずっと二人で笑い合って過ごす。

店番そこそこに、
そんな事をしながら、のんびりと。

これもまた、露店の醍醐味の一つである。

〜続く〜
次回「幕間 安土の生活 結 後編」
姫とお友達

データ消去という間抜けな事をしちゃいました…
予定外ですが、前後編にてお送りいたします。


☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません。

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幕間 安土の生活 四 「姫と浴衣」

2018-04-26 12:48:50 | 姫巫女の書
《姫と浴衣》
 
稼業商。
 
安土においては、
もののふ道場内に窓口がある。
 
生産、採集に必要な技術を
教えてくれるところだ。
 
実は、それらを行う為には、
ここで発行される『御免状』が必要で、
一度に二種類の稼業しか発行されない。
 
違う稼業を行うには、どちらかを返納して
新しいものを受け取る必要がある。
 
手数料も発生するため、あまり気軽に
取っ替え引っ替えするわけにもいかないのだ。
 
生産、採集も修行のうち。
 
それを考えると、
ある意味、納得の決め事ともとれる。
 
 
さて、早速稼業を決めようと、
やってきた姫巫女と真希であったが…
 
その稼業商を前に、真希が顔を曇らせる。
 
 
「どうしたのじゃ?真希。そんな顔して…」
 
「姉さまから、呼び出しの対話がきた」
 
 
真希には姉妹が何人かいて、
そのうちの一人、
長姉の巫女から呼び出されたというのだ。
 
 
「両替商にいるから、品物を取りに来いって。
なんか急いでいるみたいでさ」
 
「ん?行ってくればよかろ?
姫は一人でも大丈夫じゃよ?」
 
 
首を傾げて話す姫巫女に、
相変わらずの表情で真希が言う。
 
 
「今いる稼業商の男、
女の冒険者を見る目がいやらしいんだよね。
男相手だと、露骨に素っ気ないしさ」
 
 
それを聞いて、問題の稼業商を見るが、
温厚そうな、いたって普通にしか見えない。
 
 
「…大丈夫じゃよ?
真希は姉上のところへ行ってたも。
待たせるのも失礼じゃし」
 
「んー…じゃあ行ってくる。すぐに戻るから!」
 
 
そう言って駆け出した真希を、
姫巫女は小さく手を振り見送った。
 
 
 
二人ほど対応した後、
稼業商の前に誰もいなくなる。
 
それを見計らって、
姫巫女は稼業商へと声をかけた。
 
 
「こんにちは、なのじゃ」
 
「はいはい、こんにちは」
 
 
稼業商はニッコリと笑って挨拶をした。
 
 
なんだ、普通、じゃの。
真希の気にしすぎではなかろうか?
 
 
姫巫女はホッとしながら、用件を伝える。
 
 
「実は、新しく生産をしたくての。
こちらで教えてくれると聞いてきたのじゃ」
 
「…というと、稼業につくのは初めてで?」
 
「お恥ずかしい話じゃが、その通りじゃ」
 
 
そう言って肩をすくめる姫巫女に、
彼は微笑んで答える。
 
 
「いやいや、誰でも初めての時はあるものです。
それで、生産したいものは何ですか?」
 
「耳飾りを作りたいのじゃ」
 
「耳飾り…とすると、
『数奇者』と『採掘師』の稼業がよろしいかと」
 
 
『数奇者』という名称は初めてだったが、
『採掘師』の『採掘』は、
馴染みの言葉だ。
 
その技術を、身につけられることに、
姫巫女は、少し胸がときめいていた。
 
 
少し?
いいや、少しではなかろ。
 
 
そんな事を考えていると、
稼業商は少し離れた場所から、
一つの箱を持ってきた。
 
 
「そうですか…初めて…
こちらが、稼業に使う道具なのですがね。
使ったことは?」
 
もちろん、あるわけがない。
 
ノミか何か、棒状の刃物を見せられて、
姫巫女は首を振って見せた。
 
 
「そうですよね。
これは、こうやって持つもので…」
 
そう言いながら、稼業商は姫巫女の手を取り、
持ち方?を指南?する。
 
 
道具に目がいって、
姫巫女には見えていないが、
先ほどより、稼業商の顔は緩み、
鼻の下が伸びているような。
 
???
 
何やらぞわりとした感覚が、
姫巫女の背中を襲った。
 
 
そして、
稼業商が両の手で、彼女の手を包み込んで、
さわ…と軽くさすった瞬間…
 
 
ゴズッ!!
 
 
と、すごい音がした。
 
「うごっ…?!」
 
稼業商が頭を抑えてしゃがみ込む。
 
「な、なんじゃ?」
 
ビクッと身体を縮ませて、後退り姫巫女の前で、
稼業商が喚きながら立ち上がる。
 
「…ぐぅ〜、痛いなぁ!!
誰だ?!人の頭を殴っ…た、のは…」
 
 
勢いが良かったのは最初だけで、
だんだんと尻すぼみになっていく怒鳴り声。
 
その表情もだんだんと引きつったものとなる。
 
 
その理由となっているのは、
彼の目の前に立つ一人の女性。
 
「殴ったのは私だけど、何か?」
 
稼業商を睨みつけて仁王立ちしているのは、
道場娘のまりであった。
 
 
「ま、まり様?」
 
「ああ、そうだね。私だよ。
何で殴られたかわかるだろ?」
 
「え?いや、いや、わ、私には身に覚えが…?」
 
 
目を逸らして、しどろもどろの稼業商に、
まりが勢いよく詰め寄って言う。
 
 
「前にも注意したね?
 
目つきがいやらしい。
無駄に近づいてくる。
匂いを嗅がれた。
胸を覗き込まれた。
手を握られた。
その他諸々。
 
次やったら、ぶん殴るって言ったね?」
 
 
どうしてそんな男を雇っているのか?
という素朴な疑問が湧いてくるが、
聞くところによると、
その他の仕事は、抜群にできるらしい。
 
この男の場合、極端ではあるが、
人間、誰しも長所短所があるようだ。
 
 
「いや、それは…」
 
「まだ殴り足りないからね。ちょっと奥に来な。
 
あ、姫巫女。
代わりの者が来るまで、少し待ってな」
 
 
「あ、はい」
 
そう反射的に返事をするのが、
精一杯だった。
 
 
「えっ、まり様?も、もうしませんから!」
 
「うるさい、問答無用、さっさと来い」
 
 
まりは稼業商の襟首を掴むと、
そのまま、ズルズルと引きずっていく。
バーン!
と、戸を開け放って、
彼を奥の間へ乱暴に投げ込んだ。
 
「すいません!すいません!!
勘弁してくださ…」
 
そんな悲鳴を残して、
戸はピシャリと閉められる。
 
 
少しの間…
取り残され、呆然としている姫巫女の耳に、
 
ぎゃあああぁぁっ!!
 
という声が微かに聞こえたのだった。
 
 
 
「えっと…姫ちゃんは…あ、いたいた」
 
何やら荷物を抱えて、真希が道場へ戻ってきた。
 
ちょうどその時、
姫巫女もまた、稼業商から各種説明を終えて、
手を振って別れたところである。
 
珍しい女性の稼業商に、
にこやかに見送られている。
 
真希に気がつくと、
姫巫女はニコニコしながら、
こちらへと駆け寄ってきた。
 
 
「真希っ、おかえりなのじゃ。
姉上とは会えたかの?」
 
「あ、うん。
ね、姫ちゃん?あの女の人は?」
 
 
チラッと女性稼業商を見ながら、真希が尋ねる。
 
 
「稼業商の方じゃよ。
とても親切に教えてくれたのじゃ。
生産するのが、楽しみじゃの♪」
 
「へぇ…まあ、いいか」
 
 
さっきの、あの男は?
と、聞こうとしてやめる。
 
姫巫女は上機嫌だし、
用件も無事に終わったようだし…
 
 
 
「ところで、
真希の姉上はどんな用事だったのじゃ?
こちらへ来ても大丈夫だったのかや?」
 
複雑な表情を浮かべていた真希の顔を、
覗き込むようにして、姫巫女が聞く。
 
 
何か急用でもできたかと心配してのことである。
 
 
「あ、そうだった。
姫ちゃんと私がお店開くこと聞いてさ。
姉さまが、これを作ってくれたんだ」
 
そう言って、姫巫女に風呂敷包みを渡す。
 
可愛らしい桜色の包みを、
姫巫女は不思議そうにして受け取った。
 
「姫に?」
 
「うん。開けてみて」
 
微笑みながらの真希の言葉に従って、
中身を見てみると、
 
「…わぁ、これ、浴衣?」
 
濃紺の生地に、色とりどりの模様が描かれた、
きれいな浴衣が入っていた。
 
 
「うんっ、これ着てお店やると可愛いよって。
実は私ももらったの」
 
真希は赤い包みを掲げてみせた。
 
 
「嬉しい…お礼を言わねばの。
真希。今度、姉上と会わせてたも?」
 
「うん。姉さまも会いたがっていたからね。
連絡しておくよ」
 
「うん!ところで…」
 
姫巫女は、
ずっと気になっていたことを聞いてみる?
 
 
「その背中の荷物はどうしたのかの?」
 
 
戻ってきた真希は、
後ろに大荷物を背負ってきた。
 
姫巫女ならば、潰されてしまいそうなほどだ。
 
 
「これ、ね。
倉庫に眠っていた、あれやこれや…
お店やるなら、これも売っぱらってくれって」
 
へぇ、と荷物を見上げる姫巫女。
 
「体良く、倉庫整理に使われてしまったわ…
まったく、姉さまには敵わないわよ。
こないだ、お小遣いねだったから、
断るわけにもいかなくってさ」
 
 
渋い顔をしながら、荷物を背負い直す彼女を見て
姫巫女はクスクスと笑った。
 
 
「ふふ、楽しい姉上じゃな」
 
「浴衣も何着か商品として預かってきたの。
 
でも、まあ、私も他に売りたいものあるし、
これは、なかなかの品揃えになりそうね」
 
「そうじゃの。楽しみじゃ!」
 
 
二人、日時の相談をしながら、
もののふ道場を後にする。
 
さて、念願のお店屋さんまで、
あと少しだ。
 
 
〜続く〜
次回「幕間 安土の生活 結」
姫と耳飾り
 
 
この物語は、架空のお伽話です。
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幕間 安土の生活 参 「姫と生産」

2018-04-24 08:58:18 | 姫巫女の書
《姫と生産》

「何か作るか、探してくるか、
それとも、ぶんどってくるかしてさ。

あそこらへんで座ってみようよ」


少々、物騒な言葉が出てきたが、
気づかないふりをしておこう。


そう言って、真希が指差したのは、
道場の門からほど近い場所。

人通りも多い。

店を開いたら、きっと目を引くに違いない。


「それは、楽しそうじゃのっ!」

「うんうんっ♪」

「ああ、でも、姫、何も作ったことないのじゃ…
どうするかの?」

そう言って、顔を曇らせる姫巫女に、
真希は笑って答えた。

「それなら、良い機会じゃない?
何か作ってみたいものに挑戦してみようよ。

今は道具がいいから、
大抵のものは作れちゃうしね」


真希の言う通り、今の世の中、
材料さえ揃えば、あらゆるものが生産可能である。

生産自体、経験のない者でも、
道場などにいる『稼業商』に声をかけて、
希望の『稼業』を選択し、
その基本的な技術を学べるのだ。

そうした後、
各々自由に生産を行うことができる。



極端な話、現在は最初の作品から、
立派な甲冑や太刀などの生産も出来てしまう。

もちろん、作った物の数の増減、
性能の違いなど、熟練した者が作るのと比べれば
とても大きな違いが出てくるのだが。

また、身の丈にあった物から、
コツコツと作り上げていく方が、
技術の向上も円滑に進むようだ。



姫巫女は、ある人物を思い出す。

越後の町で、小刀や大鎧の注文を沢山受けて、
自分の修行としていた鍛冶屋のことを。

あの男が、今の状況を聞いたら、
何と言うだろうか?

そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間、
心にこんな言葉が響いてくる。


『ああ、門戸が広いのはいいことじゃねぇか。
そこから、どう腕を磨くかは
自分次第ってことだろう?

作りたいものを作りゃいいのさ』


「ふふ、その通りじゃ…の」

「ん?何か言った?姫ちゃん」

微笑みと一緒に溢れた姫巫女の独り言に、
真希がそう聞いてきた。

何でもない、
笑いながら誤魔化して、
姫巫女は考える。


姫の作りたいもの…なんじゃろか?


先に述べたように、
材料さえ揃えることができれば、
何でも作ることが出来るだろう。

だが、半端な価値、性能のものを作っても、
買い手がつくのは難しい。

それに、売れるか売れないか、
そんなことよりも、
『喜んでもらえるもの』を作りたいから…

その時、また心地よい風が、
姫巫女の側を吹き抜ける。
柔らかく舞う髪を抑えた手に、
『あるもの』が触れた。


「あ…」



それは、数日前のこと。

「姫ちゃん、姫ちゃん!」

鳥獣商の側で、まるまるの世話をしていると、
ニコニコ笑顔の真希が声をかけてきた。

「おお、真希。
何かあったのかや?」

「うふふ、ちょっとこっちに来て」

そう言って、姫巫女の手をとると、
ぐいぐいと何処かへと引っ張っていく。


いくつか路地を曲がり、ある敷地の中へ。

十字が飾られた背の高い建物。
綺麗な花に囲まれている、水を吹き出す池。

この安土にこんな場所があったことを、
姫巫女は今まで知らなかった。

珍しい服を着た南蛮人が、
姫巫女たちに微笑みと会釈をくれる。


「連れてきました!
よろしくお願いしまーす」

周りの景色に気を取られ、
真希の声が聞こえるまで、
目の前の人物に気がつくのが遅れた。


木の下に佇んでいたのは、
美しい装飾が施された衣服に身を包む
傾奇者の女性。


魅力的な笑みを浮かべて、
姫巫女に挨拶をする。

「やあ、いらっしゃい」

「こ、こんにちは」

お行儀良くお辞儀をする姫巫女の両肩に
ポンと真希の手が置かれて、

「じゃあ、姫ちゃん。
お目々を閉じよっか」

「え、え?何を?」

「まあまあ、いいから、いいから」


こんな雰囲気の真希には、
何を言っても無駄だ。

姫巫女は恐る恐る瞳を閉じる。

胸の前で、手をぎゅうっと握る姫巫女に、
カラカラと笑う声が聞こえた。


「そんな緊張しなさんな。
痛くはしないからさ」


い、痛く?!

会話の中、変なところにだけ意識が集中して、
より身が硬くなる。


「あらま、まあいいや。
ちょっと動かないでねーっと…」

「?…ん」

突然耳元を触られて、
姫巫女は思わず肩をすくめた。

「おっとゴメンね。もう少しよ、我慢我慢」

きっと慣れているのだろう。

女性はそういいながら、耳元の作業を続ける。


そして数分後、

「はい、出来上がり」

と、声が聞こえた。


「姫ちゃん、目を開けていいよ」

真希に言われて、そうっと目を開ける。

すぐ前に綺麗な鏡が出されて、
キョトンとした表情の自分の顔、
そして、耳元で輝く光が見えた。

雫の形をした青い石が揺れている。

「真希、これ…」

後ろに立っている彼女に、
姫巫女が鏡越しに聞くと、

「こないだ、
私の耳飾りを見て褒めてくれたでしょ?
だから、姫ちゃんにも、と思って。
私からの贈り物!」


先日、真希の耳飾りを見て、綺麗だと話した。

ありがとう、と礼を言った真希は、
姫巫女のそれから、ある想いを感じたのだ。

羨望の想いを。


その通りなのだ。

だって…こんなにも…

鏡を見つめて、胸に広がる幸せな気持ち。
熱くなる瞳。

何よりも、彼女の気持ちが嬉しくて仕方がない。


姫巫女は振り向くと、真希に抱きつき、
その胸に顔を埋める。

「おおっとぉ…あれ、姫ちゃん?」

「…りが、とう」

「ん?」

「真希、大好きなのじゃ!」

涙目、満面の笑みの姫巫女が顔を上げて言う。

真希は頷いて、彼女の頭を撫でた。



そして、


「真希。姫、耳飾りを作りたい」

そう言う姫巫女に、
真希は手をポンと叩いて同意する。

「いいね!
じゃあ、早速道場に行ってみよっか?」

「うん!」


二人、目を合わせて、うなずきあう。

並んで歩き出した二人の耳に、
キラキラと綺麗な光が揺れていた。


〜続く〜
次回「幕間 安土の生活 四」
姫と浴衣


☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません。

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幕間 安土の生活 弐「姫と友達」

2018-04-21 23:15:43 | 姫巫女の書
《姫と友達》

夢の内容は覚えていない。

でも。
多分。

悲しい気持ちを抱かせる内容だったのだろう。


「姫ちゃん、姫ちゃん」

肩を揺すられて、目を覚ます。

「う、ん?」

うっすらと瞳をひらくと、
目の前には心配そうな友人の顔。

この安土に来て知り合った、武芸者の娘である。

その流麗な技と優しさで、
いつも、姫巫女を支えてくれていた。


「…姫ちゃん、大丈夫?」

「ん…真希か。大丈夫って?姫は何も…」

「だって…」

彼女の指が姫巫女の瞳に溜まった涙を、
優しく拭った。

「え?あれ?なんで…?」

「通りかかったら、
ポロポロ泣きながら眠ってるんだもん。
びっくりしちゃった」

「な、なんでじゃろ?」

「…ははーん、怖い夢でも見てたの?」

からかうように言った真希に、
姫巫女はむきになって否定する。

「え?!ちがうっ!姫は子供じゃないのじゃ!」

「あー、はいはい。
姫ちゃんは怖かったんだね、ヨシヨシ…」

「違うって、わ、ぷっ…」


無理矢理抱きしめ、顔を胸に埋められる。

赤ん坊のように、頭も撫でられて、
逃れようと抵抗してみるが、
流石に巫女と侍では、敵うはずもなく、
やがて不本意ながら、されるがまま諦めた。


「もぅ…ところで、随分帰りが早いの?
今日は秀吉殿のところに、
綿だか何かの戦利品を取りに行くって
そう言っておったではないか」

その姫巫女の言葉に、
頭を撫でていた手がピタリと止まった。


???


「真希?」

「あのね、頑張って戦ってきてね、
全部倒してきたんだけどね」

「う、うん…」

「一個も出なかったの」

「あぁ…」


この世の中、様々な依頼があり、
達成に応じて褒賞が出るのだが、
それらが必ず手に入るとは限らない。

色々な理由があるが、
簡単に説明するならば、

「それは…運が悪かったの」

ということである。



真希の肩がプルプルと震えている。

「先週も、先々週も出なくって、
今週こそはと思っていたのに…」


泣いている?いや、彼女の場合は少々違った。


「ま、真希?ちょっと落ち着い…ふうっ?!」

姫巫女を抱く腕の力が、
だんだんと強くなっていく。

肺の中の空気が、
強制的に押し出されるかのようだ。

「ま、き…く、るし…」

「もう…なんで?
何回も何回もやってるのにぃ!」

「…ふわ、は…」


気持ちはよくわかる。
多分、みんなよくわかるはず。

物欲を察知されると、
確率の低い褒賞は、すっかりなりを潜める。

そんな噂が囁かれるくらいだ。


「ねぇ、姫ちゃん!
なんで出ないと思う?!
今日だってさ…あれ?」

真希はパッと姫巫女の身体を解放すると、
その両肩を掴んで顔を覗き込む。

意識を失いかけている姫巫女の頭が
コテンと倒れた。

「ちょ?!姫ちゃん?姫ちゃーん?!」

慌てて叫ぶ真希の声。


覚醒するまでに、数分の時と、
通りがかりの薬師の手助けが必要となったのである。



「きれいなお花畑が見えたのじゃ」

気付の薬湯を手に、姫巫女が ふうっと息をつく。

恩人の薬師は、この薬湯を姫巫女に渡すと
素敵な笑顔とともに去って行った。

誠にありがたい話だ。


「ご、ごめんなさいってば。
つい力が入っちゃって…」

「勘弁してたも?
真希はこないだ、腕力付与の装備を作ったばかりであろ…お腹と背中が、くっつくかと思ったわ」

ジト目で話す姫巫女の言葉を、
真希は、あははと笑い誤魔化した。


「それにしても、
そんなに手に入りにくいものなのじゃな?」

「そうなのよ…冒険者の間で取引もされてるけど結構高くて。金策もしないと、ね」

「そうか…」


冒険者の間の取引。

この時代の主流は『売り子』と呼ばれる人たちを雇って、それぞれの屋敷で行うものだ。

特殊な力を持った『市司』により、
一瞬で屋敷と町を行き来出来る。

本当に便利な世の中になったものである。


「…お店屋さん」

「ん?」

「お店屋さん、すっかり見なくなったの」

「ああ…露店のことかな?
そうだね。
お祭りの時に市が開かれたりするけど、
普段はすっかり見なくなったね」


便利になった。

生産したもの。
採取したもの。
獲得したもの。

そういったものを売りたい時、
人びとは両替商の前に並んで茣蓙を敷いた。

思い思いの品を並べて、
道行く人に声をかける。

諦めと、やけっぱちの入り混じった、
投げ売りの大声なんかも響き渡り、
何を買うでなくとも、
活気あるその場所に訪れたりしたものだ。

もちろん、その間は取引のために、
その場にいなくてはならない。

早く売れてくれないかと、
やきもきすることもしばしばだろう。

無駄な時間、と割り切った答えも、
間違ってはいない。


でも、それでも、
そこには、それ以外の楽しい何かも、
確かに存在していたはず。

そう思えてならない。


今はすっきりとしたその場所を見つめる姫巫女。
少し、少しだけ寂しさの入り混じった瞳で。


真希はそれをチラリと見やると、

「…久しぶりにやってみよっか?」

「え?」

「お店屋さんっ!」


そう言って、ニッコリと笑った。

〜続く〜
次回「幕間 安土の生活 参」
姫と生産


☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
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