《姫とお友達》
こんな人に出会ったよ。
あんな事、本当に起こるんだね。
そんな他愛もない話をしていると、
「あれ?真希さんに姫さん。
何やってんすか?こんなところで」
親しげに話しかけてくる武芸の男性が一人。
安土で、真希とともに親しくなった、
若きもののふである。
素晴らしい向上心の持ち主で、
様々なところに冒険に出かけては、
沢山の経験と情報を持ち帰って、
己の力としている。
わからない事や、初めていく場所の事を、
二人で相談させてもらったりしている。
とても優しく、頼もしい御仁である。
「おお、雷斧(らいふ)どのではないか。
久しぶりじゃの」
「今日はね、姫ちゃんとお店屋さんしてるの。
さあ、買っていってくれていいのよ?」
胸を張って言う真希に苦笑しながらも、
雷斧は一つ一つ品定めをしていく。
「どれどれ…あ、浴衣だ。
夏に向けて、新調しとこうかな…」
「今なら、変身薬もつけるよ」
「いや、それはいらないっす。
え、これは何すか?真希さん」
指をさした先には、
何やら黒い金属の塊が山になっている。
鉱石ではないようだが…
「あー…それね。
姉さんがね、知人の付き合いで冒険に出かけたら
そこで大量に拾ったんだって。
あんまり需要が無いのよね…
あの人、捨てるっていうことが苦手だから、
なんとか売ってきてくれって、
押し付けられたの」
真希がため息をつく中、
雷斧が問題のそれを手にとってみる。
「ああ、これは『型』か。
手裏剣に、マキビシまであるっすね」
「お?欲しくなってきちゃった?」
「いや、いらないっす」
ピシャリと断られた真希は、
渋い顔で雷斧を睨め付けた。
そんな視線を物ともせずに、
「姫さんの方は…あ、耳飾りっすか。
綺麗っすねぇ。でも、俺がつける訳にもいかないし…あ」
「ん?どうかしたのかや?」
「覇道の装備箱あるじゃないっすか」
耳飾りのついでに、
ある場所で拾った箱も販売していたのだ。
開けると、希望の武具を手に入れられる、
不思議な箱である。
「え?安っ!市の三分の一じゃないっすか、
いいんすか?こんな値段で」
「うむ。今日は損得抜きで楽しもうと思うてな。
欲しいなら、いくつでも持って行っていいぞ?」
「ちょっと待ってください。
知り合いで欲しがってる奴いたので、
呼んでくるっす!」
そこからが、賑やかなものだった。
雷斧の知人数人が訪れてからは、
「おお、いいじゃん!その浴衣。
粋だね、いなせだねぇ」
「え?!この団扇、付与までしてある!」
「…ちょっと、変身薬飲んだら、
なかなか戻らないんだけど…」
周りにも聞こえるくらいの楽しげな様子に、
ちらほらと通りがかりの人達も、
店へと近づいてきた。
この状況を作ってくれたのは、
他でもない、雷斧のおかげだと、
姫巫女と真希は心の中で礼をいう。
そんな中、姫巫女が、
「あの、すいません」
と、突然声をかけられた。
振り向くと、
忍び装束の女性がにこやかに立っている。
初めてのお客さんだ。
「あ、えっと…いらっしゃいなの…
いらっしゃいませ。
何かご入り用ですか?」
いきなり、初対面の方に普段の口調は驚かせてしまうだろうと、努めてお淑やかに振る舞う。
隣の真希が、笑いを噛み殺しているのが見えた。
「この耳飾り、四種類を一つずつ貰えますか?」
「はいっ。
染料は無料ですが、どれがいいですか?」
「んと…赤、青、緑、金でお願いします」
「ありがとうなのじゃじゃなくて、
ありがとうこざいます!」
慌てて言い直す姫巫女に、
彼女は怪訝そうにしながらも、
「こちらこそ、ありがとうこざいました」
と、笑顔で去って行った。
その後ろ姿を見送った後、
「真希、真希!
売れた!売れたのじゃ!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら、
満面の笑みで彼女に報告する。
「うんうん。良かったねぇ」
「うん!」
真希に頭を撫でられながら、
姫巫女は満足気に頷いた。
そして、その時も訪れる。
「あのー、ちょっといいですか?」
今度も忍者のお客さん。
全身を黒で固めた男が、真希に声をかける。
「はいはい、何かいいものありました?」
「それを見せていただいても?」
男が指差したのは、例の『型』の山だ。
「え?」
思わぬ事に、思わず固まる真希。
「売り物ではないのでしょうか?」
「いえいえ!どうぞ見てってください!」
軽く会釈して、男は『型』を手にとる。
頭巾で目元しか見えないが、
とても真剣な眼差しだ。
真希と姫巫女が固唾を飲んで見守っていると、
「…素晴らしい!」
男が声を上げる。
え?
「私は各地の骨董などを集めてまわっているのですが、この艶、手触り、佇まい…完璧だ。
魂が震えるのを抑えきれません!」
なんてキラキラした目をするんだ…
真希たちは、若干引きながらも、
その輝きに感心していた。
「ああ、全ていただいていきたいが、
一人何個までよろしいのでしょうか?」
「いや、決めてないので、いくつでも…」
「本当ですか?!
ああ…貴女は女神様ですか?
こんな幸せが訪れるとは…感無量です!」
どこの作法か。
男は跪くと、真希の手を取り、こうべを垂れた。
数万貫のお金を置いていこうとする男を、
二人で慌てて説得して、数十貫にて販売する。
それでも、貰いすぎと感じる真希は、
実に複雑な表情だ。
そんな彼女に、
姫巫女が声をかける。
「世の中、いろんな方がいるものじゃの…」
「ほんとね…」
「…『型』だけに、の」
「姫ちゃん…それはないわぁ」
「…」
さて、
日も傾いてきて、そろそろ店じまい。
後片付けを進めていると、
「ごめんなさい、まだ良いですか?」
という声が。
そこにいたのは、
先ほど耳飾りを買ってくれた女性だ。
「はい。どうかしましたか?」
そう姫巫女が答えると、
「さっきつけてみたら、金色がとても綺麗だったので、あと三ついただけますか?」
「ええ、もちろん!」
なんて嬉しいことだろう。
自分が作ったもの、売っているものが、
誰かに喜ばれることが、
こんなに幸せなものなのか。
「真希、今日は楽しかったの!」
「うん、またやろうねっ」
「今度は男の人向けに、
ヒゲの商品を作ってみるのじゃ」
「ええ?そんなものがあるの?」
「うむ。調べてみたのじゃがの…?」
帰り道。
二人は次回の企画を話しながら、
テクテク仲良く並んで歩く。
以前、共に世界を駆け回った仲間たち。
今は離れた場所にいる彼らを思うと、
寂しい気持ちになる。
それは当然のことだ。
だが、その心を温かく包んでくれる、
支えてくれる存在がいる。
今まで出会った人たち。
今ともに過ごす人たち。
今から出会うであろう人たち。
すべてが愛おしくて仕方がない。
そんな思いを胸に、
姫巫女は笑顔で今を生きる。
だから…
「これからも、仲良くしてたぁもれ♪」
ニッコリと笑って友の手を握る。
素敵な想いが伝わるように。
かけがえのない絆が続いていくようにと。
〜結〜
日本の各地に伝わる『羽衣伝説』
空から舞い降りた天女と、
その美しさに心を奪われた人間との物語。
その発端を、その経緯を、
その結末を知る時、
人の心には、どんな想いが生まれるのだろうか…
舞台は、ここ『近江』
今こそ語ろう。
天と地の狭間に揺れる物語を。
次回「近江天女伝説」
尋ね人
…さあ、貴方の胸には、どのような『想い』が?
☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません。
☆信on記事のランキング
よろしくおねがいします!
にほんブログ村
こんな人に出会ったよ。
あんな事、本当に起こるんだね。
そんな他愛もない話をしていると、
「あれ?真希さんに姫さん。
何やってんすか?こんなところで」
親しげに話しかけてくる武芸の男性が一人。
安土で、真希とともに親しくなった、
若きもののふである。
素晴らしい向上心の持ち主で、
様々なところに冒険に出かけては、
沢山の経験と情報を持ち帰って、
己の力としている。
わからない事や、初めていく場所の事を、
二人で相談させてもらったりしている。
とても優しく、頼もしい御仁である。
「おお、雷斧(らいふ)どのではないか。
久しぶりじゃの」
「今日はね、姫ちゃんとお店屋さんしてるの。
さあ、買っていってくれていいのよ?」
胸を張って言う真希に苦笑しながらも、
雷斧は一つ一つ品定めをしていく。
「どれどれ…あ、浴衣だ。
夏に向けて、新調しとこうかな…」
「今なら、変身薬もつけるよ」
「いや、それはいらないっす。
え、これは何すか?真希さん」
指をさした先には、
何やら黒い金属の塊が山になっている。
鉱石ではないようだが…
「あー…それね。
姉さんがね、知人の付き合いで冒険に出かけたら
そこで大量に拾ったんだって。
あんまり需要が無いのよね…
あの人、捨てるっていうことが苦手だから、
なんとか売ってきてくれって、
押し付けられたの」
真希がため息をつく中、
雷斧が問題のそれを手にとってみる。
「ああ、これは『型』か。
手裏剣に、マキビシまであるっすね」
「お?欲しくなってきちゃった?」
「いや、いらないっす」
ピシャリと断られた真希は、
渋い顔で雷斧を睨め付けた。
そんな視線を物ともせずに、
「姫さんの方は…あ、耳飾りっすか。
綺麗っすねぇ。でも、俺がつける訳にもいかないし…あ」
「ん?どうかしたのかや?」
「覇道の装備箱あるじゃないっすか」
耳飾りのついでに、
ある場所で拾った箱も販売していたのだ。
開けると、希望の武具を手に入れられる、
不思議な箱である。
「え?安っ!市の三分の一じゃないっすか、
いいんすか?こんな値段で」
「うむ。今日は損得抜きで楽しもうと思うてな。
欲しいなら、いくつでも持って行っていいぞ?」
「ちょっと待ってください。
知り合いで欲しがってる奴いたので、
呼んでくるっす!」
そこからが、賑やかなものだった。
雷斧の知人数人が訪れてからは、
「おお、いいじゃん!その浴衣。
粋だね、いなせだねぇ」
「え?!この団扇、付与までしてある!」
「…ちょっと、変身薬飲んだら、
なかなか戻らないんだけど…」
周りにも聞こえるくらいの楽しげな様子に、
ちらほらと通りがかりの人達も、
店へと近づいてきた。
この状況を作ってくれたのは、
他でもない、雷斧のおかげだと、
姫巫女と真希は心の中で礼をいう。
そんな中、姫巫女が、
「あの、すいません」
と、突然声をかけられた。
振り向くと、
忍び装束の女性がにこやかに立っている。
初めてのお客さんだ。
「あ、えっと…いらっしゃいなの…
いらっしゃいませ。
何かご入り用ですか?」
いきなり、初対面の方に普段の口調は驚かせてしまうだろうと、努めてお淑やかに振る舞う。
隣の真希が、笑いを噛み殺しているのが見えた。
「この耳飾り、四種類を一つずつ貰えますか?」
「はいっ。
染料は無料ですが、どれがいいですか?」
「んと…赤、青、緑、金でお願いします」
「ありがとうなのじゃじゃなくて、
ありがとうこざいます!」
慌てて言い直す姫巫女に、
彼女は怪訝そうにしながらも、
「こちらこそ、ありがとうこざいました」
と、笑顔で去って行った。
その後ろ姿を見送った後、
「真希、真希!
売れた!売れたのじゃ!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら、
満面の笑みで彼女に報告する。
「うんうん。良かったねぇ」
「うん!」
真希に頭を撫でられながら、
姫巫女は満足気に頷いた。
そして、その時も訪れる。
「あのー、ちょっといいですか?」
今度も忍者のお客さん。
全身を黒で固めた男が、真希に声をかける。
「はいはい、何かいいものありました?」
「それを見せていただいても?」
男が指差したのは、例の『型』の山だ。
「え?」
思わぬ事に、思わず固まる真希。
「売り物ではないのでしょうか?」
「いえいえ!どうぞ見てってください!」
軽く会釈して、男は『型』を手にとる。
頭巾で目元しか見えないが、
とても真剣な眼差しだ。
真希と姫巫女が固唾を飲んで見守っていると、
「…素晴らしい!」
男が声を上げる。
え?
「私は各地の骨董などを集めてまわっているのですが、この艶、手触り、佇まい…完璧だ。
魂が震えるのを抑えきれません!」
なんてキラキラした目をするんだ…
真希たちは、若干引きながらも、
その輝きに感心していた。
「ああ、全ていただいていきたいが、
一人何個までよろしいのでしょうか?」
「いや、決めてないので、いくつでも…」
「本当ですか?!
ああ…貴女は女神様ですか?
こんな幸せが訪れるとは…感無量です!」
どこの作法か。
男は跪くと、真希の手を取り、こうべを垂れた。
数万貫のお金を置いていこうとする男を、
二人で慌てて説得して、数十貫にて販売する。
それでも、貰いすぎと感じる真希は、
実に複雑な表情だ。
そんな彼女に、
姫巫女が声をかける。
「世の中、いろんな方がいるものじゃの…」
「ほんとね…」
「…『型』だけに、の」
「姫ちゃん…それはないわぁ」
「…」
さて、
日も傾いてきて、そろそろ店じまい。
後片付けを進めていると、
「ごめんなさい、まだ良いですか?」
という声が。
そこにいたのは、
先ほど耳飾りを買ってくれた女性だ。
「はい。どうかしましたか?」
そう姫巫女が答えると、
「さっきつけてみたら、金色がとても綺麗だったので、あと三ついただけますか?」
「ええ、もちろん!」
なんて嬉しいことだろう。
自分が作ったもの、売っているものが、
誰かに喜ばれることが、
こんなに幸せなものなのか。
「真希、今日は楽しかったの!」
「うん、またやろうねっ」
「今度は男の人向けに、
ヒゲの商品を作ってみるのじゃ」
「ええ?そんなものがあるの?」
「うむ。調べてみたのじゃがの…?」
帰り道。
二人は次回の企画を話しながら、
テクテク仲良く並んで歩く。
以前、共に世界を駆け回った仲間たち。
今は離れた場所にいる彼らを思うと、
寂しい気持ちになる。
それは当然のことだ。
だが、その心を温かく包んでくれる、
支えてくれる存在がいる。
今まで出会った人たち。
今ともに過ごす人たち。
今から出会うであろう人たち。
すべてが愛おしくて仕方がない。
そんな思いを胸に、
姫巫女は笑顔で今を生きる。
だから…
「これからも、仲良くしてたぁもれ♪」
ニッコリと笑って友の手を握る。
素敵な想いが伝わるように。
かけがえのない絆が続いていくようにと。
〜結〜
日本の各地に伝わる『羽衣伝説』
空から舞い降りた天女と、
その美しさに心を奪われた人間との物語。
その発端を、その経緯を、
その結末を知る時、
人の心には、どんな想いが生まれるのだろうか…
舞台は、ここ『近江』
今こそ語ろう。
天と地の狭間に揺れる物語を。
次回「近江天女伝説」
尋ね人
…さあ、貴方の胸には、どのような『想い』が?
☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません。
☆信on記事のランキング
よろしくおねがいします!
にほんブログ村