自己の内なる何かを誰に何を言われようがどんな境遇生活環境にいようが表現しようともがくのが本物の芸術家であろう。自分も十代二十代の頃は何かしら世に知らしめるべき思考思想妄想感性なんかがあると思い込んでいたが、齢を重ねるにつれ己の中身のなさ薄っぺらさをおもいしるばかりである。しかも、自分はじぶんの周囲の事象が「噛み合う」事を切望しながらそうなることを避けてしまう傾向がある。「噛み合わない」状態に身を委ねてしまうのである。つまりはめんどくさがりであり責任を負うのが怖いのである。そういう意味では少しも真面目に生きてこなかったと言える。やはり人間、若いうちが勝負なのだ。ただ怠惰に過ごしてしまったツケが四十代にもなると廻ってくる。もはや取り返せないのだな、と表題の小説の読後感である。